第1話

文字数 1,032文字

 平成一桁年の思い出である。僕は男子校の高校生だった。世間でいう所の進学校である。そのことは誇りであると同時に、窮屈さももちろん感じていた。周りに適当に合わせるところもあれば、僕だけのこだわりもあった。親との確執だって、それなりにあった。でも一つだけ、周りも自分も一致していたこと。それはやっぱり、「いい大学」に合格することだったと思う。

 部活もやっていたけれど、優先されるべきは勉強である。いろいろな誘惑はあれど、勉強時間はゼロにしない。受験直前の追い込みも含めて、間に合わせるための全体的な計画が常に頭にはあった。


 外部の模擬テストを受けるのは、意外に楽しみだった。予備校などの会場には、女子がいるからだ。令和の今なら犯罪と言われしまうかもしれないが、試験の合間に書かされる登録カードを覗き見て、名前と自宅の電話番号とを暗記する。実際に電話したこともあるが、その頃は家の固定電話。お父様に怒られました。何を隠そう、実話である。

 模擬テストには順位表というものがついてくる。自分の名前が載ると嬉しかったし、中学受験で見覚えのある奴を見つけて懐かしがったりもした。そして、やはり男子高校生である。女子の名前を見てはいろいろ妄想した。


 でも、と僕は立ち止まった。男子校とは言え、同年代の女子を全く知らないはずはない。彼女たちは高校生なりにオシャレをしていた。あの頃はまだ山姥は出現していなかったけれど、男子校生的には異世界だ。また、やはり芸能ネタにも明るい。もしこの模擬テストで名前を見かける彼女たちもそれらに時間を費やしているとすれば、勉強時間は自分より少ないはず。かといって妄想男子には、ダサダサ女子はどうしても想像できない。ということは、彼女たち、僕より賢い!

 さらに思った。進学重視の女子校にも家庭科などの科目もあるし(僕の通う男子校には、当時ありませんでした)、おそらく家では家事を手伝ったりもしているだろう。僕なんて、たまに皿洗いくらいはしたものの、基本的に全て母任せである。いや、母は僕にそういうことをさせようとはしなかったし、何より父が良い顔をしなかった。おそらく女子のいる家庭はこの逆だ。となると、ますます彼女たちは僕よりも勉強時間が少ないことになる。

 もし受験直前でそれらの障害が取り払われ、本気で勉強されたら、僕は多くの女子に抜き去られてしまうのではないか? そんな恐怖が僕を襲った。君たち、勉強するな! 見たこともない彼女たちに、僕は叫んだ。
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