第4話

文字数 941文字

 就職氷河期と呼ばれる時期だったせいもあるだろうが、同期の一般職女性の中には明らかに優れた人、やる気に満ちた人も沢山いた。総合職で受験したが、一般職なら採用すると言われ入社したという女性は、一年で辞めてしまった。総合職の女性たちは逆に、そのやる気をなんとなく隠しつつ、しっかり実績は残す、というスタイルだったように思う。でもこの総合職の過半数は、結婚を機に退職した。

 僕も数年後に転職したのでその場には居合わせていないのだが、その後職種分けは撤廃された。あの支店同期のなかから全国トップテラー(窓口担当のことをテラーと言います)が誕生し、本部のインストラクターに抜擢された。結婚、出産を経て尚現役である。職種分けが健在だった頃から、大きいお腹で働く妊婦さんには優しい方の職場ではあったと思うが、きっと今はもっと良い環境なのだろう。また別の一般職だった同期は、今や海外支店の支店長になっている。新聞の人事欄に載っていて知ったのだが、もしかしたら総合職出身も含め同期の出世トップかもしれない(未確認です)。かつて恐れていたことが、現実になっているのだ。海外と言えば数年前にニューヨークで、トップテラーとは別の支店同期に会った。同業他社の男性と結婚し、駐在員の妻をやっていた。大変充実した生活のようだった。




 つまり幸せや充実には唯一の正解はないのだと思う。明確なゴールのある大学受験とは全く異なる訳だ。ただ、選択肢が自分以外の何かによって狭められるのは、やはりいただけない。もっとも最近の若者は選択肢が多すぎ、自分で決められずにかえって悩んでいるようにも見えるが。

 僕からすれば、男性がどうあがいてもできない体験もできる女性たちがむしろ羨ましいと思う。人生の経験は、必ず糧になる。その時はマイナスだと思ったことでさえも。だから余計に、様々な経験を有する相手に対しての恐怖心が増す。身近な女性であるはずの妻も娘も、やはり怖い。これは男子校出身だからこそ辿り着いた畏敬の念なのかもしれない。そして蛇足ながら、支店同期の皆さんとご一緒する時間がもし無かったら、その数年後に妻の関心を得るようなことも無かっただろう、と本気で思っている。ほら、必ず糧になるのだ。分ったかい、健壱少年!

 [完結]
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