泣きそうになりながら僕は

文字数 3,548文字

(くっ……これがあるから……でも、これがあるおかげで、時給があり得ないぐらい破格なんだよね)
VIPカードを持っている会員がお会計する時だけ、レジにバーコードを通す時に体に取りつけられたエッチなおもちゃたちが振動して、快感を与える。

値段が表示されない旧式のレジでもないのに、いちいち商品分類を読み上げさせられるのも、お客様へのサービスの一貫だった。
(なんてエッチな制度なんだ……)
最初このシステムを聞いた時はなんだそれって思ったし、にわかには信じられなかったけど。でも、イケメンの店長に言いくるめられてしまって、結局バイトしてる。
(そんなシステムだから、働いてるのは女の人ばかりで、VIPカードを持っているのも男ばかり……)
売り上げも、男の人からの売り上げの方が断然高いんだって。

そんなスーパー初めて聞いたけど、こんなシステムなら、そうなるよね。

今も何個か前のレジから、湿った女の人のエロい、押し殺したような声が聞こえてくる。
(きっとVIPカードを持ってる人に当たったんだ……)
こんなシステムがあったら……。いくらだって買い物しちゃうよ。

僕だって、バイトの面接に来る前からこのシステムを知ってたら、お客様としてここを利用したかもしれない。
どうしたの? 時間かけちゃって……。じっくり味わいたいってことかしら?
い、いえ。そういうわけじゃ……眉ペン……一点、はぅ……っ
振動が強くなって、僕は体をくねらせる。

今までの合計金額を見ると、四千円を超えていた。

金額が上がると、おもちゃの振動も強くなる。だからこの人は、高いものからレジを通させようとしたのだ。
は、はあ、バナナ……一点……、ほうれん草……一点……
……♪
ナス、いっ……、あ、あ
また強くなった。確認すると五千円超えていた。

五千円を超えると、振動はいっきに強くなる。

僕はエプロンの前を掴んで、快感を耐え忍ぼうと目を閉じた。手がプルプルと震えてしまう。体が汗ばんでいた。
もう……無理です……っ
思わず弱音が口をついて出る。

僕の前はすぐに弾けてしまいそうなくらいびんびんに勃起して、先走りを溢れさせていた。
(乳首だって……こりこりに尖って硬くなっちゃってる……)
何より辛いのは、おしりに入れられたローター。

男性用の小さいものだけど、振動が敏感なところを刺激して、立ってるのもつらいくらいだった。
(ぜ、前立腺……!)
前立腺の名前は店長が教えてくれた。

最初、振動してないローターをお尻に入れられただけで異物感がすごくて、無理ってなってた僕に、店長がそっちの知識を教えてくれたのだ。

今は少し慣れて、ローターを入れただけだとわりと大丈夫になったけど、やっぱり振動されると無理ってなる。
無理ですって? あら、じゃあ、あたしに買い物するなっていうの?
カウンターについた両手で自分の体を支えてうつむいていると、顎に手を添えられて、無理やり顔を上げさせられた。
う……、は、違います……
確かに、途中で放置はダメなのはわかってるけど。

カゴの中に目を向けると、まだ三分の二くらい商品が入っていた。
(これ、いくらになるの? いつ終わるの? 高いのばっかり最初に出してくるなんて、ずるいよ)
僕は泣きそうになりながら、女の人を見つめる。
さあ、続けなさい。
……はい。
しぶしぶまた商品を手にとって、レジを再開した。
牛肉……あ、んんっ、い……てん
振動が止まらない。

僕は体をよじって、エプロンをかきむしった。

お尻の穴がひくひくと収縮し、振動する硬い物体を変なふうに締め付けた。それがまた、新な快感を引きずり出してくる。
う、ふぅ、お姉さん……っ
頭の中がぼーっとして、すがるように名前も知らないお姉さんを呼んでしまう。
可愛いわ……ぞくぞくしちゃう。はい、次、まだまだあるわよ?
お姉さんはなかなか進まないことに焦れたのか、自らカゴの中の商品を取って僕に渡してきた。
みりん……い……てん、あ、あんみつ……、あ、あ、だめっ……
僕の声は高く上ずって、背中を大きくしならせた。

欲望に塗りつぶされて、おかしくなっちゃう。

たまらず股関を触ろうと手を伸ばすと、手首を掴んで止められる。
……何をしようとしてるのかしら? 仕事中でしょ?
あ、あ、おね……さんっ
イケないのが辛くて、目からはポロポロと涙がこぼれ始める。

頬も熱くて、きっと赤い。

今僕、どんな情けない顔をしてるんだろう。お姉さんの前で。その後ろには他のお客さんだっているのに。

その時だった。
あ、あ、あんん、イクぅぅぅっ!
前の方のレジから、女の人の絶頂の時の声が聞こえた。

間もなく、中年のおじさんに両肩を抱えられ、若い女の子――確か花園さんがレジの脇を歩いていく。
さあ、こっち、こっち……♪
は、はい……。
桜いろに上気した頬と、うるうるな瞳。熱い吐息。
(イッた直後の花園さん……すごく色っぽい……)
僕は横目で眺めてぞくぞくしていた。

会計中にイッてしまった人は、そのお客様にオマケのサービスをしなくてはならない。

(花園さん……今から、あのおじさんと……)
は、あ……っ
花園さんのエッチな姿を想像してしまって、僕のお尻がまたきゅっと締まった。

それでもカゴの中を空にしないと終わらない。僕は商品を手に取る。
砂糖、一点……はうっ、はあ、ガム……う
ぶるぶると、おもちゃたちが震える。膝がガクガクした。
ガム一点……、あ、コーヒー、あ、あ、ヤバ、イッ……
じんじんと下腹部に響き続ける振動。

震え続ける振動が、たまらない場所を刺激し続けて……。
あ、ああ……っ、イッちゃう……!
僕の背が仰け反って、ズボンの中で勢いよく吐精してしまった。

立ってることができず、商品を手放してその場に崩れ込む。
はあ、はあ……んん
(……イッちゃった。我慢できなかった)
ぞくぞくがなかなか止まらない。

濡れた下着も気持ち悪かった。

倦怠感にしばらく動けずにいると、頭上から情け容赦ない声が降ってきた。
立ちなさい、まだ残ってるでしょ?
顔を上げ、ぼんやりとお姉さんを見上げる。
(……やっぱり今日も許してくれない)
お姉さんのお会計の途中でイッちゃったのは今回が初めてじゃなかった。今までもあった。

だけどお姉さんにオマケのサービス、つまりエッチなことをしたことは一度もなかった。それは求められたことがないのだ。

ただイッても許してもらえず、おもちゃを入れたまま会計を続けさせられる。

今みたいに。
は……い……
……こんなに残ってるのは初めてだ。

ちらりとお姉さんの後ろに視線を向けると、年代の様々な女性が四人ほど並んでいる。

レジが遅くてイライラしてる人はいなくて、逆にみんな、興奮した様子で僕を見ていた。

僕は慌てて視線をレジに戻した。
(お姉さんにだけじゃない、他のお客様にも見られてる。おもちゃで感じていた姿を、イッた姿を……恥ずかしいっ)
早く終わらせたくて、商品を手に取り慌てて流した。
桃の缶詰……いって……ああっ
またぶるりと震えた。イッた直後の体はさっきまでよりも敏感になっていて、快感は三割増しだった。

ふにゃりと萎んでいた僕のが、また頭をもたげ始める。

構わず、残りの商品を流していく。
あ、あ、ああ、乾燥パス……タ、一点……、ふぁあ……っ
下腹が熱くて、溶けてくみたいだ。

もう何がなんだかわからなかった。頭の中が、白く染まっていく。

振動は商品を通した瞬間だけでも、永遠にお尻の中は震え続けているような錯覚を覚えていた。

口を閉じることもできず、半開きの口からは、唾液が零れていた。
(あと三つ。三つで終わる……)
終わりがようやく見えてきて、僕はちょっとだけほっとした。

三つのうちの一つを、レジに通す。
お刺身……いって……、え、あ、ああ、何これ……っ、ああんっ
今までよりも強い振動に、体が跳ねる。
あ……あ、あああ……っ! ……お尻、変……っ
金額を見ると、なんと一万を超えていた。そのせいで振動が強くなったのだ。
イッちゃう……、止まらないぃ……っ
お尻がひくひくときつく収縮し、快感が突き抜ける。あっという間に再び絶頂を迎えた。

でも僕のは勃起したまま射精していない。
強い絶頂の感覚だけが、止まらない。

カウンターに両手をついても支えきれず、ずるずるとまた膝をついた。
あら、もしかしてドライオーガズムってやつかしら?
ドラ……う、う?
聞いたことのない言葉。反芻しようとしても呂律がまわらない。
えっと……、前立腺を刺激することで起こる、射精を伴わない絶頂のことでね……
って、ねえ、大丈夫?
……。
頭がぼーっとして、体に力が入らない。

僕は何かに体を預けて目を閉じた。何に寄りかかっているのかもわからなかった。

そのまま吸い込まれるように、意識が遠のいていく。
……あら、やりすぎたかしら。
頭上で声が響いたような気がしたけれど、すぐにわからなくなった。
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登場人物紹介

紗美菜(さみな)さん

スーパーのレジ打ちのパートタイマー。

花園キリコ(はなぞのきりこ)

専門学校生のアルバイト。

齋藤(さいとう)くん

店長に言われ、女性従業員が多い中、レジ係にされた男の子。童顔だけど大学生。

吉村(よしむら)くん

近所の大学に通うスーパーの常連客。イケメン。

お姉さん

スーパーの常連。長い黒髪の美しい女性客。

佐和田(さわだ)さん

いつも半端な時間に買い物に来るお客さん。

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