第4話 合同練習会の帰り道

文字数 1,514文字

M大付属中学とM市立C中学の合唱部はコンクールの地区予選で同点一位入賞し、県大会出場に選ばれました。急遽C中学でM大付属中学とC中学の合同練習会が催され、顧問の先生方の緊張をよそに、生徒たちはめったにない他校生との交流に少々舞い上がっています?

見学に来られた教育委員会の先生が、最後に講評を述べられました。

「M市立C中学校もM大学付属中学校も、甲乙つけがたいですね。県大会の本番はこれからですが、今日も両校とも最高の出来だったと思います。物語を語り掛けるC中学、重厚な迫力と音楽性のM大付属中。どちらも、M市の代表として県大会に出るにふさわしいと思います。県大会本番まで、さらに磨きをかけて、両校のひいてはM市の音楽にかける情熱を県の皆さんに見せつけてさしあげましょう!」



ケイ先生もイマダ先生も引き締まった面持ちで、教育委員会の先生方にお辞儀をしました。



帰り道、駅へ向かう道すがら、ノリオはぼそっと「これからが大変だと思うよ・・・」と、言いました。「え、何が?」C中学校の怪しい中1女子3人組のなれなれしい魔の手から、ようやくノリオを引き離すことができたと、やや安心しかけていたヤスコは、ノリオに聞き返しました。「うちの付属中とC中学ではまったく個性が違うもの。県大会前に合同練習なんて、しないほうがよかったかもしれないよ。間近で見聞きすると、影響されるかもしれないよ。」ヤスコは(ノリオって、中1なのにシブイわ)と、心ひそかに舌を巻きました。(私は、変な女の子たちがノリオとなれなれしくしているのが、気になっただけだったのに)。ヤスコが感心するそばから中3ソプラノパートリーダーのルミ先輩が声をかけてきました。「ノリオ君って、よくそんなことがわかるわねえ。私そこまで気が付かなかったわ。」(ルミ先輩、さっき私に耳打ちしてきた時より、女っぽい声になっていませんかあ・・・?)一難去ってまた一難。同学年を蹴散らせば済むわけではなかったのか・・・。ノリオも心なしかノリノリで返事をしています。「ルミ先輩に褒めていただけるなんて!びっくりです!」ルミ先輩はノリオの意見に付け加えました。「ノリオ君の言うとおり、うちの付属中とC中学では個性が違うわね。C中学はたしかに繊細だけど、迫力に欠けるのがよく分かったわ。今から、C中学がうちの迫力を真似しようとしたら、できる子とできない子がでたり、音が割れたりして、ややこしいことになるかもね。うちはうち、よそはよそ。うちはうちの強みに自信をもって、さらに磨きをかけたほうがいいかもね。私は、むしろヤスコのド迫力フォルテを見習わなくちゃ・・・」ルミ先輩がまじめに分析を語るので、ヤスコは自分が恥ずかしくなりました。(なんでもかんでもノリオを取られるとか、私は被害妄想過ぎたかも?ノリオだって、自由に友達を作りたいだろうし、私めんどくさい子と思われそう?)

子供っぽい独占欲でノリオの周りから女子を追い払おうとしていたヤスコ。でも、今日は違う炎が知らず知らずのうちにメラメラし始めていました。(あのお高くて真面目そうなショートカットのソプラノ女子。高音苦手な癖に仁王立ちに上目遣いで指揮者の先生凝視して、変な顔になっているの、自覚がないのかしら。ううん・・・あれぐらい我を忘れる集中力こそ見習うべき。かわい子ぶりたいのは私のほうだったかも。)



C中学の最寄りの駅で、顧問のイマダ先生は付属中学の皆が集まるのを確認して「皆さん、今日はお疲れさまでした。風邪をひかないように、寄り道せずに自宅へ帰りましょうね。疲れをためないように、早く寝てくださいね。」などと、声をかけ、付属中学の一行を解散させました。

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