第16話詐欺師萩原海人③

文字数 1,198文字

赤ワインを一本飲みきりもう少し足りなかったが、今日は直美の解決策を考えてやらねばならなかった。
直美は通帳の使い道を私に話した。
とりあえず溜まっていた父の入院費を払い、がんの手術代を支払ったのだった。
病院の入院代は直美が月々遅れながらでも支払っていたが、手術代は医師から三百万円かかると言われていたので、諦めていたのだ。
その金が支払われた為、来月の初めに手術の日にちが決まったと喜んでいた。
どうやって金ができたと両親に話したのかと私は尋ねた。
すると直美は誰も考えないような事を親に言ったというのだった。
それを聞いた私は「そんなのは無理だよ!」
と、思わず声を荒げた。
直美の話はこうだった。
中学三年の時テニスで県大会優勝して、高一ではインターハイベスト8、二年でもベスト8だったが、バイトをしなくてはならなくなり、好きなテニスも辞めなくてはならなかった。
数校の大学からテニスの推薦でうちに来ないかと言う誘いがあったのは事実で、親も知っていた。
だが現実にはお金がなくて、大学にはいけない為にその話は終わっていたのだ。
そこで直美は高校最後のインターハイで決勝戦に出場出来れば、大学の入学金、授業料はもちろん、大学に入学するまでの生活費全てが出ると両親に話したのだった。
しかも父親の手術代も立て替えてもらえるという無茶苦茶な話を作り、両親を納得させたというのだった。
私はその話を聞いた瞬間に話には無理が幾つもあると指摘した。
まずはそんな大学はないという事。
そして一番の問題は、練習もろくにしていないのにインターハイの優勝戦まで残れる可能性はほとんどない。
高校二年生までは練習をしていたのにベスト8以上は行ったことがない。
それを半年以上練習をしていないのに全国で二位までに入る事はミクロの可能性に思えた。
しかもバイトばかりで練習する時間などない筈である…。ん?待てよ…、
私はもしかしたら…と思って直美に質問した。
「バイト、辞めた?」
すると直美は間髪入れずに大きく目を開いてうなずいた。
私はいくら君でもそのくらいの練習でインターハイに出場したとしても勝ち続けることなんてマンガの世界でしかないよ。と直美に諭すように言った。
「わかってるわ。でもそのくらい言わないと両親が納得するわけがなかったのよ。
それでも納得してはいなかったけどね」
平然と答える直美にお前は絶対に詐欺師にはなれないなと感じたのだ。
すぐに嘘だとわかるからである。
でも実際に萩原海人からの金であるとは言えない。
何故なら二度と連絡を取らないと約束した人からのお金なんて言えるはずはなかったからである。
苦肉の策であった。
「一生懸命やってダメだったら仕方がないわ」
と直美は割り切ったように私に言った。
「そりゃそうだが…」
私はそれ以上の言葉を考えることができずに濁すことしかできなかった。
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