第19話小悪魔的魅力

文字数 1,173文字

私は待ち合わせの前に銀行に行き、キャッシュカードから五十万円を引き出した。
もちろん萩原海人名義のカードである。
一千万円あった金はすでに三百万円を切っていた。
半年もしないうちに七百万円も使っていたのだ。
何も考える事なく、博打ばかりしていて入院するまでは飲み屋も何軒かハシゴをするグウタラな人生を続けている。
入院してからは酒での出費はなくなったが、あいも変わらず、パチンコ、競馬ばかりの日々だったのでなくなるのも当然であった。
本当に詐欺をしないと、残りの金もすぐになくなるのは目に見えている。
だが、そんな事はあまり深く考える事なく、五十万円もの金を出したのはもちろん直美のプレゼントを買うためだ。
今時の十八歳の女性は、何を欲しがるのだろうか?
ブラント品とかだったら、幾ら位するのかわからなかったから、幾ら持ってれば良いか実際のところ見当がつかなかった。
クレジットカードがあればそれで対処するのだが、私にはそういう類のものはない。
黒崎伸一郎の時もブラックだったので持つことができなかった。
実は私は本当に見えはりな男だ。
カッコ良くもないのにカッコつけたがるなさけない人間なのだ。
金をカードで出した私は、少し早めに約束の場所に着いた。
直美と会うために身だしなみも変えなければ、この前と一緒ではカッコがつかない。
センスがいいとは思わないので、店の店員にコーデネイトを頼み上下の衣服と靴も揃えた。
そんなに高いブランド品は買わなかったがそれでも十万円はかかった。
ただ、直美にはそれ以上のプレゼントをするつもりだったのだから、ただのエロオヤジと見られても仕方のないことだった。
それでもいいのだ。
直美の素晴らしい業績を一緒に祝うことができることが、嬉しかったのである。
直美は約束の十分前に現れた。
私を見た直美はすぐに走って向かって来た。
それはまるで恋人と待ち合わせをしていた女の子の様に思えた。
無論、直美にはそんな気で走って来たのではなかっただろうが、私にはそうとしか見えなかった。(勝手に思っただけなのだが…)
「どうしたんだ。慌てて走って来て…。
何かあったのか?」
私は、走って来て直ぐに私の腕を掴んだ直美にキョトンとした表情で聞いた。
「だって、時間前なのに待っててくれてるなんて思ってもなかったから、つい、嬉しくって…」
よく驚かせる女の子である。
中年の男性と腕を組んでデパートの前にいる姿は、援助交際でもしているエロオヤジと女子高生にしか見えないかもしれない。
そんな事は、お構いなしの直美だったが、私としても、まったくもってお構いない事だった。
「とりあえず、プレゼントを買いに行こう!」
「やった!私欲しかったものがあったんだ!」
直美はそう言って私の左腕に自分の右腕を差し込んで、デパートに入った。
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