木漏れ日の頃5

文字数 723文字

   【 欠勤1 】


 朝が来なければ良いと思った。
 眠らなければ、朝が来ない気がして夜更かしした。
 布団の中は悪夢でいっぱい。


 寝坊した。
 慌てる事もなくそう思った。
 いつも、ギリギリに起きていた。
 それが、寝坊した。
 間に合わないと諦めていたが、口に出さずいつも通り家を出た。
 道を歩いてると、雨の音の中から電車の音が聞こえた。
 通り過ぎるのを見送りながら、やっぱり間に合わないかと心の中で苦笑いした。
 家に戻ろうかと考えたが、足は駅に向かっていた。

 駅に着いても人はいなかった。
 古い椅子に腰掛けると、ぎぃと軋んだ。
 とりあえず、指導者さんにメールを入れる。
《電車に乗り遅れました》
 それだけ書いて、送信ボタンを押した。

 次の電車が来た。
 私の足は動かない。
 ぼんやりと降りてくる人の足を見ていた。
 降りてきた人たちは電車に乗らない私を、不信な顔で見て行った。
 電車は行ってしまったようだった。

 人が去っていったのを確認して、カッターの刃を取り出す。
 朝の時間が過ぎれば、この駅に来る人は少ない。
 30分間隔でしか来ない電車。
 少ない利用客。
 無人駅。

 私がここで何をしていても、気にする人はいない。
 人が来たら、少し隠せばいい。

 腕に当てて、赤いすじをつける。
 いつもの事。
 何度も、何度も……繰り返す。


 しばらくすると声をかけられた。
「富山まで行くの?」
 突然の声にドキリとした。
 傍に座った見知らぬおばさん。
 私に向けられた言葉だと理解するのに3秒はかかった。
「あ、はい」
「社会人?」
「え、はい」
 聞かれて戸惑った。
 普通の社会人ならこんな時間、こんな場所にいない。
 その後は沈黙。

 電車が来て、その人は私をちらりと見て行ってしまった。
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