V. 夕暮れ時の走り書き

文字数 348文字

 冷たい風が吹いて、枯れた葉のひとひらが落ちても、むなしいばかりだ。それは私の清廉潔白を蝕むような生命力が、その乾いた焦げ茶色の葉や、落ちた枝や、動物の死骸のその下に地獄の炎のように燃えているからだ。
 葉の落ちるたび、枝の落ちるたび、動物たちが命を落とすたび、私も一粒の涙を落とすことができたなら。嗚呼。荒く寄せるこの暗い生命の波に。ただ一粒の。一粒の涙を。褪せた大地に。落つ私の涙が、それが土中の美しい芽をいくらか潤すことを知れたなら。寄る闇に自ら向かってゆく勇気を持てるだろうか。夕の空気に含まれた新たな救いの気配を感じ取れるだろうか。また、人家の灯りを恐れず、季節の巡るたび違う顔をした人々のなかを平気で歩けるだろうか。
 雑踏のなか気高く背筋を伸ばし、目的地を失わずにいられるだろうか。
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