第3話 床には、味噌汁の具材であっただろう梅干しやたくあんやらが転がっている。
文字数 2,530文字
「結衣、お前はどうしてこの家に来た?」
俺は1番知りたかった質問をした。どくっ、どくっ。心臓の鼓動をはっきり感じる。
正直、俺は結衣が返事をするのが、怖い。そりゃそうだ。結衣は幽霊なんだ。幽霊ってことはもう、すでに死んでいるということ。その死んだ原因が俺にあったとしたら……?
「もう!元気になったと思ったらすぐその顔。だめだよ、そんな顔しちゃ。私は、ゆーま君に笑って欲しいんだから」
「私がこの家に来たわけ、ゆーま君はもしかしたら"俺に恨みがあって来たんじゃないか"、そう思ってるのかもしれないね」
「でも、どうかな~?私の顔を見てみれば答えが分かるんじゃないかな?」
恐る恐る結衣の顔を見る。そこには般若みたいな怖い……、そうではなく真反対の屈託のない笑みを浮かべていた。
「良かった、本当に良かった……。もしかしたら、俺はお前を……なんて」
「まさか、まさかそんな!ゆーま君がそんなことをするわけないない!」
「私がこの家に、ゆーま君に会いに来たわけは……」
「君に恩返しがしたかったからだよ」
「へっ?恩返し?」
俺が結衣に何かしたわけじゃないという安心感と、"恩返し"という意外な返事を聞いて、つい空気の抜けた声で聞き返してしまった。
「そう、恩返し。君には何のことか分からないだろうけど私は……どうしてもお礼が言いたくて」
「でも、恩返しって……。俺は何も覚えてないのに……」
「まあまあ。これは私がやりたいだけだし!それに……」
「それに?」
「君にはずっと笑顔で居てもらいたくって」
結衣はまた笑ってそう言った。俺も笑って返すと、彼女は優しい目で俺を見つめていた。
「ところで、恩返しって言っても一体何をするんだ?」
「あっ!そうだね。恩返し、恩返しねぇ。う〜ん」
結衣が腕を組んでう〜ん、う〜んと言って頭を悩ましている。
その時、俺の腹からぐぅ〜〜と大きな音がなった。そういえば、今日はまだ何も食ってねぇな。
「あっ!お腹、空いてるよね!朝ご飯、朝ご飯を作ってあげる!」
「えっ。あ、ああ」
「ねぇ、何か食べたいものとかある?なんでも言ってみてよ!」
「う〜ん。それじゃあ、味噌汁とか飲みたいけど……。料理とかやったことあんの?」
「多分なんとかなるって!大丈夫。大船に乗ったつもりで待っててよ!適当に作ってくるから!」
結衣はそう言って、勢いよくドアを開け、閉めることなく台所へと走っていった。
一抹の不安を残したまま、俺は、結衣が味噌汁を作り終えるまで寝ていることにした。また、心地よい夢が見てたらな。てか悪夢じゃなきゃ……。
そんなことを思いながら俺はベッドに横になり、目を瞑る。しばらくすると台所から、ドタドタ、ガシャーン、うぇーん……最も聞きたくない音たちが耳の中に入ってきた。
………
俺は起き上がり、はぁ〜〜と深いため息をつき、重すぎる腰を上げ、台所へ向かうことにした。
台所につくと、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。昨日までの悪夢は、実はまだ覚めていなかったようだ。
床には鍋が転がっており、鍋の中にあるはずの汁は外に飛び散り、床を汚していた。また、床には具材であっただろう梅干しやたくあん、福神漬けやらが転がっている。
……。こいつが作ってたのは"味噌汁"だよな?味噌汁にしてはよく分かんない具材しかないんだが。
そして、味噌汁の汁のそばには女の子座りの格好で涙ぐんでいる結衣の姿があった。制服の袖で涙を拭ったのかシミになりかけている。
「あ、あの。結衣さん?一体何がどうしたらこんなことに……」
「あ……。あの……ぐすっ……」
「泣いてちゃ分かんないだろ。何があったんだ?けがは?」
「ぐすっ……。け、けがはないよ。……わたしが、冷蔵庫にほかの具材を取りに行こうとして……。ちょっと走ったの……。そしたら、身体が鍋に当たっちゃって……。」
身体が当たったくらいで鍋ごと落ちるか?普通。ま、でも俺の部屋からでもドタドタって音がしたんだ。勢いよく当たれば……。う~ん……。
まあ、どんな理由にしても鍋がひっくり返ってんのも事実だ。あーあ。これから掃除か~。とほほ……。
でも、結衣にけががなくて良かった。俺はほっとする。
「起きたもんは、仕方がない。じゃあ掃除しますかー」
「ちょっと待ってよ。こぼしたのは私なんだから、私が片づけるよ……ぐすっ」
「バカ、二人でやったほうが早く終わるだろ。ほら、泣くな。さあやるぞ~」
――――
「ほら、言ったとおり早く終わっただろ?」
思いっきりの笑顔で言ってみる。しかし、結衣の顔は涙こそ止まったものの、どこかバツの悪そうな顔をしている。
「うん……ありがとう。私のせいで、ごめんなさい」
「もう終わったことだろ?いいっていいって。それに……」
「それに?」
「なんか、結衣にも笑って欲しくって!」
俺はいたずらに笑ってみせる。結衣も微笑み返してくれた。やっぱ、俺は結衣の笑顔を見ると安心する。
「……(ボソボソ)」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん。何でもない!」
「何だよ、そう言われると気になんじゃん」
「やっぱり、ゆーま君は優しいなって」
結衣はほっぺを赤くして言う。な、何だよいきなり。照れるじゃん……。
「う、うるせぇ。優しくなんか、ねえよ……」
「あっれ~?そういう割には顔赤くな~い?もう、素直じゃないんだから」
「う、う、うるさい!!」
結衣のやつも顔赤くしてんのに。人のこといえないじゃん。まあ、でもいいか。何だかおかしくて、笑えてくる。
ふたりして顔を赤くして笑っていると、ぐぅ~~~。腹から鈍く大きい音がする。あっ!そういえば朝飯食べてねぇの忘れてた。
「あ!そういえば、朝ご飯まだだったよね?待ってて。また味噌汁作るから!」
「まぁ待て。一緒に作ろう。こーいうのも二人でやれば早く出来んだろ。あっ!そうだ、俺特製の味噌汁を見せてやろう!」
「ふふ。楽しみ!私は何を手伝えばいい?なんでも手伝うよ!」
結衣は、いつもの自信に溢れた声で質問をする。やっぱり結衣はこう出なくっちゃな。
「じゃあ、ブロッコリーでも取ってきてもらおうかな~。あっ、走んなよ転ぶからな」
「は~い!」
――いつもの平凡な日常が変わっていく。そう確信した朝であった。
俺は1番知りたかった質問をした。どくっ、どくっ。心臓の鼓動をはっきり感じる。
正直、俺は結衣が返事をするのが、怖い。そりゃそうだ。結衣は幽霊なんだ。幽霊ってことはもう、すでに死んでいるということ。その死んだ原因が俺にあったとしたら……?
「もう!元気になったと思ったらすぐその顔。だめだよ、そんな顔しちゃ。私は、ゆーま君に笑って欲しいんだから」
「私がこの家に来たわけ、ゆーま君はもしかしたら"俺に恨みがあって来たんじゃないか"、そう思ってるのかもしれないね」
「でも、どうかな~?私の顔を見てみれば答えが分かるんじゃないかな?」
恐る恐る結衣の顔を見る。そこには般若みたいな怖い……、そうではなく真反対の屈託のない笑みを浮かべていた。
「良かった、本当に良かった……。もしかしたら、俺はお前を……なんて」
「まさか、まさかそんな!ゆーま君がそんなことをするわけないない!」
「私がこの家に、ゆーま君に会いに来たわけは……」
「君に恩返しがしたかったからだよ」
「へっ?恩返し?」
俺が結衣に何かしたわけじゃないという安心感と、"恩返し"という意外な返事を聞いて、つい空気の抜けた声で聞き返してしまった。
「そう、恩返し。君には何のことか分からないだろうけど私は……どうしてもお礼が言いたくて」
「でも、恩返しって……。俺は何も覚えてないのに……」
「まあまあ。これは私がやりたいだけだし!それに……」
「それに?」
「君にはずっと笑顔で居てもらいたくって」
結衣はまた笑ってそう言った。俺も笑って返すと、彼女は優しい目で俺を見つめていた。
「ところで、恩返しって言っても一体何をするんだ?」
「あっ!そうだね。恩返し、恩返しねぇ。う〜ん」
結衣が腕を組んでう〜ん、う〜んと言って頭を悩ましている。
その時、俺の腹からぐぅ〜〜と大きな音がなった。そういえば、今日はまだ何も食ってねぇな。
「あっ!お腹、空いてるよね!朝ご飯、朝ご飯を作ってあげる!」
「えっ。あ、ああ」
「ねぇ、何か食べたいものとかある?なんでも言ってみてよ!」
「う〜ん。それじゃあ、味噌汁とか飲みたいけど……。料理とかやったことあんの?」
「多分なんとかなるって!大丈夫。大船に乗ったつもりで待っててよ!適当に作ってくるから!」
結衣はそう言って、勢いよくドアを開け、閉めることなく台所へと走っていった。
一抹の不安を残したまま、俺は、結衣が味噌汁を作り終えるまで寝ていることにした。また、心地よい夢が見てたらな。てか悪夢じゃなきゃ……。
そんなことを思いながら俺はベッドに横になり、目を瞑る。しばらくすると台所から、ドタドタ、ガシャーン、うぇーん……最も聞きたくない音たちが耳の中に入ってきた。
………
俺は起き上がり、はぁ〜〜と深いため息をつき、重すぎる腰を上げ、台所へ向かうことにした。
台所につくと、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。昨日までの悪夢は、実はまだ覚めていなかったようだ。
床には鍋が転がっており、鍋の中にあるはずの汁は外に飛び散り、床を汚していた。また、床には具材であっただろう梅干しやたくあん、福神漬けやらが転がっている。
……。こいつが作ってたのは"味噌汁"だよな?味噌汁にしてはよく分かんない具材しかないんだが。
そして、味噌汁の汁のそばには女の子座りの格好で涙ぐんでいる結衣の姿があった。制服の袖で涙を拭ったのかシミになりかけている。
「あ、あの。結衣さん?一体何がどうしたらこんなことに……」
「あ……。あの……ぐすっ……」
「泣いてちゃ分かんないだろ。何があったんだ?けがは?」
「ぐすっ……。け、けがはないよ。……わたしが、冷蔵庫にほかの具材を取りに行こうとして……。ちょっと走ったの……。そしたら、身体が鍋に当たっちゃって……。」
身体が当たったくらいで鍋ごと落ちるか?普通。ま、でも俺の部屋からでもドタドタって音がしたんだ。勢いよく当たれば……。う~ん……。
まあ、どんな理由にしても鍋がひっくり返ってんのも事実だ。あーあ。これから掃除か~。とほほ……。
でも、結衣にけががなくて良かった。俺はほっとする。
「起きたもんは、仕方がない。じゃあ掃除しますかー」
「ちょっと待ってよ。こぼしたのは私なんだから、私が片づけるよ……ぐすっ」
「バカ、二人でやったほうが早く終わるだろ。ほら、泣くな。さあやるぞ~」
――――
「ほら、言ったとおり早く終わっただろ?」
思いっきりの笑顔で言ってみる。しかし、結衣の顔は涙こそ止まったものの、どこかバツの悪そうな顔をしている。
「うん……ありがとう。私のせいで、ごめんなさい」
「もう終わったことだろ?いいっていいって。それに……」
「それに?」
「なんか、結衣にも笑って欲しくって!」
俺はいたずらに笑ってみせる。結衣も微笑み返してくれた。やっぱ、俺は結衣の笑顔を見ると安心する。
「……(ボソボソ)」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん。何でもない!」
「何だよ、そう言われると気になんじゃん」
「やっぱり、ゆーま君は優しいなって」
結衣はほっぺを赤くして言う。な、何だよいきなり。照れるじゃん……。
「う、うるせぇ。優しくなんか、ねえよ……」
「あっれ~?そういう割には顔赤くな~い?もう、素直じゃないんだから」
「う、う、うるさい!!」
結衣のやつも顔赤くしてんのに。人のこといえないじゃん。まあ、でもいいか。何だかおかしくて、笑えてくる。
ふたりして顔を赤くして笑っていると、ぐぅ~~~。腹から鈍く大きい音がする。あっ!そういえば朝飯食べてねぇの忘れてた。
「あ!そういえば、朝ご飯まだだったよね?待ってて。また味噌汁作るから!」
「まぁ待て。一緒に作ろう。こーいうのも二人でやれば早く出来んだろ。あっ!そうだ、俺特製の味噌汁を見せてやろう!」
「ふふ。楽しみ!私は何を手伝えばいい?なんでも手伝うよ!」
結衣は、いつもの自信に溢れた声で質問をする。やっぱり結衣はこう出なくっちゃな。
「じゃあ、ブロッコリーでも取ってきてもらおうかな~。あっ、走んなよ転ぶからな」
「は~い!」
――いつもの平凡な日常が変わっていく。そう確信した朝であった。