第24話 終幕、その後

文字数 1,454文字

「じゃあ、オレはもうアメリカに帰らないと」

 伊藤は駐車場まで行くと、立ち止まって、菅、あかね、真の三人に言った。

「もう、アメリカに行くの? ゆっくりしていけば?」と、あかね。

「君のその元気のある性格は凄いな。オレにはその部分は持ってなかったな」



「ん? 何言ってんの?」

「いや……。オレにはアメリカで仕事があるから」

 そう言って、伊藤は愛用のベンツに乗り込み、エンジンを掛けた。



 自家用車をバックした時に、ドアミラーを開けた。

「じゃあな。つむぎちゃんによろしく」

 そう手を上げて、彼は走り去った。



「つむぎちゃんによろしくだって。あいつもつむぎファンの一人なのかな」あかねは手を腰に当ててぶっきらぼうに頬を膨らました。

「でも、伊藤君は、結婚してるよ」

 菅がポツリいうと、あかねは「なーにー、じゃあ、浮気も同然じゃん」と、声を張り上げて怒りを露わにした。



 良かった……。真は自分もつむぎのファンの一人だと言いかけていたのだ。言葉に出していたら、あかねからのパンチが繰り出される。

 しかし、神田は一体何がしたかったのだろう。今回の事件に関して、いくらかの人を集めての企画の根端が、自分とあかねの二人の能力が知りたいからと。



 知ってどうするんだろう。神田が元警視だったことと関係性があるのだろうか……。

 真は考えていると、「真君早く行くよ」と、菅の助手席のドアミラーからあかねが顔をのぞかせた。

「あ、すみません」真は菅の自家用車の後部座席をめがけて駆け足になっていた。



               



「あの、あかねさんとウチの飯野が、伊藤君が考えた事件工作を、解決したみたいだな」

 後日、神田はまた名倉と共に、地下のバーに足を運び、カウンターで飲んでいた。

「ウチの若手も色々と協力してくれましたよ。だって、相手は早くしてエフビーアイの一員の伊藤竜也ですから」

「まあ、伊藤君も素晴らしいもんだ」



 神田は右手で掴んでいたウイスキーグラスを回し、中に入っているウイスキーを波立たせた。

「ですが、どうして、彼女の腕を試してみたかったんですか? 元警視のあなたが?」名倉は水で割ったウイスキーを飲んだ。



「君が以前口にしたように、私が長年追っていた未解決事件を解決してくれると思ったからね」神田は目線が一点になっていた。

「あの事件ですか? あの、バンドメンバーが沢山の女性を殺害した事件ですか?」

「ああ、あの奇妙な事件だ……。でも、まだまだ、二人には難しそうだな……」

 そう呟いて、神田は名倉に対して微笑んだ。



                



「ちょっと、何であたしたちもしなくちゃいけないんだよ」

 あかねはデッキブラシをバケツに入った水に付けて、また床を擦って掃除をしていた。

「言っとくけど、このビルはあくまで貸し切りだ。廃墟じゃないからな」

 野口は壁を雑巾で拭いていた。



 真が放射した消火器の件で、部屋中真っ白になっていた。後日に、掃除をするという約束だったのだが、管理人がその日の夜に来て、すぐに掃除をしろと言われたのだ。

「しかし、もう十時近いですよ。もう、こんなもんでいいんじゃないですか」真は面倒くさそうに、床を拭いている。

「いっとくけど、あんたが一番やらかしたんだからね」

 あかねは真の顔の前にデッキブラシを擦る動作をする。



「止めでくださいよ。せっかく助けに来たのに……」

「それはそれ、これはこれ。恨むんだったら真君の社長を恨みな」

「うう、そんなあ」

 真は泣きべそをかきながら、もう二度とあかねを助けまいと信じたのだった。
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