4$ I just wanted to be with you(3)
文字数 4,317文字
頭が痛い。
喉の奥が乾いて、粘膜がくっついている感じがする。
目は開いていると思うけど、かすんでてよく見えない。
体が鉛みたい。こんなの、ずいぶん久しぶり。
記憶にある限りだと、あの糞野郎に拾われる前か、いや、すぐにか。囮に使われて、変態糞馬鹿野郎にボコられてマわされた時。
死にかけた時は、こうなる。
じゃあ、死にかけたんだ。
「あ、でーと……」
思い出した。仕事を終わらせてデートに行こうってあかねと約束してた。
少なくとも死にかけた時の状態になってるってことは、あたしはまだ死んでない。
「いきたい……」
体を無理やり起こそうとしたけど、いう事きかない。
「生きたい? てめえみたいなイカレ糞アマが何言ってんだ」
明らかにブチギレてるのを抑え込んでる声。
で、このオス豚のいきり声みたいなのは、聞き覚えがあるな。
「あれー? プライドが高いだけの腐れ暴力警官の声がするぅ。早く死んじゃえばいいのになぁ?」
心の底から願っています。ってやつ。
「ガタガタうるせえな。ザコヤクザのくせに、世間様の平和を守る警察官に楯突くんじゃねぇよ」
見えるようになってきた目で、ベッドの横に立ってる中肉中背のおっさんを見る。
見るからに不機嫌そうな中年オヤジは、前から何回もいちゃもん着けてくるし、事あるごとに殴ってくるから大嫌い。
このおっさんがいて、病院の臭いがする。きっと撃たれて警察病院か何かに緊急搬送されたんだと思う。
「そのザコ一匹捕まえられなくて、ぴーぴー喚いてるだけなのに、何をえらそうに。町の交番勤務の方がよっぽど世間様の役にたってんじゃないですかぁ?」
痛恨の一撃をくれてやる。
こいつは確かに優秀な刑事なんだと思う。ヤクザ顔負けなやり方で、バンバン同業者を逮捕している。
でもプライドが高い。一人でもあたしらヤクザがいる事を許容できない。
一瞬で顔を真っ赤にさせて、腕を振り上げる。これで一発でも殴らせておけば、あとあと役立つ。してやったりと思ったけど、おっさんはにやって笑って手をそのまますとんと下げた。
おかしい。いつもならこのまま顔面殴ってくるはずなのに。
「へ。そうやって喚いてろ。ザコらしくな」
なんだ、この感じ。いつもと違う。
おっさんはにやにや気持ち悪い顔で部屋を出ていく。
「あ、そういえばてめぇの聞き込みしてたら、あの馬鹿っぽそうな茶髪のガキが誰か聞かれたからよ、お前の情婦だって言っておいたぜ? 合ってるよな?」
「は?」
何言ってん?
あたしの聞き込みしてる時に、話した?
何やってんだ、こいつ。
何でここに銃がないんだろう。今すぐこいつを撃ち殺してやるのに。
違う。罠だ。
姑息で、ずるがしこく、目的の為なら何でもする小悪党。警察官とは名ばかりで、結果が違うだけでうちらとやってる事は変わらない。
そんな悪党が、悪党に情報を流した。
あたしの事を嗅ぎまわってるってことは、絶対報復を考えてる連中。そんなのこの街にごまんといる。
人質をとって報復をする? いや、ばらしてトランク詰めにして玄関に置いておく?
あたしならトランク詰め一択。面倒になる前にさっさとバラシてお届けした方が楽だし、なにより精神的にダメージを与えられる。
「ぶっ殺す……。あかねになにかあったら、お前、ぶち殺すからな?」
「は!? ザコヤクザが吠えてろ!」
今度こそおっさんは部屋を出て行った。
頭の中がどんどん冷たくなってくる。
寒い。怖い。どうしよう。
あかねに何かあったら、どうしよう。
怖い思いしたら、怪我したら? 回されてるかもしれない。何時間経った?
携帯電話。
スマホがない。
くそ。
手に刺さった点滴が邪魔くさいから、全部引き抜いて、体を起こす。なんか違和感を感じたけど、そんなのどうだっていい。
ベッドから飛び起きて、部屋を出る。安いっぽい入院着のままだけど、気にしてられない。
ここはたぶん中野の警察病院。荷物は一式全部ないし、携帯電話も銃も撃たれて逃げた時に捨てて来た。お財布は、証拠として保管されてると思う。
一般病棟から出られれば、入院患者として上手く逃げられるかも。
とにかく一秒でも早く、あかねの安否確認をしたい。
警察病院だから、特別病棟 の出口は一つで警察官がたちんぼしてるはず。
窓から脱出。格子ついてるし、そもそも5センチ以上開かないし、ワイヤー入りの防犯ガラスで割れない。
職員用、もしくは急患用通路。同じように警官がたちんぼしてる。
たちんぼしてる警察官買収する。現金持ってないし。色仕掛けできるほど、ナイスボディもしてない。
ダメだ、出られない。強行突破? 日本の警察官はそんな甘くない。絶対途中で引き留められる。
どうするか。何も考えないで病室を飛び出したらか、もしかしたらもういないのがばれているかもしれない。ばれてるだろうな。心電図とかも外してたら、反応消えたって医者がすっ飛んでくるはずだし。
医者がすっ飛んでくるかも? いいじゃん。それでいこう。
近くのトイレに隠れて少し待つと、騒がしくなった。よしよし。
しばらくトイレの個室で待っていると、看護師さんが入ってきた。
「立華さん!? いますか!?」
声から体型とか考える。閉まっている個室をひとつずつ開けて確認している。
それであたしのところを開けた瞬間、抱きしめて引き込んだ。片手で口を塞いで胸ポケットからボールペンを抜いて、それを罪もない彼女の喉に押し付ける。
「騒いだら殺す。いう通りにしなくても殺すOK?」
事情を察したらしい若い看護師さんは目を見開いて固まる。それから小さく首を縦に動かした。
「あたし、今すぐここを出たいんだ。悪いけど、着てる服全部脱いで」
「ッ!?」
びくっと体を震わせた彼女。変な事しないよ。
「変な事しないよ。服貸してほしいだけ。10分で出るから、そしたら勝手にしていい。OK?」
横目でこっちをじっと睨む看護師さん。
「あたしが何の容疑かけられてるかしってるでしょ? 悪いけど時間かけるようならさっさとあんた殺して服取るだけだからさ。早くして」
微かなうめき声を漏らしながら、彼女は頷いた。
パッと手を離すと、睨みつつ怯えつつという感じでおとなしく服を脱いでくれた。
昔なら変な気でも起こしてイタズラしてただろうけど、今はそんな気全く起きない。目の前の人も美人だとは思うけど、そんなことよりもあかねの事が心配なのと、もう彼女以外では欲情しないんだなって思った。
脱いで渡された服をありがたくお借りして、入院着を脱いでさっさと看護師の服を着た。
「これ、代わりに着てて。10分だけまってて。そしたら逃げ出すから」
「……なんで、そんなに焦ってるの?」
親切な看護師さんは当然の疑問を言ってきた。
「大切な人、大好きな人が、もしかしたら殺されるかもしれない。警察なんてアテにならないし。だからあたしが助けに行かないと」
「……貴女、傷ふさがってないんだよ?」
「あたしはいい。でも、あの子は絶対、これ以上巻き込んじゃダメなんだ」
本心からそう思う。彼女はこれ以上、不幸になっちゃダメだ。クスリのフラッシュバックがなくなったら、こんな街から離れて、普通の高校生に戻るべきだから。
そのために、早く身の安全を確認したい。
「名札のIDカードで職員用エレベーターに乗れる。あと、ズボンのポケットに車の鍵入ってるから。品川3※※3506の白のTT」
「え? いいの?」
「全部終わったら返してよ」
「ありがとう」
優しい看護師さんを残して、言われた通りに病院を出る。
あたしの住処まで行って、部屋の中を見たけど誰もいない。
予備の携帯電話を出して電話をかけたけど、繋がらない。電波が入っていないかーというアナウンスしか流れない。
拉致されたかもしれない。いや、されているだろう。あのおっさんが情報をリークしたなら、それ相応にヤバい所。
なんで?
メリットはなに?
考えられるのは、情報を流して拉致させる。それに怒り狂ったあたしが奴らん所に突撃。全員ぶっ殺す。そこを盗撮して組織共々一網打尽。そんな所だろう。あの小狡い狸おやじが考えそうだ。
そんなくだらない事に、あかねを巻き込んだのかと思うと、今すぐぶっ殺してやりたくなる。でもそれで何かが変わるわけじゃない。ガンロッカーから必要な道具を鞄に押し込む。
でかいコンテナバッグに本体を詰め込んで、箱に入った弾を弾入れに移し替える。この作業がもどかしいけど、銃がないあたしなんて何の役にも立たないからしかたない。
銃は2つ。けん銃とデカいやつ。デカいのはクッキーが入ってそうな弾入れに20発も込めるから面倒。でも、一番パワーがある。同じ銃なのに、使える弾がいくつもあって、散弾から親指より太い鉛の塊も撃てる。ドアを壊したりなんでもできる。
いつものけん銃でもたいていは対応できるけど、今回はもっとヤバい相手かもしれないから、最大限備える。
クッキー缶のほかにも筆箱タイプのにも弾を入れておく。こっちは8発しか入らないけど、あんまり使いそうにない種類を込めて、分かりやすいように赤いビニールテープを巻いて張っておく。
クッキー缶を5つ、筆箱を4つ。あと念の為に散弾が25発入った箱も鞄に詰める。
服も看護師の服じゃダメだから、セーターと動きやすいショーパンに着替えて、防弾ベストを着こむ。露骨だから上から4Lサイズのパーカーを羽織って隠す。
「よし」
準備は整った。地下に降りて、組が置いておいてくれた車に乗り込んで出発。
ハンズフリーにして、電話をかける。
『何か用か?』
「わかってるっしょ。あたしの女がさらわれた」
『捨ておけ』
「うちのメンツつぶれるけど?」
『女ひとり拉致されたくらいで、組のメンツはつぶれない』
「バカかよ。女ひとりシマからパクられて、黙って見てたなんてよそに思われてみろ。うちらは腰抜けの玉無しぞろいって言われるぞ?」
『……言う様になったな』
「いいから。面、分かってるんでしょ? 早くして」
『やるなら徹底的にやれ。あと、あの警察官が嗅ぎまわっている。バレるなよ』
「見つけてぶっ殺す」
『警察に手出しするな。上の連中も身内をやられたら、今までのようにはいかなくなる』
「ならその上の連中に、飼い犬には手綱をしっかりつけておくように言って聞かせろ」
『言って聞くなら、そもそも狂犬には落ちていないだろ』
「なら害獣駆除だ」
『くれぐれも殺すな。”死体が見つかると面倒だ”』
「クソったれ」
通話はそこで切れたけど、車のナビには自動的に目的地が設定された。
「死体が見つかると、ね……」
なるほど。それは、いい。
喉の奥が乾いて、粘膜がくっついている感じがする。
目は開いていると思うけど、かすんでてよく見えない。
体が鉛みたい。こんなの、ずいぶん久しぶり。
記憶にある限りだと、あの糞野郎に拾われる前か、いや、すぐにか。囮に使われて、変態糞馬鹿野郎にボコられてマわされた時。
死にかけた時は、こうなる。
じゃあ、死にかけたんだ。
「あ、でーと……」
思い出した。仕事を終わらせてデートに行こうってあかねと約束してた。
少なくとも死にかけた時の状態になってるってことは、あたしはまだ死んでない。
「いきたい……」
体を無理やり起こそうとしたけど、いう事きかない。
「生きたい? てめえみたいなイカレ糞アマが何言ってんだ」
明らかにブチギレてるのを抑え込んでる声。
で、このオス豚のいきり声みたいなのは、聞き覚えがあるな。
「あれー? プライドが高いだけの腐れ暴力警官の声がするぅ。早く死んじゃえばいいのになぁ?」
心の底から願っています。ってやつ。
「ガタガタうるせえな。ザコヤクザのくせに、世間様の平和を守る警察官に楯突くんじゃねぇよ」
見えるようになってきた目で、ベッドの横に立ってる中肉中背のおっさんを見る。
見るからに不機嫌そうな中年オヤジは、前から何回もいちゃもん着けてくるし、事あるごとに殴ってくるから大嫌い。
このおっさんがいて、病院の臭いがする。きっと撃たれて警察病院か何かに緊急搬送されたんだと思う。
「そのザコ一匹捕まえられなくて、ぴーぴー喚いてるだけなのに、何をえらそうに。町の交番勤務の方がよっぽど世間様の役にたってんじゃないですかぁ?」
痛恨の一撃をくれてやる。
こいつは確かに優秀な刑事なんだと思う。ヤクザ顔負けなやり方で、バンバン同業者を逮捕している。
でもプライドが高い。一人でもあたしらヤクザがいる事を許容できない。
一瞬で顔を真っ赤にさせて、腕を振り上げる。これで一発でも殴らせておけば、あとあと役立つ。してやったりと思ったけど、おっさんはにやって笑って手をそのまますとんと下げた。
おかしい。いつもならこのまま顔面殴ってくるはずなのに。
「へ。そうやって喚いてろ。ザコらしくな」
なんだ、この感じ。いつもと違う。
おっさんはにやにや気持ち悪い顔で部屋を出ていく。
「あ、そういえばてめぇの聞き込みしてたら、あの馬鹿っぽそうな茶髪のガキが誰か聞かれたからよ、お前の情婦だって言っておいたぜ? 合ってるよな?」
「は?」
何言ってん?
あたしの聞き込みしてる時に、話した?
何やってんだ、こいつ。
何でここに銃がないんだろう。今すぐこいつを撃ち殺してやるのに。
違う。罠だ。
姑息で、ずるがしこく、目的の為なら何でもする小悪党。警察官とは名ばかりで、結果が違うだけでうちらとやってる事は変わらない。
そんな悪党が、悪党に情報を流した。
あたしの事を嗅ぎまわってるってことは、絶対報復を考えてる連中。そんなのこの街にごまんといる。
人質をとって報復をする? いや、ばらしてトランク詰めにして玄関に置いておく?
あたしならトランク詰め一択。面倒になる前にさっさとバラシてお届けした方が楽だし、なにより精神的にダメージを与えられる。
「ぶっ殺す……。あかねになにかあったら、お前、ぶち殺すからな?」
「は!? ザコヤクザが吠えてろ!」
今度こそおっさんは部屋を出て行った。
頭の中がどんどん冷たくなってくる。
寒い。怖い。どうしよう。
あかねに何かあったら、どうしよう。
怖い思いしたら、怪我したら? 回されてるかもしれない。何時間経った?
携帯電話。
スマホがない。
くそ。
手に刺さった点滴が邪魔くさいから、全部引き抜いて、体を起こす。なんか違和感を感じたけど、そんなのどうだっていい。
ベッドから飛び起きて、部屋を出る。安いっぽい入院着のままだけど、気にしてられない。
ここはたぶん中野の警察病院。荷物は一式全部ないし、携帯電話も銃も撃たれて逃げた時に捨てて来た。お財布は、証拠として保管されてると思う。
一般病棟から出られれば、入院患者として上手く逃げられるかも。
とにかく一秒でも早く、あかねの安否確認をしたい。
警察病院だから、
窓から脱出。格子ついてるし、そもそも5センチ以上開かないし、ワイヤー入りの防犯ガラスで割れない。
職員用、もしくは急患用通路。同じように警官がたちんぼしてる。
たちんぼしてる警察官買収する。現金持ってないし。色仕掛けできるほど、ナイスボディもしてない。
ダメだ、出られない。強行突破? 日本の警察官はそんな甘くない。絶対途中で引き留められる。
どうするか。何も考えないで病室を飛び出したらか、もしかしたらもういないのがばれているかもしれない。ばれてるだろうな。心電図とかも外してたら、反応消えたって医者がすっ飛んでくるはずだし。
医者がすっ飛んでくるかも? いいじゃん。それでいこう。
近くのトイレに隠れて少し待つと、騒がしくなった。よしよし。
しばらくトイレの個室で待っていると、看護師さんが入ってきた。
「立華さん!? いますか!?」
声から体型とか考える。閉まっている個室をひとつずつ開けて確認している。
それであたしのところを開けた瞬間、抱きしめて引き込んだ。片手で口を塞いで胸ポケットからボールペンを抜いて、それを罪もない彼女の喉に押し付ける。
「騒いだら殺す。いう通りにしなくても殺すOK?」
事情を察したらしい若い看護師さんは目を見開いて固まる。それから小さく首を縦に動かした。
「あたし、今すぐここを出たいんだ。悪いけど、着てる服全部脱いで」
「ッ!?」
びくっと体を震わせた彼女。変な事しないよ。
「変な事しないよ。服貸してほしいだけ。10分で出るから、そしたら勝手にしていい。OK?」
横目でこっちをじっと睨む看護師さん。
「あたしが何の容疑かけられてるかしってるでしょ? 悪いけど時間かけるようならさっさとあんた殺して服取るだけだからさ。早くして」
微かなうめき声を漏らしながら、彼女は頷いた。
パッと手を離すと、睨みつつ怯えつつという感じでおとなしく服を脱いでくれた。
昔なら変な気でも起こしてイタズラしてただろうけど、今はそんな気全く起きない。目の前の人も美人だとは思うけど、そんなことよりもあかねの事が心配なのと、もう彼女以外では欲情しないんだなって思った。
脱いで渡された服をありがたくお借りして、入院着を脱いでさっさと看護師の服を着た。
「これ、代わりに着てて。10分だけまってて。そしたら逃げ出すから」
「……なんで、そんなに焦ってるの?」
親切な看護師さんは当然の疑問を言ってきた。
「大切な人、大好きな人が、もしかしたら殺されるかもしれない。警察なんてアテにならないし。だからあたしが助けに行かないと」
「……貴女、傷ふさがってないんだよ?」
「あたしはいい。でも、あの子は絶対、これ以上巻き込んじゃダメなんだ」
本心からそう思う。彼女はこれ以上、不幸になっちゃダメだ。クスリのフラッシュバックがなくなったら、こんな街から離れて、普通の高校生に戻るべきだから。
そのために、早く身の安全を確認したい。
「名札のIDカードで職員用エレベーターに乗れる。あと、ズボンのポケットに車の鍵入ってるから。品川3※※3506の白のTT」
「え? いいの?」
「全部終わったら返してよ」
「ありがとう」
優しい看護師さんを残して、言われた通りに病院を出る。
あたしの住処まで行って、部屋の中を見たけど誰もいない。
予備の携帯電話を出して電話をかけたけど、繋がらない。電波が入っていないかーというアナウンスしか流れない。
拉致されたかもしれない。いや、されているだろう。あのおっさんが情報をリークしたなら、それ相応にヤバい所。
なんで?
メリットはなに?
考えられるのは、情報を流して拉致させる。それに怒り狂ったあたしが奴らん所に突撃。全員ぶっ殺す。そこを盗撮して組織共々一網打尽。そんな所だろう。あの小狡い狸おやじが考えそうだ。
そんなくだらない事に、あかねを巻き込んだのかと思うと、今すぐぶっ殺してやりたくなる。でもそれで何かが変わるわけじゃない。ガンロッカーから必要な道具を鞄に押し込む。
でかいコンテナバッグに本体を詰め込んで、箱に入った弾を弾入れに移し替える。この作業がもどかしいけど、銃がないあたしなんて何の役にも立たないからしかたない。
銃は2つ。けん銃とデカいやつ。デカいのはクッキーが入ってそうな弾入れに20発も込めるから面倒。でも、一番パワーがある。同じ銃なのに、使える弾がいくつもあって、散弾から親指より太い鉛の塊も撃てる。ドアを壊したりなんでもできる。
いつものけん銃でもたいていは対応できるけど、今回はもっとヤバい相手かもしれないから、最大限備える。
クッキー缶のほかにも筆箱タイプのにも弾を入れておく。こっちは8発しか入らないけど、あんまり使いそうにない種類を込めて、分かりやすいように赤いビニールテープを巻いて張っておく。
クッキー缶を5つ、筆箱を4つ。あと念の為に散弾が25発入った箱も鞄に詰める。
服も看護師の服じゃダメだから、セーターと動きやすいショーパンに着替えて、防弾ベストを着こむ。露骨だから上から4Lサイズのパーカーを羽織って隠す。
「よし」
準備は整った。地下に降りて、組が置いておいてくれた車に乗り込んで出発。
ハンズフリーにして、電話をかける。
『何か用か?』
「わかってるっしょ。あたしの女がさらわれた」
『捨ておけ』
「うちのメンツつぶれるけど?」
『女ひとり拉致されたくらいで、組のメンツはつぶれない』
「バカかよ。女ひとりシマからパクられて、黙って見てたなんてよそに思われてみろ。うちらは腰抜けの玉無しぞろいって言われるぞ?」
『……言う様になったな』
「いいから。面、分かってるんでしょ? 早くして」
『やるなら徹底的にやれ。あと、あの警察官が嗅ぎまわっている。バレるなよ』
「見つけてぶっ殺す」
『警察に手出しするな。上の連中も身内をやられたら、今までのようにはいかなくなる』
「ならその上の連中に、飼い犬には手綱をしっかりつけておくように言って聞かせろ」
『言って聞くなら、そもそも狂犬には落ちていないだろ』
「なら害獣駆除だ」
『くれぐれも殺すな。”死体が見つかると面倒だ”』
「クソったれ」
通話はそこで切れたけど、車のナビには自動的に目的地が設定された。
「死体が見つかると、ね……」
なるほど。それは、いい。