第2話 付属中の女王

文字数 2,119文字

M市立C中学校とM大学付属中学の合唱部は合唱コンクール地区予選で同点一位入賞。次のステップは県大会。顧問の先生方や教育委員会の先生方が居並ぶ合同練習会。C中学の女子たちとM大学付属中学の女子の交流やいかに?ちょっと賢そうでマイペースなM大学付属中学男子が同じくM大学付属中学女子をやきもきさせます。

エイコたちのM市立C中学校のとなりにはM大学附属中学校がありました。



となりといっても谷を挟んであっちの小高い丘とこっちの小高い丘に離れたとなりどうしで、公共交通機関を利用すると意外に遠回りで小一時間かかる距離の「となり」でした。



M大付属中学にはいろいろな入学経路があって、C中学とM大付属中学の合同練習でC中学のエイコのそばにやってきたノリオという男子は中学から付属中に入学し、ヤスコという女子はM大学付属小学校から付属中に進学したのでした。



ヤスコが付属中に進学して出会ったノリオは数学の得意な賢そうな男子。ヤスコはキラッと光る知性に弱いようです。数学の時間にスラスラ答えて先生に感心される自信に満ちた姿も素敵です。小学校から気の強い女王様として君臨してきたヤスコは「わたし、ノリオ君すきよ!」と、先手必勝?公言してはばかリません。小学校から持ち上がってきた同学年の女子たちのみならず、中学から付属中の女子たちも、ノリオは女王様のお気に入りと速攻察知して、決して仲良くならないように、さりげなく気を使っているのでありました。



しかし、今日はC中学との合同練習。付属中の女王ヤスコにとっても、アウェイです。自分のものだと油断していたノリオが自主性を発揮して別の人たちの所へ混ざりこんでいるではありませんか。それも、女子3人のグループに・・・!なんてこと!



C中学のエイコ達3人は各々心の中で思案しました。今から席を離れて、付属中学の男子と女子を二人にしてあげたほうがいいのでしょうか。それでは遠路はるばる合同練習に来てくれた付属中学の皆様によそよそしいような気もしたり。なんだかイライラしている付属中のヤスコという女子の面前で、エイコとサキコとヒロコ達C中学の3人でこそこそ内緒で相談するわけにもいかず・・・。仕方ない、一応社交的な雰囲気で外交辞令と行きましょう、とエイコは勇気を出して言葉を発しました。



「えーと、ヤスコさん・・・ですよね?私はエイコ、中1でソプラノです。」と、エイコ。

「私はサキコ、アルトで、こっちのヒロコもアルトでみんな中1だよ。」と、エイコの声掛けに触発されたサキコも自分たちの紹介を始めました。しかし、ヤスコは女子3人を無視したまま「ノリオ君、勝手にほかの中学と混ざっちゃだめよ。先生に叱られるわよ。行きましょう」と、強引にノリオを促して、付属中学の生徒たちが集まってお弁当を食べているところへ連れ戻してしまいました。ちょっと大人げないかも…ヤスコさん?



去っていくヤスコとノリオを見送って、すくめた首をそっと伸ばしつつ、

「何だったんですかね?」と、サキコ。

男女も含めた人間関係の機微がいま少し分からないC中学の1年女子3人組は、お昼休憩の残り時間が気になって、急いでお弁当を食べ終わりました。

「ちょっと気分壊れたよね・・・」いつも素直なヒロコがボソッとこぼしました。



早めに音楽室に戻ると、C中学2年のイズミ先輩がピアノ伴奏の練習をしていました。「大地讃頌」です。C中学のエイコ、サキコ、ヒロコのみならず食べ終わったC中学のメンバーは徐々に集まりだし、誰ともなく歌い始め、付属中の生徒たちも集まってきて口ずさみ始めました。

エイコがちらっと探すと、先ほどちょっと不機嫌だった付属中のヤスコもけっこう伸びる高音でソプラノを歌っていました。さすが女王、周りに合わせる気がありません。自分だけ大音量でも平気な様子です。



合唱部の子供たちは歌い始めると止まりません。結局最後は全員大音量で歌いきり、頃合いを見てC中学合唱部顧問のケイ先生が声をかけました。

「みんなうまいね!今から、合唱台に並んで、県大会で歌うコンクールの課題曲を歌おう。今度は教育委員会の先生たちにも聴いていただきますね。」付属中合唱部顧問のイマダ先生も「はい、じゃあ、最初はC中学ですね、ケイ先生。付属中は観客として、生徒席に座らせてよろしいですか。」「はい、着席させてください。」



まずはC中学の出番。付属中のヤスコはいけ好かないが、あの大音量のソプラノには負けたくありません。エイコは背筋を伸ばして顎を引いて、イイ声出ますように、と念じました。

ケイ先生は指揮台に立つと、一言添えました。「合唱はみんなで合わせて歌うもの。でも、小さくまとまっちゃあ、惜しいよね。さっきの『大地讃頌』、付属中学のソプラノ、よく声が出ている人がいたね。ピアノは小さくだけど、フォルテの時は、遠慮なくみんなで思い切りおっきく出してね!」

そうだよね。敵ながらあっぱれ。でっかく決めるぞ!エイコはいよいよ気合を入れて、足を肩幅に踏ん張って立ちました。













M大学付属中学の中1なんだけど強そうな女子。この子もすごくマイペースそう?しかも圧が強くて、ワガママ?せっかくの合同練習会、仲良くしてね・・・。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み