第2話 変わらない家 変わった今

文字数 578文字

 古い酒蔵の、くずれた壁。
 老舗漬物屋の、ずれた石垣。
 こどもの頃『お化け屋敷』と呼んでいた廃屋は、みごとにつぶれている。
 それでも、ふるさとの町は残っていた。

 これがもし、能登半島のどまんなかだったら。
 すうっと、背筋が寒くなった。
 
 うららかな青空は、元旦の衝撃を忘れた顔をしている。
 物資も、日光も、あまねく行き渡っている、と言わんばかりの。

「でも、たくましく咲いてるな……」

 福岡じゃほとんど散ってしまった桜も、ここでは満開。
 道端も山も絵付けしたかのように、桃色を混ぜた白に煙っている。

 引っ越してから、15年。

 ひなびた坂の中に現れた、むかしの家。
 いまは他人が住んでいる。

 記憶より古びているはずなのに、かわらない門、かわらない扉、かわらない窓。
 無事だった。

 スマホを向ける。
 この家の思い出写真はあるけれど、今、を残しておきたい。
 祖父母が生きてたら、この写真見せれば喜んだろうな。

 となりの駄菓子屋さんは、空き屋になっていた。
 ひざにからまる雑草をかき分け、生家の庭を脇からのぞきこむ。

「ない」

 桜の木は伐られていた。人工芝の緑だけが、ひろがっている。

 ……わたしの家じゃ、ないんだもんな。

 そっと離れた。

 かつて親のセダンが停まっていた駐車場を眺めていたとき、坂になっている裏手から、小さな男の子が降りてきた。


 まさか……たけるくん?


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