第5話

文字数 3,525文字

「失礼しま〜す」

三人で和寿バーガーでのミーティングをした水曜日から二日が経過した金曜日の昼休み。平日いつもどおり学校の自分の教室にいたヨウコのところにマユカがやって来た。見慣れない女子生徒が入ってきた生徒たちの注目が集まるなか彼女はそれに臆さず、窓際のヨウコの席に近づいていった。


ちなみに今日も遠くからのリモートナレーションである。


「センパーイ!」
「マユカ」
「明日のこと準備してました?」
「あんたさ〜清々しいのはいいけどよく気兼ねなく堂々と入ってこれるよね?」
「ん?私は親愛なるヨウコ先輩に会いに来ただけですよ。あれ?迷惑でした?」
「いや別に迷惑じゃないけど・・・私だったら上級生のクラスにそんな気軽に入っていけないわ」
「まぁまぁ細かいことは抜きにましょうよ。私もイチオウ準備しておきましたよ。冷却フィン付き強力マグライトと、ブーツタイプの安全靴に絶縁グローブも買いました。さすがにヘルメットはやり過ぎてかダサいんで帽子いいかなって。あとスタンガンもあるし個人的にはもう完璧ですよ」

「やる気エグない?私も一応安全靴は買っておいたけど。シューズタイプのやつだけどやっぱり底に鉄板入ってるから、暴漢対策にも使えるんだってね。軽くすねを蹴っただけでめちゃくちゃ痛いってさ」
「うんうんステレス性能付きの履く凶器ですよね。まあでも先輩が出るまでもなく、私が回し蹴りで終わらせますけどね」
「JK好きの変態とかが襲ってきたときにその力を十分に発揮してくれたまえ」
「任せてください! でそれから今日は、ちょっとしたニュースを持ってきたんですよ〜ムフフ」
「ニュース?」

「そうです。なんと実はキー&ウッシーと連絡が取れたんですよ!」
「え!?どうやって?」
「私のコネクションをフル活用して彼らに辿り着けたんです。知識は先輩に負けますけど人脈は私のほうがウエですからね〜」
「まぁそうだろうけどさぁ、アラマタのイベントもだけど、アンタそういうの見つけるのうまいよね。連絡取ったって電話とかライン?」
「ええ、ふたりのうちの通称“キー坊”の方のキリトさんと直接話が出来て・・・あっとそういえば先輩、前にあの廃ビルで彼らに会ったって言ってましたよね?だから私話したんですよ。「知ってますか?」って。そしたらすっげぇびっくりしてて!」
「覚えてたの?」
「うんうん。女子高校生のことは覚えてるって。二人じゃなくて一人だけしか会ってないって言ってましたけど、たぶん話聞いた感じからしてヨウコ先輩でしたよ」
「たしかに会った。その時は私だけしか居なかったんだよ」
「やっぱり!キリトさんからその前後の成り行きについてもざっと話を聞いたんですけど、なんか言ってる意味よくわからなかったんですよねぇ。猫に食べられそうになったとか・・・闇に飲み込まれたとかって。そして気づいたら全裸だったみたいな?オカルトにハマり過ぎると別の意味でヤバいのかもって思ったんですけどね、アハハ」
「あのさ、仮にアンタの知らない世界があったとしてみ。例えば不思議な国のアリスみたいにさ、間違って異界に迷いこんでしまったとしてさマユカだったらどうする?」

「その時はスマホで隠し撮りしまくりますよ。戻ってきたら即インスタにアップロードして、そりゃもうクソデカバズ確定っしょ」
「それって無事帰れればの話でしょ?でも現実はそう甘くなくて、ネズミに変えられて猫の餌にされかけたりするわけ。運良く逃げ切れたとしても、録画データは全部消されて気づいたら全裸で恥ずっみたいな目に遭うわけよ」
「それってなかなか興味深い展開ですねぇ・・・。それどのアニメの話ですか?」
「『異世界転生した老紳士は先祖返りの夢を見る』って話だよ」
「すっげぇ〜興味引かれるタイトルですけどぇ・・・それ冗談ですよね?」
まぁそうかもね」

「要するにホームレスかよくわからんヤバいオジが廃ビルに隠れていて、不意を疲れた先輩たちが絡まれたってことですよね?ネズミとか猫とかアホくさくて意味わからないですけど。でもその老人いなくなったんでしょ?」
「当たらずとも遠からず・・・まぁその辺もう気にしなくていいよ。それでキー坊てかキリトさんは他に何か言ってた?」

「そうそう!あと「二人は無事なの?」って聞かれたっけ。めっちゃ真剣なトーンで聞いてきたんで私ちょっと引いたんですけど、一応「普通に生きてますよ」って答えたら、こんどは先輩に会って話がしたい!って言うんですよ」
「まぁそうだろうなぁ。彼らも大変だったしあの廃ビルについての曰くをアラマタから聞いてるって話しだし当然気になるわな」
「なんですかそれ?意味深ですねぇ・・・もしかしてヨウコ先輩惚れられたんじゃないんですか?」
「はいそこ話をややこしくしない。あと言っておくけどさぁ、マユカあんまりあの廃ビルのこと舐めてかからない方がいいよ」
「別になめてないですけど〜あの廃墟が別格てか普通でないってのはわかってますよ。おかしな夢を見ましたしね。先輩がそこまで言うなら私も、帰ってから明日に向けて腹筋百回やって気を引き締めますよ」
「あとそういえばさ、私の方も昨日ネットで調べたんだけど、地中探索レーダーを手に入れるなんて無理だった。地下数メートルを探索するために高出力の電磁波が必要みたいで、一般人がアマゾンで買えるようなおもちゃじゃコンクリートの壁一枚が関の山だって。業務用をレンタルする会社もあったけど、プロ用の探索機器なんて高校生じゃ断られるだろうね」
「そりゃそうでしょうよ。TVの特別番組で徳川埋蔵金とか探すくらいじゃないと。てかそういえば、キー&ウッシーならワンチャンそういう機械もコネで使えたりしないですかね?」
「う〜んそれはどうだろ・・・?」
「わかんないですけどぅ学校終わったらまた連絡とってみますよ」

「そういえば今の話、レイカにも伝えておこうか?やっぱり行く気失せてるかもしれないけどさ」
「隣のクラスでしたよね?」
そういうことで、ヨウコとマユカは隣のクラスに移動してレイカを教室の外に呼び出した。三人は三階の南側、人気の少ない渡り廊下に移動した。そこでヨウコはマユカからの今さっき聞かされた話をレイカに伝えた。
「え?キー&ウッシーと話したの!?」
「ええうまい具合に人脈つながって」
「凄いね!話してどんな感じだった?」
「動画のまんまの感じでしたよ。裏表ない好青年って感じの。オカルトに全振りした真面目君とも言えますけど」
「どうやらキー&ウッシーもあの廃墟ビルの向こう側の世界のこと覚えていたらしいんだよ」
「そうなの?」

「うん、私はあそこで彼らにあってるし、あの老人も含めて話をしてるから」
「その老人って話からしてラスボス感ビンビンですよね。声が若松ノリオって感じで」
「ラスボスは別にいるんだって。謎の人型生命体が」
「なんですかそれ?気になるなぁ・・・」
「たぶんキー&ウッシーもそれを突き止めたいんだよ」
「私たちも突き止めましょうよ! そして怪異頻発廃墟の原因を遂にJKが全容解明!みたいな感じで怪異シーカーズでライブ配信してもらうとか?」
「マユカは何にもわかってないからそんな呑気に言えるんだよ」
「わかってないっていうか〜マジで意味不明な話にしか聞こえないんですよね・・・」
「わかってもらわなくていいけど、触らぬ神に祟りなしって言葉は知ってるでしょ?」
「それなら意味わかりますけど」
「てかレイカ、目の下にクマ出来てね?やっぱり眠れてないの?」
「いや不眠じゃなくてただ単に寝不足なだけ。朝までゲームやっちゃってハハハ・・・」
「ゲームやれるだけ元気になってきたってことかぁ。新作?面白いの?」
「うん最近出たゲームなんけど、ミッドナイトシンドロームっていうホラーゲームでね。無料なんだけどめちゃくちゃ面白くてさ」
「無料なんですか?」
「課金ゲーでしょ?」
「へぇ〜最近そういうゲームもあるんだね。課金ゲームの浅ましさに気づいてゲーム界もパラダイムシフトきたのか?」
「なぜ無料よくわかんないけどヨウコもやってみてよ」
「私ゲームやんないからなぁ・・・。でも気が向いたら調べてみるよ」
「私もチェックしてみます」

そんなとき昼休みの終了五分前のチャイムが廊下に響き渡った。
「じゃーさ、今日の授業終わったらまた三人で集まろうよ。マユカからキー坊に連絡とってもらって、明日のことはそれから考えよう」
と言って三人はそそくさと別れて、それぞれのクラスへ戻っていった。そして校舎は静かな午後の昼下がりを迎えるのだった。


ちなみにミッドナイト・シンドロームは本当に実在するゲームで無料で遊べる。気になった人はチェックしてネ!


To be continued.

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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

唯々野マユカ。都立雛城高校一年生。性格は明るくルックスよき。故に男子生徒から人気がある。それを自覚した振る舞いの出来るしたたかな面もある。弓道部所属で、”赤い目の女”編と天国と地獄”編に出た水原レイカの部の後輩。適当に入った部なので、皆からそのうちやめるだろうと言われている。レイカつながりでヨウコと知り合い一部からバカ勇者と揶揄されるヨウコのズバズハ物を言う気の強さの反面さばさばした感じのギャップを感じ、変なあこがれを抱いている。

コタロー。村山台の若い雄の地域猫。もともとナレーター系猫だったが、"天国と地獄"編で遭遇した始祖人類から能力を開花されて神視点を手に入れたことで、場所に関係なく遠隔ナレーションことが可能になった。

富等井セイナ。恋するメンヘラキャンパスのヒロイン。

四方木タクト。恋するメンヘラキャンパスの主役富等井セイナの大学の先輩で恋人役。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

店員。

スーパーコタロー。

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