第4話 俺んちの中の見知らぬ女性

文字数 449文字

「たける、くん」
「……あ」

 さくらちゃん?

 たけるくんは穏やかな風貌に、驚きをにじませた。背がだいぶ伸びている。
「なつかしいね! 何年ぶり?」
「うん……」
 一瞬、自分の声がつまった。目頭が熱く、鼻の先がツンとする。
 身の丈だけでなく、年齢という艶も増した顔で、彼は微笑んだ。
「福岡から大変だったろ?」
「引越し先、覚えててくれたんだ」
「当たり前だよ」

 お別れした頃、互いに小学生でスマホを持っていなかった。
 それでもしばらくは、パソコンでメールもしていた。
 日々の暮らしにまぎれて、いつのまにかやり取りは疎遠になっていく。
 
 遠く離れてしまうと、何かがズレていくもんなんだな……。
 
 仲良しだったのに、ただ自然とそうなっていった。


「お正月の地震、大丈夫だった?」
「すさまじかったよ。でも俺んちは誰もケガしないですんだ」
 俺んち、のなかに私が見知らぬ女性もいるのかもしれない。
 たけるくんのわきで、手持ちぶさたに足をブラブラさせている、はるとくん。の、母……。
 ふっとかすめた想いを、とりあえず飛ばす。





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