第4話 アイへの予告/壊れていく少女
文字数 2,741文字
会話はアプリの中の文字だけのはずなのに、受信した全員の息を飲む声が聞こえた気がした。
さらにトシカズは次の画像も送ってきた。
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(画像の中のメッセージ)『ヘンジヲカエシタラ、モウ……ニゲ……ラ』
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場が凍りついた。あれだけ賑やかだったスマホが、トシカズのメッセージのバイブで震えたのを最後に、死んだみたいに動かなくなった。
こういう時は空気を読めない奴が最初に、静寂を破る。
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(あい) 『きもーい♪』
(一夜) 『……うん、同感……でもどうして「♪」なのか、アイを問い詰めたい!!』
(あい) 『え? 意味なんてナイヨ~♪』
(マリア) 『ねえ! 今それ追求しなくて、いいから!』
(トシカズ)『こんとは二つも来たよ! 怖すがぎる! どうしようuu!』
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誤字が多い。トシカズがパニクってるのがありありと分かる。
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(マリア) 『落ち着いてよ。冗談送るのも無し! そんな状況じゃないでしょう?』
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混乱しそうだった場を、マリアがおさめた。こういう時は
僕はマリアが周りの大人に認められる度に、いつも自分が誉められた以上に嬉しくなっていた。
だからついつい今も、さすがだなマリアと感心しかけた……が、慌てて否定した。違うだろ! こいつらは僕の敵なんだぞ? ニヤニヤすんな、自分! もう関係ないんだ。
僕が心の声に叱られている間にも、グループ・ボード上ではいくつものメッセージが流れては、上へと消えていく。
もののけ、お化け、変質者、殺人犯。想像が想像を呼んで、場は収集がつかなくなっている(特にイチヤが煽っているのだ)。
くだらない!
どうせ、誰かのイタズラとかそんなレベルのオチに決まっているのに。
僕は興味を失いかけて、また眠りにつこうとした。その時だった。
――――――
(あい) 『え、え? 嘘……』
(マリア) 『? どしたの?』
(トシカズ)『アイ?』
(一夜) 『アイ殿!!』
――――――
明らかにこれまでとは様子が違うアイの飾り気のない一文。皆が同じように異常を感じ取って、速攻で声をかける。
けれど――あの返事の早いアイが沈黙している。その静けさは、友人を知り尽くした四人だからこそ、異様だと感じとれた。
やがてスマホが苦しそうに震え出す。
――――――
(あいの画像送信)
(マリア) 『!!!』
(トシカズ)『え、え、え!』
(一夜) 『う、そ……だよ……それ!』
――――――
アイが送ってきたその画像の中には、まるでアイの震える様子を写したみたいに、ギザギザの文体で文字が書きなぐられていた。
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(画像の中のメッセージ)『ユキタニハ クッタ……ツギハ……アイ……オマエダ』
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僕は倒しかけた体をばっと起こした。その画像を開いて、拡大して見る。
鮮血を浸して書いたような真っ赤な文字が、凶暴にのたうっていた。次の獲物を見つけた喜びに、体をくねらせるみたいに。
雪谷を……く、喰っただって? 嘘だろ……しかも次は名指しで、アイの事が書いてあるぞ!
次の狙いがアイで、確実に『喰う』事を予告してるって事だ。
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(あい) 『え、え? 嘘……イヤだ! 私……ゴメン。雪谷くんと繋がってたの……それで《だいじょぶ?》て聞いただけなんだよ? そしたらこれ送られてきた……怖いよ、怖いよ、みんな!!』
(マリア) 『落ち着いて! なんにもないよ! ただのイタズラとかに決まってるから』
(トシカズ)『そうだよ、そうだよ。アイ、僕たちがいるからね!』
(一夜) 『でもさ、なんかすげえリアルだよな……』
(マリア・トシカズ)『イチヤ!!』
(あい) 『ねえ、どうしたらいい? どうしたらいい!? 怖い怖い怖い!!』
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パニックになったアイは、もう感情に溺れている。誰の問いかけにも反応せず、怖いを連投するしか出来ていなかった。
だがそれが、パタリと止む。
不気味な静寂に、僕は唾を呑み込んだ。たぶん他のやつらもそうだろう。
その中で、最も勇気のあるマリアがアイに呼び掛ける。
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(マリア) 『アイ……ねえ?』
(あい) 『……わ……』
(マリア) 『わ?』
(あい) 『わ……わ……わ……』
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奇妙な繰り返しの「わ」。まさか恐怖のあまり、壊れてしまったわけじゃないよな……アイのやつ。
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(マリア) 『わからないよ? 何が言いたいの?』
(あい) 『……わ……た……』
(マリア) 『わ・た? わたって何?』
(あい) 『……わ……た……し……の……こ……と……』
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何かの文を伝えたいのか。その奇妙なつぶやきに、マリアすら沈黙してしまう。
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(あい) 『わたしのこと……きにかけてくれるの だあれ?』
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童謡のような言葉。普段から子供っぽいアイなら書きかねないけれど、今は不気味でしか無い。
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(あい) 『わたしのこと……きにかけてくれるの だあれだ? ねえ、はなしかけてくれないの?』
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全文ひらがなの誘い。怖い。そう言われると、逆に誰も指を動かそうとしない。
アイを本気で心配しているトシカズが、恐怖に打ち勝って、メッセージを送ってきた。
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(トシカズ)『アイ……どうしたんだよ。みんな気にかけてるじゃないか』
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その言葉が契機となった。
予告なしに、スタンプがひとつ送られてきた。
それはドクロだった。闇に浮かび、口から血を流している不気味な骸骨。
そんな物は百パーセント、アイが持っていないはずの絵柄だった。アイコンの横に「アイ」の名前があるのが信じられない。
ひとつ、ひとつと繰り返し送信されるスタンプのドクロ。それは速度と数を増していく。
やがて下から上に流れる洪水のようになった。誰もメッセージを挟むことが出来ない。
スマホが壊れる! 皆がそう思った。その刹那、ピタッとスタンプの連打が止まった。
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(あい) 『は、は、は、はなしかけてくれて、ありがとう。みーつけた。つぎは、ア・ナ・タ♪』
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そのメッセージに覆いかぶさるように、送られてきた写真が――。