ブサメンの彼(二)

文字数 1,281文字

「ねえ、どうだった?」
 私は、母と幸子に同じことを聞かれ、それぞれに同じ報告をした。
「思ったよりはよかったかな、一度ではよくわからないけど……」
「それって、お付き合いしてみるってことよね?」
「そこまではまだ決めてないけど……」
 煮え切らないような返事だが、ふたりとも期待薄だと思っていたせいか、それぞれ驚きの中に笑顔を見せた。
 実際のところ、私にもよくわからなかった。今度会ったら、どっちの純平なのだろう? 西郷さんの銅像の前の純平か? それとも、ゴリラの檻の前の純平か? 魔法は解けているのか? いないのか?
 
 
 運命の二度目のデートの日が来た。私は前回とは違い、異性に会う意識を持って支度に取り組んだ。
 今度の場所は水族館。待ち合わせ場所の駅に向かう電車の中で、私は妙に緊張した。純平を一目見た時の自分の印象が怖かったのだ。西郷さんか、ゴリラか……それですべてが決まるような気がするから。
 駅に着くと、すぐに純平が目に入った。その時の印象は……そのどちらでもなかった。ただ、自然に笑顔であいさつをし、肩を並べて歩き始めた。
 この日のデートも楽しかった。純平の温かさと優しさ、気配りのせいであることは確かだ。水槽の中を泳ぐ魚たちを観察する楽しさまで教えてくれる。もともと、動物や魚に興味があったと本人は言っているが、私のために下調べして来てくれたと私には思えた。もっといろいろな所へ行って、いろいろなものを一緒に見てみたい、きっと楽しい時間を過ごせるだろう、そう思った。
 
「ねえ、今日はどうだった?」
 帰ってきて母に聞かれると、驚くほど素直に答えられた。
「ええ、楽しかったわ」
 その一言で、母はすべてを理解したようだった。
 
 
 三度目のデートはスカイツリー。私は最高モードのおしゃれをして家を出た。
 二度目のデートから今日の日が来るのを、初めて待ち遠しいと感じた。そして純平と合流し、展望台に上った。空は晴れ渡り、遠く富士山の眺望も楽しめる。そこでふたりは記念写真を撮ってもらった。
 展望台から下りて昼食を食べた後に、先ほど撮った写真を取り出して、ふたりで顔を見合わせて笑った。そこには、作りは残念だが人柄がにじみ出た純平と、引き立ててもらって多少きれいに見える私の笑顔が映っていた。そして、私の心からの笑顔を確認した純平は、いつになく真剣な面持ちで言った。
「結婚を前提にお付き合いしていただけますか?」
 私はもちろん、
「はい」
と答えた。
 
 家に帰っても、純平の言葉を思い出してはつい口がほころんでしまう。会う毎に、共に過ごす時間が楽しくなっていく。
 純平なら、憂うつな雨の日でも、楽しい気分にさせてくれるだろうし、思わぬアクシデントに遭遇しても、さりげなく好転させてくれるに違いない。いっしょにいると笑顔になれるし、とても気持ちが安らぐ。
 うれしい、幸せだ、もう外見なんて気にしない。そんなもの仮面だと思えばいい。仮面の下の素顔が好きならそれでいい。でも、何かがひっかかる。何かが……何だろう?

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