第2話

文字数 1,184文字

 さて、いわゆる「いい大学」とされる世界の一つに潜り込むことには、とりあえず成功した。世はバブルの余韻を残す平成初頭。大学はレジャーランドのまま僕らを待っていた。学生は、遊びを知らないといけない。東京周辺からの自宅生である僕は、その遊びを経験済みであるかの如く装う。実際は女の子と話すことすらままならないのに。

 とっくにバレていたのだとは思うが、自分としてはそのメッキが剥がれないように怯えながら学生生活を送っていた。当初、本当にやりたいと思っていた学部ではない、という認識もあった(拙作「四十にして惑う」を参照していただけると嬉しいです)が、意外に面白い講義もあり、学問に目覚めたフリもしていた。もう遊びはいいよ、と。笑えるにもほどがある。


 サークルというのはしかし、そんな中で素晴らしいシステムを有していた。こんな僕でも同世代の女性と話したり、飲食したりできる。いっちょ前に、付き合いたいなという気分になってしまうこともあった。手練手管がないせいか、全く魅力がないのか、概ね玉砕型の片思いだったが。

 それはともかく、多くのサークルには、季節ごとのイベントがある。河原でバーべキュー何て言うのは、あのバブルの中では微笑ましい行事だったろう。ここで僕は、面白い状況に出会う。

 女子学生たちが、サンドイッチやおにぎり、あるいはデザートとなるお菓子を手作りして持ってくる習わしになっていたのである。僕ら男子は、器材を運んだり、運転したりはしたけれど、何か準備をしてくる、ということはなかった。そして一年生の頃は恐縮していただいていたが、三年生くらいになると、○○のは旨い、□□のは毎年ひどい、とかそんな軽口を叩きながら食べるようになる。これを和気あいあい、と単純に評して良いのか僕には分からなかった。そして帰りのドライバーを残し皆飲酒するが、やはりベロベロになるのは男子のみ。中には介抱してくれる女性もいる。いや、女性が介抱してくれる。僕も泥酔した年があるので、大きなことは言えないが、これは有りなのか?


 そしてやはり僕は思った。料理をしたり、介抱したりという技術をもち、本心はわからないがそれをやってくれる彼女たちの凄さを。同じ大学ではない女性も多かったが、皆受験勉強をくぐり抜けた人たちだ。いつの間にその技術を身につける? しかもメイクなどを含めた装いは、「オールナイトフジ」で見るような完璧すぎる女子大生スタイル。いつの間にそんなのできるようなる? 感謝しつつもその能力の高さと、自分たちの不甲斐なさを自覚してしまう。そしてやはり怖かった。いろいろなことが出来る女性たちには、仕事で(かな)いっこないのではないか? 



 だからまさか同じ大学の女子学生までもが、就職活動に苦しむとは思いもよらなかった。内定者顔合わせで会った同期の総合職女子には、最初から畏怖の念を抱いていた。
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