第1話 僕が扉を閉じた理由/引きこもりの生活

文字数 1,226文字



 僕がその扉を閉じたのには、理由がある。

 ひとつは裏切り、それも大事な仲間からの。仲間だと思ってた友人からの。さらに暴力もある。

 その行為は、どれも卑怯きわまりないやり方だった。


 学校に通う僕には、とても仲の良い友人がいた。

 全部で四人。全員が小学校からの幼馴染だ。

 トシカズ、イチヤ、アイ、マリア。

 簡単に「元」友人たちを、説明しようか?

 のっぽ、ぶっきらぼう、お(しゃべ)り、おせっかいの順。

 男、男、女、女。

 並び替えても噛まずに説明できるぐらい、僕らはお互いをよく知っている。

 お前はどうなんだって? 自分のことは、キレイ好きな中学生だとだけ言っておこう(神経質なんて悪口は知らない)。


 小学校は一年の頃から全員友達になって、男も女も関係なく、六年間いつも一緒にいた。

 卒業して同じ学校(ガッコ)に進んで、一年間は何も変わらなかった。

 もちろん、体は大きくなったよ? チビのアイは別にして。

 でもお互いの事を思う気持ち――臭いけど友情的なやつは、変わらないと思ってた。

 そう信じてた。この扉を硬く閉ざすまでは。


 コン、コン、コン。

 ノックの音がする。

「タイチ、ご飯できたわよ」

 母親の声だ。もうだいぶ諦めているみたいで、それ以上は言ってこない。

 カチャカチャと音がして、最後にもう一度ノック。それは、用意された御飯が扉の脇に置かれた合図だった。

 そう、僕はもう一週間近く、この部屋から外に出ていない。

 どうしても必要なトイレとお風呂は別だけど、それ以外は扉に鍵をかけたまま。

 学校にだって行っていない。

 理由は簡単。無理だから。

 あんな扱いを受けた僕は、朝ベッドから起きられない。

 自転車にだって乗れないし、踏切の向こうになんて渡れない。

 校門をくぐるのは苦痛だし、ましてや、あの四人たちがいる校舎になんて、入れるわけ(・・)がない。


 階段を降りる母親の足音が小さくなるまで待ってから、僕はベッドから起き出す。

 ぼさぼさの頭は寝癖で変形していて、かなりみっともない。

 靴下も履かない足で部屋のドアまで歩く。途中、部屋に転がった、邪魔なサッカーボールを蹴ってどかした。

 ノブを握ったまま、鍵を外す。

 ゆっくりと隙間だけ開けて、外を見る。

 誰もいないのを確認したら、肩幅まで開いた扉から身を乗り出し、食事を回収してまた、カチャリ。


 机代わりの手作りの椅子――学校の授業で組み立てたもの――をテーブルにして、そこにお盆を置いた。

 ノートパソコンの蓋を開いて、動画チャンネルのリストから、お気に入りのアニメを選び出し、再生する。

 その場にあぐらをかいて食事を摂る。部屋はひとつしか灯りを付けていなから、薄暗い。

 僕の顔は液晶の光に映し出されて青白く、さぞかし不健康に見えるだろう。
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