第1話 生きのばし/the ピーズ

文字数 1,374文字

この曲、あまり好きじゃなかった。
でも、気づいたらひとりカラオケで熱唱している。
ピーズは特別なバンド。
トータス松本を持ち出すまでもなく、僕ははるさんになりたい。
この「生きのばし」。
歌い出しからすごく変だと思う。
「死にたい朝まだ目覚ましかけて 明日まで生きている」
わかるようで、わからない。
音程も。
なぜ、この繋がりなのか?
他に、こんなメロディがあるのか?
僕は人生に敗れているから、毎晩悪夢を見る。
そこには、だいたいオルゴールみたいな旋律がBGMとして流れる。
とても不快な。
目覚めてすぐには、覚えてるけど、努めて忘れたい様な。
この「生きのばし」は、僕にとってそんな曲だ。
ピーズは特別なバンド。
2枚同時発売のデビューから、モノが違った。
しかし、売れず。
次の「マスカキザル」、名盤だった。
「いいコになんかなるなよ」
この一曲だけでも、みんな聴くべきだよ。
それから僕は、英詞で洋楽志向な自分のバンドの都合から、ピーズから離れた。
「クズんなってGO!」
「ふぬけた」「電車でおでかけ」「平和」
名盤だ。
特に「ラブホ」の「ヤリもしねーでー(ヤリもしねーでー)会いたくねーよー(会いたくねーよー)」は、扉を開いたかの如く。
「とどめをハデにくれ」
全曲名曲、名盤だ。
特に「井戸掘り」の「君にほめられたかったよ オラ黙りこくって止まる」には胸が締め付けられる。
「どこにも帰らない」
「hey君に何をあげよー」「何様ランド」、優しく、ヤケクソな諦観。
「リハビリ中断」
「やっと こんな良いとこまで たどり着いてしまった(鉄道6号)」
「何かまた作ろう 場所は残ったぜ(実験4号)」と、絶望に必死に抵抗しながらも、「現実逃避が終わる頃 誰かがいないのさ」「線香花火大会」で歌われる「居なくなる誰か」は「僕ら」から「僕」へとゆっくり変わっていき、「誰かをイジメる前に寝ろ(反応ゼロ)」であっけなく終わる。
活動休止。
居酒屋で焼き鳥焼いてたはるさんは、数年後トータス松本やYO-KING、奥田民生あたりに担ぎ出され、活動再開。
その、平坦ではなかった道程を経ての第二期も、3枚の素晴らしいアルバムを残し、メジャーから身を引く。
多くの人がはるさんに人生を重ね、ほんとうに辛くなった時にピーズの歌に縋って生き延ばしている。
僕も、そのひとりだ。
僕がピーズから距離を置いたのは、自分のバンドが洋楽志向で、日本語によるロックに限界を感じていた事もあるけど、「シニタイヤツハシネ」あたりからの「死」の濫用が鼻に付いた事が大きな理由だったりする。
しかし、いざ自分が死にたくなってみると、そこに寄り添ってくれる歌なんてなかった。
「ロッケンロー、絵日記、真露、粘る部屋 死にたくなる朝と居る」そんな日常。
「メシ食うぞ めんどくせーぞ」そんな孤独。
死にたいなんて、思ったら終わりで、思ってはいけない。
忙しく、目の前の事に追われてりゃ良い。
けれど、死ぬ以外逃れられない苦しみやかなしみを、あいつは見逃さない。
僕は鬱をアル中や甘えの一種だと思っていた。
そして僕は、甘えきったアル中だ。
けれども、確かに鬱だ。
あの日の前の日の自分にはもう戻れない。
そうなって初めて、恵まれてた事に気付く。
死にたいんだ。
死ねないんだ。
生きて迷惑。
死んでも迷惑。
なんとか少しでも、と、足掻く為の、重たい次の日。
また今朝も、死にたくなる朝と居る。
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