第7話 純粋な好青年か……カモだな!

文字数 3,014文字

 俺は東条屑。幼馴染の居眠り運転原因で死んだ俺は異世界へと転生した。

 俺と和と詩織の三人はギルドの机を囲むように座っている。

「今日はどうする?」

「任務だ。お前らのせいで絶賛金欠だからな」

 そう俺達三人は金欠である。理由は和と詩織の二人が一晩にして全財産を散財したからだ。

「そうかそれは大変だな」
 和は、他人事のように清々しく言った。

 こいつまるで他人事のように言いやがって……。

 そこに一人の男が近づいて来た。見た目はどこにでもいる高校二年生程度の若い男性強いて言うなら
優しそうな見た目をしている。

「あのパーティー募集の張り紙を見たんですけど」

 おお!昨日張っておいた張り紙で早速人が来た。

「お名前と役職はなんですか?」

「リョウ、冒険者です。」
 リョウ君は冒険者ライセンスを手渡してきた。

 職業が冒険者?冒険者職業の冒険者ってことか?紛らわしいな。まあ前衛さえできれば何でもいいか。

「冒険者ですか、では前衛出来ますか?」
「出来ます!」
 リョウ君は歯切れよく元気に答えた。

 ほう随分と良い感じの好青年か……カモだな!どうせ人に強く言われたり頼まれたりしたら断れないだろ。

「では今から任務行くのでお試しという形で行ってみて判断させてもらいます」

「やったわ、これで囮引退よ」
 詩織は勢いよく立ち上がった。

「リョウが採用されればな」

「簡単そうな任務選んでくるわ!」
 詩織の後を追いかけ俺達は掲示板に向かった。

 ぜひともそうして欲しいものだ。折角来てくれたかもなのだから逃したくはない。

「これなんてよくない?ウルフドッグ討伐任務なんと報酬は五万ギラ」
 手に持っている任務依頼の紙を指差した。

「これでいいですか?」

「はい問題ないです。」

「やったわ」
 詩織はガッツポーズをとり受付嬢に向かった。

「この任務受けます。馬車もお願いします」
 詩織は任務依頼の紙と千ギラを受付嬢に手渡した。

「分かりました。任務頑張ってください」
 受付嬢は任務依頼の紙を受け取った。

「早速任務に向かうわよ」

「了解」
 和が元気よく答えた。俺達はギルドから出て馬車乗り場に向かった。

「これだな、早速乗っていくか」
 俺達は馬車に乗った。

「あれ御する人いないのか?」

「はい、ギルドの馬車は基本的に自分たちで御します。」

「じゃあ誰が御す?」
 和がこちらに質問した。

「私は無理よ!もし私になったら居眠りして全員で死ぬわよ!」

 は⁉この女……、俺と和を殺したこと本当に反省してんのか?いつか絶対俺を殺したことを後悔させてやる。とはいえ和には無理だろうしリョウ君は未青年っぽいから俺がやるしかないのか。

「分かった、俺がやる」

「屑いいのか?帰りは俺が御すか?」

「お前昔車運転したとき人格変わって墓場に突っ込んだだろ」

「そうだったな」

 『そうだったな』じゃねえよ!ハンドルを握った瞬間に『いやん、あなたとなら死んでもいいわ』とかオネエ人格に変わって墓地にアクセル全開で突っ込んだくせに!

「それにしても馬車に乗るのは初めてね」
 詩織は馬車の中を見回した。

「え⁉馬車乗ったことないんですか?」

「ここの馬鹿二人がお金を全部使ったので馬車代払えなかったんです。」
 細い指は力強く和と詩織を指差した。

 この二人がバカみたいな金の使い方をしたせいでこの前は何時間も歩いて疲れた。

「え?なんで詩織さんはお酒飲んでいるんですかこれから任務ですよ」
 リョウ君は詩織が酒を飲んでいることにドン引きした。

 はぁ⁉何でこいつ酒飲んでいるんだ、金はどうしたんだ?というか今から任務なのに、このバカ!

「大丈夫だよ。こいつ僧侶だから酔っても治せるんだよ」
 和がリョウ君に説明した。

 そういう問題じゃないだろ、このバカ共が!今はリョウ君がいるから出来ないが宿に着いたらしっかり説教してやる。

「そういう問題なんですかね……。」

「着いたぞ」
 俺の言葉で全員が馬車から降りた。俺も馬車から降りて馬の手綱を木に結び付けた。

 目の前にはどこまでも綺麗な黄緑の地平線が続く草原だ。そんな草原にポツンと巨大な狼がいる。

「見つけたあれがウルフドッグか」
 和は離れた場所にいる体長三メートルほどの赤目の巨大な狼を指差した。

 は⁉楽そうな任務選ぶって詩織言ってたよな、昨日のグリズリーベアより明らかに強そうだろ……。どうやって倒すかなとりあえず様子見するか。

「試しに打ってみるかフレア!」
 俺は杖先からウルフドッグに向かって火の玉を放った。ウルフドッグは何事もなかったかのようにしている。

 え……、全く効いてないんだけど……、集中砲火でも倒せないんじゃないか?

 ウルフドッグは俺達に気づきこちらに向かって走って来る。

「それじゃリョウ君前衛お願いします」

「分かりました詩織さん見ていてく……え?」
 元気に答えたリョウ君詩織のほうを向き詩織がまだお酒を飲んでいることに気づいた。

 やはりそうか……、とは言えアル中女が何まだ酒飲んでるんだよ。この任務が終わったら必ず後悔させてやる。

「え?らに?」
「詩織さん見ていてください」
 そう言ったリョウ君はウルフドッグの方を向いた。気が付けばウルフドッグは目の前に来ていた、ウルフドッグが前足で和を切り裂こうとするがリョウは剣を抜き前足を受け止めた。

「おぉ!」

 ちゃんと前衛出来て強いな、これはますますパーティーに欲しい。

 俺と和は数歩歩下がった位置からフレアで攻撃する。ウルフドッグが弱り吠えた、すると奥からウルフドッグの群れが走ってくる。

「やばい、僕もう少し離れた位置からサポートしますね」

 俺は後ろを向きウルフドッグとは反対方向に走る。

 あれは無理だ!一匹なら頑張って討伐しようと思えるが十数匹いるのに討伐はしようなんて思えない。こっちが討伐されてしまう俺だけでも逃げるんだ、気が向いたら墓参りしてやるからな。

「僕もそうします」
 和は俺を追いかけるように走る。

「コンディションリカバリー(状態異常回復)、私もそうする」
 詩織はスキルで酔いを醒まし俺達を追うように走る。

「了解です」
 ウルフドッグの群れがリョウの目前まで来ている。

「なんでそんなに遠くに行くんですか早く攻撃してくださいよ」
 と、遠くに離れた俺達に聞こえるように大声で言った。

 嫌だ、前衛手に入れるためだけに命張りたくない。前衛についてはまたギルドで募集を掛ければいいだけの話だ。

「気付いていないふりをしろ、どう考えてもあの群れには勝てる訳がない」

「屑同感だ。リョウ君彼は実にいい奴だったただ相手が悪かった」

「仕方のないことよ、忘れなさい」
 俺達は足を止めることなく走り続ける。

「まさか、僕を置いて逃げる気じゃないのか、待ってくださいよ」
 リョウ君は俺達三人を追って走り出す。

 チッ!流石にバレたか……。

 十分後、俺たち全員は街まで戻っていた。ウルフドッグについては俺達が街に近づいたことで諦めて草原に戻って行った

「はぁ……はぁ……酷いですよ。はぁ……僕一人置いて逃げるなんて。やっぱり僕パーティー加入辞めます」
 リョウ君は疲れ果てて息を切らし、両手を膝についている。ボタボタと汗が額から頬そして顎に流れて、地面に垂れている。

 やばい……!リョウ君優秀だし前衛に欲しかったのだが、何とか交渉しなければ……。

「それはダメ、お願いパーティーに入ってもう囮は嫌なの」
「囮?」
 リョウ君は詩織の言っていることに首を傾げ眉間に皴を寄せて問い返した。
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登場人物紹介

東条屑

南詩織

西宮和

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