9月 月見

文字数 1,558文字

 睦千が持って帰ってきた紙袋がガサリと音を立てる。そして、ジャンクな香り。
「おかえりー」
「ただいま」
 いつも通りクールに返事が来るが、気持ち、ただいま(スタッカート)、もしくはただいま♪、みたいな、るんるんの気配を青日は感じた。そりゃ、るんるんだろうと、睦千の持つ紙袋を見る。
「パックンバーガーと、ぺこりコーヒーと、満月ひよこ堂と、あと、ポーラも行ってきた」
「やったー! ポーラの限定!」
 九月と言えば月見、月見と言えば、卵である。卵じゃなくても、何か黄色い丸いものを乗っけたくなるのが人間である。睦千はこの季節になるといそいそと買い集めてくるわけで。
「パックンバーガーの限定卵バーガーとぺこりコーヒーの季節特製エッグバーガーは定番」
「ポーラはうさちゃんケーキでしょー、満月ひよこ堂ってなんだっけ?」
「まんまるカステラカスタードサンド」
「えーおいしそー!」
 でしょでしょ、と睦千はポーラのケーキを冷凍庫に入れた。それから紙袋の中から紙に包まれたバーガーと、ポテト、ナゲット、気持ち分のサラダを次々と取り出す。青日はその音を聞きながら、冷蔵庫からコーラの瓶を取り出した。
「やっぱりコーラだよねー、町天狗漢方堂のやつ買ってきてたんだー!」
「いつのまに」
「さっきお散歩行ってきた」
「天才。これ、たまにしか売ってない」
「町天狗ってもうコーラ屋さんになればいいのにってくらい、コーラしか売れてなくない?」
「分かる」
 コーラを食卓に並べると、まさにこれと言う絶景、心の余裕はジャンクフードから、と言ったのは、睦千か青日か、どこかの誰かか、まあいいや、と青日は手を合わせる。
「いただきます!」
「はいどうぞー」
「……睦千が作ったわけじゃなくない?」
 青日が紙をめくりハンバーガーを出しながら突っ込むと、買ってきたのボクだし、と反論される。
「どっちからにしよ……パックンかな……」
 睦千はちょっと悩み、パックンバーガーの包みをとった。ちなみに青日はぺこりコーヒーの方からにした。ぺこりコーヒーの方がパンが美味いので。そのバーガーにむぐりと齧り付く。小麦と香りと柔らかいパンの食感、レタスの端っこと卵の白身、やっぱりハンバーグまで辿り着かなかった。青日は口を大きく開けるのが苦手なのだ。向かい側に座る睦千は、んが、と大きく口を開けてしっかりとかぶりつく。絶対に美味い一口目を食ってやると言う気迫、それでもそこそこ画になるのが白川睦千である。も、も、とハンバーガーを噛み締める睦千を見ながら、青日は今度こそとかぶりついた、よし、肉の味がした!
「パックンバーガーの照り焼きソースって美味すぎる」
 青日は口を動かしながら頷く。
「でも、ぺこりコーヒーのエッグバーガーの黄身も、意味分かんないくらい美味しい」
 睦千はポテトをつまみながら、つまりどっちも美味しい、と付け加える。
「分かる。ただの目玉焼きじゃないよね」
 ようやく一口分を飲み込んで答えた。
「なんかすごい卵じゃないの?」
「ねー」
「てか、去年も同じ話した」
「うそ」
「まじ……話したかも」
 いやん、と青日は口を覆う。睦千はちゅぽんとコーラの封を開けた。
「まあ何回でも話したっていいよ」
「それもそっか」
 青日もコーラの封を開けた。甘いスパイスの香りに混ざって薬草の匂いがした。この甘さの中にピリッとした健康に良さそうな味が癖になるのだ。あと、妙にパックンバーガーの照り焼きソースとぺこりコーヒーのマヨネーズに合うのも謎である。
「ていうか、青日、去年もボクが月見バーガー買いに行った日に町天狗のコーラ買ってきたなかった?」
「……言われてみたらそうかも……そろそろ睦千が月見買ってくるかなーって時に目に入るんだよねー」
 じゃ、来年もよろしく、と睦千は片手にコーラ、片手にバーガーでにやりと笑った。
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