第4話  院内彷徨

文字数 858文字

頭の中を通り抜ける様な電気的な機械のうなる音。

鼻をつくアルコールの匂い。

廊下中に響く自分の靴音。

死体を置いてあった部屋を出てからもう、かなり歩いた。

何度も階段を昇りそろそろ受け付けについても良さそうなものなのだが、一向にたどり着かない。

むしろ、さっきより病院の地下深く潜り込んでいるような雰囲気だ。

足元を小さな動物のようなものが走り抜けていく、鼠だろうか。

歩けば歩くほど出口が遠ざかって行くようだ。

と言って歩くのをやめても出口がやってくるわけでは決してない。

確かにこの階段を降りてきたという覚えはあるのだが、さっきはこれ程明るくはなかった。

来たときにはまだ残っていた黄色の線も今はとうに消えてしまっている。

一体、どう歩けば受け付けの所まで行けるのか通りかかる人に尋ねようと思っているのだがつい今し方、えらく不満げな美人の看護士が通り過ぎたきり誰にも会わなくなってしまった。

窓から顔を出して自分が今いる建物の外観を見ると赤茶けたレンガ造りに蔦が這っている。

入ってきた建物はコンクリートの現代的なビルだったのだから、いつの間にか別の棟に迷い込んでしまった様だ。

コンクリートのビルは向かい側に見えていて受け付けの出入口も見えている。

だが、いくら歩いてもその窓から見えている出入口にはたどり着かない上にいつの間にか3階まで昇ってきてしまっている。

通路には靴箱みたいな木の棚がいくつも並べられ、各種の臓器の入ったホルマリンの瓶や頭蓋骨が数えるのが面倒くさくなるぐらい乗せられている。

背を丸めてモソモソと歩く白衣の男やバサバサの髪を膨らませた白衣の女があちらこちらの扉をひっきりなしに出入りしている。

だけど、どうも声のかけにくい雰囲気をもっている。

そろそろ、沈み始めた太陽の日差しが窓から入り込み僕の影を引きのばし廊下の床に貼り付ける。

人の気配に振り返ると看護士が部屋の扉から半身だけ出して不振そうに見ている。

いくらかはまともそうな感じがしたので出口へはどう行けば良いのか、この病院は迷路のようだといいわけをしながら話しかける。
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