雨の刺す頃6

文字数 924文字

   【 傷痕1 】
 息が出来ない。
 居場所が見つからない。
 私はなぜ、ここにいるの?


 頭痛が止まないまま、会社に行った。
 指導者さんから従姉妹ちゃんに話した事を聞いた。
 従姉妹ちゃんが話し掛けてきた。
「昨日は、よく休めた?」
「お父さんの仕事、手伝ってった」

 私は笑っていった。
「は? 何してるの? おっちゃん(私の父の事)は?」
 呆れ顔で従姉妹ちゃんは私に言った。
「何してるんだろうね?」
 私は笑った。
 ……本当に何したかったんだろう? 父は。

「パソコン入力だったら、出来るでしょ?やっておいてね」
 指導者さんはそう言うと、従姉妹ちゃんと出て行った。
 私はそれをぼんやり見ながら、ゆっくりと立ち上がる。
 いつものようにロッカーを開けて、機械を取り出して、繋げる。
 パソコンが立ち上がる時間、わたしは外を見ていた。

 画面はついた。
 いつもの作業……の筈だ。
 手が震えてる。
 息が乱れてる。
 ……いつもの作業だよ?変わらない事をするだけ。
 何かが、おかしい。
 無理矢理、触ろうとしてみても何かが拒絶する。

 止まらない。
 止められない。
 ……大丈夫。大丈夫だから。
 呪文のように繰り返し心の中で唱えても、無駄。
 落ち着けない。
 手が動かない。
 身動き一つ取れなくなる。
 息を必死で整えようとする。
 周りの雑音が消え去る。

 ――何してるんだろう?
 ココデナニヲシテルノ?
 自分の居場所がない気がした。

 ――泣きたい。
 違う。
 ――切りたい。

 どうにか震えを止めてみようとするけど、無駄。
 機械入力さえ出来ない!!

 ――何も出来ない。

 私はロッカーに機械を投げ込むように、仕舞った。
 苛立ちと情けなさと苦しさを抱えたまま、カバン1つ引っ手繰った。
 無言で会社を出て、外へと歩き出す。

 どこへ行くのか考えもせず。
 でも、そう遠くへ行く気もしない。
 人の少ない場所。
 水の音が聞こえる場所。
 そこで、塀を背にして座り込む。

 切りたい。きりたい。キリタイ。

 その感情を必死で押さえ込む。
 代わりに涙が溢れる。
 ――何をしてるんだろう?

「どうしたの? 大丈夫?」
 座り込んだ私の姿を見て心配してか、見知らぬ2人から声をかけられた。
「大丈夫です」
 私は2人ともに同じ答えを返した。

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