第二話 後編 旅人はまだ倒れない
文字数 4,438文字
いままで仕事の話をまともに聞いてくれる人がいなかったな、と僕は気が付いた。
僕は独り暮らしだ。親とも別居している。
帰省したとき父親に、仕事が大変だ、という話をしても、「石にかじりついてでも続けろ」と言われた。味方になってはくれないのだな、と観念した。彼も悪い意味で昭和生まれの『昭和の人間』だ。ガマンして続けていれば報われると思っている。悩むのも一時の気の迷いだろう、と。
いや、単に昭和の『企業戦士』の発想なだけではない。「辞めて定収を失うわけにはいかない」と、会社に残るのに懸命な人が多い。それは、昭和ではなく平成不況の経験があるからこそなのだ。父親もやはりバブル崩壊の前から今まで会社員で、このところは職を転々としている。平成どころか今だって、会社の上司も先輩も、正社員の座に必死にしがみつき居座っているのだ。
アウェイ感の孤独。
もしも何か大きな事件があったら責任は、上司が被 ってくれるのではなく、むしろ僕に被せられるのだろう。彼らの自己保身のために。これは、椅子取りゲームみたいなものなのだろう。
会社の連中にいいように使われている。それは自分でも判っている。管理職がやるようなリスクと責任を伴う業務が任されている。なのに部署の雑用も、新卒の新人だということで押し付けられている。
これはイジメなのではないか? パワハラではないのか? 実際に、入社して当初は露骨なイジメも受けた。無視されたり悪口を言われたりもした。僕の経歴や能力を脅威に思ったのだろう。そのイジメがなくなっていったのも、もしかすると、便利に使える人間として利用し続けるためなのかもしれない。
過剰な業務量。「このままだと回していけない」そう訴えても、会社の方は改善する気もなく「君のワガママだ」と。人事は無視した。そのうえ、『働き方改革』とでもいうのか、残業をするなと全社的にお達しが出たから、凄まじい過密労働に突入した。それでもそう、残業しない僕は上司からも会社からも大して頑張っていない、まだまだやれると、そう思われている……。僕は都合のいい男。誰もが僕を、ときに都合よく天才扱い、ときに都合よく新人扱い。
この会社は、病んでいる。人員補充のため中途採用された人の多くが、せいぜい数年で退職していく。他方で、昔から居座っている社員たちがいる。
僕自身も考えたくないことなのだが、会社のことがいつも脳裏に貼り付いている感じなのだ。退社しても。休みの日も。
再び溜息 が出た。
その溜息が聞こえたのか。赤信号で止まると、ドライバーが運転席からバックミラーでチラッと見て、僕のことを気にかけて言った。
「アタシが言うのはおこがましいとは思いますけど、もっと御自分を大切になさった方がいいと思いますよ。随分 とお疲れのようですし……」
その通りだ。僕は、疲れている――というか、やつれている。
この会社に入ってから、昼食も喉 を通らないようになっていった。同時に、飲酒が増えた。激痩 せした。会社に入ってまだ二年ばかり。ようやく三年目になりそうだが、それは短いようでいて、苛酷で長かったように思う。僕はもう、まるで老人のようにくたびれて、擦 り切れてしまっている。
そう、深夜勤務のタクシードライバーにまで心配されるほどに、僕は酷 く不健康に見えているのだろう。しかし、上司からも親からも、こんな言葉をかけられたことはなかった……。
信号待ちを終えて、タクシーは再び走り出した。
今晩だって、何十キロもある帰路、コンビニエンスストアをハシゴ。酒をクレジットカードで買って、飲みながら歩いていた。酒が尽きるごとに、店に入って買って補充する。燃料みたいに。
哀 れだろ? 自分でも解っている。僕はこんな日々から逃げ出したくて。何もかも忘れて、独りの静かな時間を過ごしたくて……。
そうして毎晩、退勤後すぐに酒を買う。飲みながら歩けるところまで歩いて、帰っていた。自宅という目的地があるとはいえ、傍目 から見れば徘徊 しているのと同じだ。
タクシーはもう、見知った国道を走っていた。国道沿いは真夜中とは思えないほど明るい。このまま道なりに走れば、家の近所にまで出る。
「ちょっと、コンビニに寄ってもらえますか?」
ここにきて僕は、トイレに行きたくなった。
「どの会社のコンビニがいいですか?」
「どこでもいいので、一番最初に見つけたところに入ってください」
タクシーを降りる。閑散 とした店内に入って真っ先に目が合った店員に、トイレいいですか、と一言ことわる。どうぞ、と素っ気ない返事。
早歩きで奥のトイレに入って、ようやく落ち着いた。体調が悪いのは自分でも判る。そして、改めて冷静になった。
――自分の身体をイジメ過ぎだ。内臓も悲鳴をあげている。このままでは続かない。
トイレを出て、適当な飲み物を探した。もちろんもう、お酒は買わない。今度は、ジャスミン茶なんていう身体に優しそうなものを久々に買った。
見ろ、この店員だって、無理をしている僕なんかよりよっぽど賢く仕事を続けているではないか。コンビニバイトだって、れっきとした仕事だ。素っ気ない緩慢 な態度でも、ちゃんとこうして人の役に立てているではないか。そして世の中には、探せばそのくらいの働き口はある。
店外に出てフタを開け、一口だけ飲む。ふくよかな香りが拡がった。
「お待たせしました」
再びタクシー車内。再出発する。
真夜中の国道を走っていく。
「運転手さん」僕は声をかけた。
返事する彼女に、雑談ですけど、と前置きをして尋ねた。
「このお仕事のやりがいってどんなところに感じていらっしゃいますか?」
「お客様おひとりおひとりの暮らしをお支えしていることですね。こう見えても公共交通ですから」
たしかにそれは当然だ。
「なるほど、買い物とか、通院とかありますしね。それに、お葬式の方々を乗せたりとかも……」
「子供が生まれそうだというかたをお運びしたり、これから大事な商談だというかたを現地までお乗せしたり、そういう人生の大事な場面に関わらせていただくこともけっこう多いんですよ」
僕の思っていた以上に、タクシーというものは世の中を左右しているものなのだ。
「とはいえ、アタシにできるのはあくまでも裏方ですけどね」
そう謙遜するが、彼女に敬意がわいた。
「いえいえ、御立派ですよ」
それに比べて僕は、何をしているのだろう。こんなところにいるはずじゃなかったはずだ。
僕には、やらなくてはならないことがあるはずだ。僕にしかやれないことが。そう、僕の当面の目標は弁護士になることだったはずだ。そして将来は、世の中を根底から直す原動力になる。僕には、世の中の理不尽が見えるし、それを直すことを考える頭もある。その能力を使わないでいてはならない。
幼い頃になりたかった職業。それは、国連事務総長だった。国家権力のせめぎあいで、例えば戦争や軍拡のように人類全体が間違っているし、そのせいで個人が、生身の人間が苦しめられている。
僕は権力や権威がキライだ。それに対して、ひとりひとりを大切に思う気持ちは止められない。だから昔から「お前は会社勤めに向いていないよ」とよく言われたものだった。
その通りだ。僕は組織に向いていない。人が虐 げられているのを見て見ぬふりすることができない。それなのに、奨学金返済や生活費のために無理して就職した。そして、こんなことになっている。会社の同僚たちひとりひとりを常々気にかけて、社内の間違いをただそうと毎日奮闘しなければならなくなっている。僕はたったひとりで、自信も責任ももてないのに、役職もないのに、助けを求めてくる職場の人たちに頼られて見捨てられずにきた。
けれど、僕はこんなところで擦り減っている場合ではないはずだ。こんなことをしていれば、世の中はよくならないし、それ以前に僕自身の心身がもたない。僕は、こんなところで倒れていいタマなのか?
思えば配属されたときからおかしかった。
二人しかいない法務課。大所帯のコンプライアンス課。
二人では到底回せないから増員されたのは間違いがない。そして元からいた先輩女性が結婚することも既に決まっていたのだろう。結婚するから業務量を減らすために、余裕のあるコンプライアンス課に異動させる。その後任に据えられたのが僕。結局は二人しか割り当てのない部署なのだ。その無謀な業務量をこなせる即戦力を求めていた。スーパーマン。二人しかいない部署だから、辞めるに辞められない。張り付けられる。その張り付けから彼女を解放するために僕が生贄 にされたということ。
バカらしい。僕はあまりにも性善説的だった。優しすぎる。僕はこんな連中の相手をして過労死してこの世を棄てていい人間なのだろうか。
僕は、他人に優しく自分に厳しいのがモットーだ。そうしているつもりだった。しかし長い目で見たら、いま目先の人間たちを甘やかさず厳しく突き放して、会社を見捨ててしまうべきなのではないだろうか。その決断から逃げてきた僕は、自分にも甘かったのではないか。
僕は全知全能ではない。会社の人たちの面倒も司法試験のことも何もかも全てはやれそうにない。僕には、自分の弱さを認める厳しさが必要だ。
僕はなんのために、中学受験から始まり、法学部に行って、そして法科大学院まで修了したのか? 世の中変えるためではなかったのか? 思い出せ!
そもそも法科大学院制度自体が悲惨な失敗だったと思う。しかしそれでもそちらを選んだからには、今までやってきたことをなるべくは無意味にしたくない。受験年数には制限がある。合格せずに徒過しても、予備試験からやり直すことはできるが、そもそもそんな年数をかけている暇はない。いましかない。これは必要な通過点だ。
しばらく静かな車内で考えていた。夜中は国道も、案外にもの静かなものである。
こうしてグルグルと考えをまとめているうちに、自宅のある賃貸マンションの近くまで来た。
「運転手さん、あそこのガソリンスタンドのとこの立体交差を降りてください」
こうしてタクシーはマンションの入口前に着いた。代金はクレジットカードで払う。このカードもどうしようか。退会しようか。いや、もっていたほうがいいのかもな……。
「ありがとうございました。くれぐれも御無理なさらずに」
「こちらこそありがとう、運転手さんもお元気で」
タクシーは走り去っていった。
僕は土日の間に退職届を書いて、月曜早々に会社に突きつけた。お金のことは……おいおい親に相談しよう。
――ところで。僕の人生も変えた、あのタクシー。もしも出逢わなければ、僕の人生は詰んでいた。「迷子タクシー」とは、いったい何者なのだろうか?
料金は適正だったし、それもキッチリ、クレジットカードに請求されていた。
しかし、登記情報をみてもやはり「株式会社迷子タクシー」という商号の会社は存在しなかった。
僕は独り暮らしだ。親とも別居している。
帰省したとき父親に、仕事が大変だ、という話をしても、「石にかじりついてでも続けろ」と言われた。味方になってはくれないのだな、と観念した。彼も悪い意味で昭和生まれの『昭和の人間』だ。ガマンして続けていれば報われると思っている。悩むのも一時の気の迷いだろう、と。
いや、単に昭和の『企業戦士』の発想なだけではない。「辞めて定収を失うわけにはいかない」と、会社に残るのに懸命な人が多い。それは、昭和ではなく平成不況の経験があるからこそなのだ。父親もやはりバブル崩壊の前から今まで会社員で、このところは職を転々としている。平成どころか今だって、会社の上司も先輩も、正社員の座に必死にしがみつき居座っているのだ。
アウェイ感の孤独。
もしも何か大きな事件があったら責任は、上司が
会社の連中にいいように使われている。それは自分でも判っている。管理職がやるようなリスクと責任を伴う業務が任されている。なのに部署の雑用も、新卒の新人だということで押し付けられている。
これはイジメなのではないか? パワハラではないのか? 実際に、入社して当初は露骨なイジメも受けた。無視されたり悪口を言われたりもした。僕の経歴や能力を脅威に思ったのだろう。そのイジメがなくなっていったのも、もしかすると、便利に使える人間として利用し続けるためなのかもしれない。
過剰な業務量。「このままだと回していけない」そう訴えても、会社の方は改善する気もなく「君のワガママだ」と。人事は無視した。そのうえ、『働き方改革』とでもいうのか、残業をするなと全社的にお達しが出たから、凄まじい過密労働に突入した。それでもそう、残業しない僕は上司からも会社からも大して頑張っていない、まだまだやれると、そう思われている……。僕は都合のいい男。誰もが僕を、ときに都合よく天才扱い、ときに都合よく新人扱い。
この会社は、病んでいる。人員補充のため中途採用された人の多くが、せいぜい数年で退職していく。他方で、昔から居座っている社員たちがいる。
僕自身も考えたくないことなのだが、会社のことがいつも脳裏に貼り付いている感じなのだ。退社しても。休みの日も。
再び
その溜息が聞こえたのか。赤信号で止まると、ドライバーが運転席からバックミラーでチラッと見て、僕のことを気にかけて言った。
「アタシが言うのはおこがましいとは思いますけど、もっと御自分を大切になさった方がいいと思いますよ。
その通りだ。僕は、疲れている――というか、やつれている。
この会社に入ってから、昼食も
そう、深夜勤務のタクシードライバーにまで心配されるほどに、僕は
信号待ちを終えて、タクシーは再び走り出した。
今晩だって、何十キロもある帰路、コンビニエンスストアをハシゴ。酒をクレジットカードで買って、飲みながら歩いていた。酒が尽きるごとに、店に入って買って補充する。燃料みたいに。
そうして毎晩、退勤後すぐに酒を買う。飲みながら歩けるところまで歩いて、帰っていた。自宅という目的地があるとはいえ、
タクシーはもう、見知った国道を走っていた。国道沿いは真夜中とは思えないほど明るい。このまま道なりに走れば、家の近所にまで出る。
「ちょっと、コンビニに寄ってもらえますか?」
ここにきて僕は、トイレに行きたくなった。
「どの会社のコンビニがいいですか?」
「どこでもいいので、一番最初に見つけたところに入ってください」
タクシーを降りる。
早歩きで奥のトイレに入って、ようやく落ち着いた。体調が悪いのは自分でも判る。そして、改めて冷静になった。
――自分の身体をイジメ過ぎだ。内臓も悲鳴をあげている。このままでは続かない。
トイレを出て、適当な飲み物を探した。もちろんもう、お酒は買わない。今度は、ジャスミン茶なんていう身体に優しそうなものを久々に買った。
見ろ、この店員だって、無理をしている僕なんかよりよっぽど賢く仕事を続けているではないか。コンビニバイトだって、れっきとした仕事だ。素っ気ない
店外に出てフタを開け、一口だけ飲む。ふくよかな香りが拡がった。
「お待たせしました」
再びタクシー車内。再出発する。
真夜中の国道を走っていく。
「運転手さん」僕は声をかけた。
返事する彼女に、雑談ですけど、と前置きをして尋ねた。
「このお仕事のやりがいってどんなところに感じていらっしゃいますか?」
「お客様おひとりおひとりの暮らしをお支えしていることですね。こう見えても公共交通ですから」
たしかにそれは当然だ。
「なるほど、買い物とか、通院とかありますしね。それに、お葬式の方々を乗せたりとかも……」
「子供が生まれそうだというかたをお運びしたり、これから大事な商談だというかたを現地までお乗せしたり、そういう人生の大事な場面に関わらせていただくこともけっこう多いんですよ」
僕の思っていた以上に、タクシーというものは世の中を左右しているものなのだ。
「とはいえ、アタシにできるのはあくまでも裏方ですけどね」
そう謙遜するが、彼女に敬意がわいた。
「いえいえ、御立派ですよ」
それに比べて僕は、何をしているのだろう。こんなところにいるはずじゃなかったはずだ。
僕には、やらなくてはならないことがあるはずだ。僕にしかやれないことが。そう、僕の当面の目標は弁護士になることだったはずだ。そして将来は、世の中を根底から直す原動力になる。僕には、世の中の理不尽が見えるし、それを直すことを考える頭もある。その能力を使わないでいてはならない。
幼い頃になりたかった職業。それは、国連事務総長だった。国家権力のせめぎあいで、例えば戦争や軍拡のように人類全体が間違っているし、そのせいで個人が、生身の人間が苦しめられている。
僕は権力や権威がキライだ。それに対して、ひとりひとりを大切に思う気持ちは止められない。だから昔から「お前は会社勤めに向いていないよ」とよく言われたものだった。
その通りだ。僕は組織に向いていない。人が
けれど、僕はこんなところで擦り減っている場合ではないはずだ。こんなことをしていれば、世の中はよくならないし、それ以前に僕自身の心身がもたない。僕は、こんなところで倒れていいタマなのか?
思えば配属されたときからおかしかった。
二人しかいない法務課。大所帯のコンプライアンス課。
二人では到底回せないから増員されたのは間違いがない。そして元からいた先輩女性が結婚することも既に決まっていたのだろう。結婚するから業務量を減らすために、余裕のあるコンプライアンス課に異動させる。その後任に据えられたのが僕。結局は二人しか割り当てのない部署なのだ。その無謀な業務量をこなせる即戦力を求めていた。スーパーマン。二人しかいない部署だから、辞めるに辞められない。張り付けられる。その張り付けから彼女を解放するために僕が
バカらしい。僕はあまりにも性善説的だった。優しすぎる。僕はこんな連中の相手をして過労死してこの世を棄てていい人間なのだろうか。
僕は、他人に優しく自分に厳しいのがモットーだ。そうしているつもりだった。しかし長い目で見たら、いま目先の人間たちを甘やかさず厳しく突き放して、会社を見捨ててしまうべきなのではないだろうか。その決断から逃げてきた僕は、自分にも甘かったのではないか。
僕は全知全能ではない。会社の人たちの面倒も司法試験のことも何もかも全てはやれそうにない。僕には、自分の弱さを認める厳しさが必要だ。
僕はなんのために、中学受験から始まり、法学部に行って、そして法科大学院まで修了したのか? 世の中変えるためではなかったのか? 思い出せ!
そもそも法科大学院制度自体が悲惨な失敗だったと思う。しかしそれでもそちらを選んだからには、今までやってきたことをなるべくは無意味にしたくない。受験年数には制限がある。合格せずに徒過しても、予備試験からやり直すことはできるが、そもそもそんな年数をかけている暇はない。いましかない。これは必要な通過点だ。
しばらく静かな車内で考えていた。夜中は国道も、案外にもの静かなものである。
こうしてグルグルと考えをまとめているうちに、自宅のある賃貸マンションの近くまで来た。
「運転手さん、あそこのガソリンスタンドのとこの立体交差を降りてください」
こうしてタクシーはマンションの入口前に着いた。代金はクレジットカードで払う。このカードもどうしようか。退会しようか。いや、もっていたほうがいいのかもな……。
「ありがとうございました。くれぐれも御無理なさらずに」
「こちらこそありがとう、運転手さんもお元気で」
タクシーは走り去っていった。
僕は土日の間に退職届を書いて、月曜早々に会社に突きつけた。お金のことは……おいおい親に相談しよう。
――ところで。僕の人生も変えた、あのタクシー。もしも出逢わなければ、僕の人生は詰んでいた。「迷子タクシー」とは、いったい何者なのだろうか?
料金は適正だったし、それもキッチリ、クレジットカードに請求されていた。
しかし、登記情報をみてもやはり「株式会社迷子タクシー」という商号の会社は存在しなかった。
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