第6話 砂浜、海へと続く最後の一段を降りて俺と結衣は駆けていく
文字数 2,021文字
近くの時計を見てみると時計の針は12時45分あたりを指している。今日の暑さのピークはまだまだだ、とでも言いたいのか、時計の針がカチッカチッと動くたびに暑くなっている感覚がする。目線を下にやると”西宮海水浴場”という看板。……はあ、やっとついた。
「わぁ~!見て見て、ゆーま君!」
砂浜へと続く階段の目の前、結衣は人差し指を海に向けて言った。顔ははっきりとは見えなかったが、まあどんな顔をしているのかは容易に想像が出来る。……こんなに暑いのにどうしてこんなに元気でいられるんだ?
「ほら、結衣。急いで行かなくたって時間はたっぷりあるぞ?」
「え~。だってだって、久しぶりの海なんだもん!」
一瞬振り向いた顔にはやっぱり元気のある顔が広がっていた。今日はそれに加えて、海の光の反射と区別がつかないくらいに目を輝かせている。どんだけ楽しみだったんだよ。
「さあ、思いっきり遊ぶぞ~!」
「あっ、こら!」
海に向かって勢いよく走っていこうとする結衣の手首をとっさに掴む。結衣は一瞬身体をビクッとさせる。
「へ?ど、どうしたの」
「こら、下見てみろよ。階段だぞ?結衣、今のまま行ってたら転んでたぞ?」
「え、あ」
「泳ぐ前に怪我なんてしたら洒落にならんだろ。早く遊びたい気持ちも分かるが、海は逃げていかないからもっとゆっくり行こうぜ」
「……ごめん」
俺は結衣の手首を掴んだまま階段を降りていく。さっきまでの元気の良さは薄れてすっかり大人しくなってしまった。手首らへんが少しずつ熱くなっていくのは気のせいだろうか。
階段を一段一段降りていき、あと一段降りれば砂浜というところで俺はあることが疑問に浮かんだ。
「そういえば……」
「へっ、ど、どうしたの」
「どうした、さっきから急にそんな大人しくなって。ちょっと挙動不審だし。結衣らしくないぞ」
いきなり様子がおかしくなったぞ。この短時間で何があったんだ……?こんなに大人しいのは結衣らしく……いや、ころころと様子が変わるのは一周回って結衣らしいのか?
うーん?何があったんだろう。まさか暑すぎて体調が悪いとか!いつもよりテンションが上がってたみたいだし……。
「おい、具合悪いのか?」
「えっ、いやそういうわけじゃ……」
「はぁ?じゃあ何でこんな急に大人しくなったんだよ」
「……手首」
「へ」
「……手首、ずっと掴んで……」
結衣は目線を下に向けて言う。少しうつむいている顔は赤くなっていた。その様子を見た俺もゆっくりと目線を落としてみる。
そこには、がっしりと掴まれた結衣の手首とそれを掴んでいる俺の手があった。……あれ?俺、腕を掴んだまま……。もしかしてこれが……。
急に顔のあたりの温度が上がっていくのを感じる。それと同時に掴んでいる結衣の手首をパッと離す。
「あっ……。悪い、嫌だったよな……?ごめん」
「ううん、別に嫌じゃ……。私こそ心配させるようなことして……」
「ああ、そうだな……」
……なんだか気まずくなってしまった。これから遊ぶってのに。うーん、この状況を変える何か……。
……あ、すっかり忘れた。俺は結衣に聞きたいことがあったんだ。
「そ、そういえばお前どこで着替えるんだ?」
結衣は幽霊だ。今は俺だけに見ていて、他の人には見えない。更衣室もあるが、他の人の目にはいきなり脱いだ服が現れて、いきなり水着が消えるという困惑することが起こるだろう。
「まさか制服を着たまま……」
「そんなわけないじゃん!もう、ゆーま君ったら。せっかく水着も買ってくれたのに……。」
割と真面目なツッコミが入る。まだ結衣は少し大人しい。
「冗談だよごめんごめん」
「でも、どうすんだよ」
「う〜んと、これから人がいなさそうなところを探そうかなって」
「いっそのこと、ここで着替えるのはどうだ?」
俺はいたずらに笑って言う。結衣は顔をぷくっとさせて赤い顔をさらに赤くさせる。……流石に冗談が過ぎたな。ごめん。
「もう、ゆーま君!さっきからそうふざけて!そろそろ怒っちゃおうかな~!」
「……ごめんなさい」
「まあ、"私しか"いなかったらここで着替えても良かったんだけど」
「" 私しか"ってなんだよ。まさかここは俺達の貸し切り、プライベートビーチだとでも思ってたのか?」
「違うよ、幽霊のこと!」
「幽霊だと?なんだ、結衣の他にも幽霊がいんのか?」
「いや、そりゃいるでしょ」
……あの結衣から冷静なツッコミをもらってしまった。まあ、冷静に考えてみれば結衣だけってのもおかしいか。
しかし驚いたな。結衣以外の幽霊か。
「何かいっぱいいるから、人気のないところを探そうかなって思ってたの」
しかもいっぱいいるらしい。俺には見えないけど、一体結衣の目にはこの海はどんな風に見えているのだろう。
「じゃあ、早く探すぞ〜!」
俺は身体を伸ばして言う。
「うん!」
結衣にようやくいつもの元気と笑顔が戻ってきた。左腕で顔の汗を拭い、砂浜、海へと続く最後の一段を降りて俺と結衣は駆けていく。
「わぁ~!見て見て、ゆーま君!」
砂浜へと続く階段の目の前、結衣は人差し指を海に向けて言った。顔ははっきりとは見えなかったが、まあどんな顔をしているのかは容易に想像が出来る。……こんなに暑いのにどうしてこんなに元気でいられるんだ?
「ほら、結衣。急いで行かなくたって時間はたっぷりあるぞ?」
「え~。だってだって、久しぶりの海なんだもん!」
一瞬振り向いた顔にはやっぱり元気のある顔が広がっていた。今日はそれに加えて、海の光の反射と区別がつかないくらいに目を輝かせている。どんだけ楽しみだったんだよ。
「さあ、思いっきり遊ぶぞ~!」
「あっ、こら!」
海に向かって勢いよく走っていこうとする結衣の手首をとっさに掴む。結衣は一瞬身体をビクッとさせる。
「へ?ど、どうしたの」
「こら、下見てみろよ。階段だぞ?結衣、今のまま行ってたら転んでたぞ?」
「え、あ」
「泳ぐ前に怪我なんてしたら洒落にならんだろ。早く遊びたい気持ちも分かるが、海は逃げていかないからもっとゆっくり行こうぜ」
「……ごめん」
俺は結衣の手首を掴んだまま階段を降りていく。さっきまでの元気の良さは薄れてすっかり大人しくなってしまった。手首らへんが少しずつ熱くなっていくのは気のせいだろうか。
階段を一段一段降りていき、あと一段降りれば砂浜というところで俺はあることが疑問に浮かんだ。
「そういえば……」
「へっ、ど、どうしたの」
「どうした、さっきから急にそんな大人しくなって。ちょっと挙動不審だし。結衣らしくないぞ」
いきなり様子がおかしくなったぞ。この短時間で何があったんだ……?こんなに大人しいのは結衣らしく……いや、ころころと様子が変わるのは一周回って結衣らしいのか?
うーん?何があったんだろう。まさか暑すぎて体調が悪いとか!いつもよりテンションが上がってたみたいだし……。
「おい、具合悪いのか?」
「えっ、いやそういうわけじゃ……」
「はぁ?じゃあ何でこんな急に大人しくなったんだよ」
「……手首」
「へ」
「……手首、ずっと掴んで……」
結衣は目線を下に向けて言う。少しうつむいている顔は赤くなっていた。その様子を見た俺もゆっくりと目線を落としてみる。
そこには、がっしりと掴まれた結衣の手首とそれを掴んでいる俺の手があった。……あれ?俺、腕を掴んだまま……。もしかしてこれが……。
急に顔のあたりの温度が上がっていくのを感じる。それと同時に掴んでいる結衣の手首をパッと離す。
「あっ……。悪い、嫌だったよな……?ごめん」
「ううん、別に嫌じゃ……。私こそ心配させるようなことして……」
「ああ、そうだな……」
……なんだか気まずくなってしまった。これから遊ぶってのに。うーん、この状況を変える何か……。
……あ、すっかり忘れた。俺は結衣に聞きたいことがあったんだ。
「そ、そういえばお前どこで着替えるんだ?」
結衣は幽霊だ。今は俺だけに見ていて、他の人には見えない。更衣室もあるが、他の人の目にはいきなり脱いだ服が現れて、いきなり水着が消えるという困惑することが起こるだろう。
「まさか制服を着たまま……」
「そんなわけないじゃん!もう、ゆーま君ったら。せっかく水着も買ってくれたのに……。」
割と真面目なツッコミが入る。まだ結衣は少し大人しい。
「冗談だよごめんごめん」
「でも、どうすんだよ」
「う〜んと、これから人がいなさそうなところを探そうかなって」
「いっそのこと、ここで着替えるのはどうだ?」
俺はいたずらに笑って言う。結衣は顔をぷくっとさせて赤い顔をさらに赤くさせる。……流石に冗談が過ぎたな。ごめん。
「もう、ゆーま君!さっきからそうふざけて!そろそろ怒っちゃおうかな~!」
「……ごめんなさい」
「まあ、"私しか"いなかったらここで着替えても良かったんだけど」
「" 私しか"ってなんだよ。まさかここは俺達の貸し切り、プライベートビーチだとでも思ってたのか?」
「違うよ、幽霊のこと!」
「幽霊だと?なんだ、結衣の他にも幽霊がいんのか?」
「いや、そりゃいるでしょ」
……あの結衣から冷静なツッコミをもらってしまった。まあ、冷静に考えてみれば結衣だけってのもおかしいか。
しかし驚いたな。結衣以外の幽霊か。
「何かいっぱいいるから、人気のないところを探そうかなって思ってたの」
しかもいっぱいいるらしい。俺には見えないけど、一体結衣の目にはこの海はどんな風に見えているのだろう。
「じゃあ、早く探すぞ〜!」
俺は身体を伸ばして言う。
「うん!」
結衣にようやくいつもの元気と笑顔が戻ってきた。左腕で顔の汗を拭い、砂浜、海へと続く最後の一段を降りて俺と結衣は駆けていく。