第3話 ガキの頃のラクガキ

文字数 492文字

 坂の上に住んでいた、ひとつ年上の幼なじみによく似ている。いつも、なかよくしてくれた。

 そうだ。きっと、たけるくんの子供だ。

 胸に、かるい痛みが走る。
 もう、ほかのひとと結婚しててもおかしくない。
 いや、わからないよ。甥っ子かもしれないし……。

「おねえちゃん、だれ?」
 男の子は、突っ立っている私を不思議そうに見た。
 日光が、髪の毛につやつやとした輪をつくっている。
「わたしね、昔ここに住んでたんだよ」
 首をかしげる男の子。
「そうなの? みおちゃんちに?」
「みおちゃん……より先に、この家にいたの。二階の廊下に、桜の絵残ってない? 壁に描いたピンクのマジックのね。あれ、私」
 それを聞いた男の子は、目を輝かせた。
「みおちゃんのラクガキじゃなかったんだ!」
 たけるくんに似た彼と私は、目を見合わせた。
 私たちはいま立派に、近所に住む人間どうしになった。

 でもほんとは。

 わたし一人のいたずら書きじゃ、ないんだけどね……。
 これ以上は、秘密にしておきたい。なんでかな。

 坂の上から、声が響く。
「はるとー」

 男の子と私は、同時にうしろを振りむく。
 石段を降りてきた、見覚えのあるまなざし。
 




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