第9話 ドライブ-告白
文字数 1,450文字
夜の第二京阪道路を車で北上している。もうすぐ枚方だ。
「どこへ行こうか?会社に有給休暇を申請したし長旅したいなぁ」
事前にある程度の旅の荷物は積みこんでおいた。もうほとんど逃亡犯のように車を走らせている。
助手席で何かをずっと考えている春奈は前方を走る車の赤く光るテールランプを目をそらさずに見つめている。
「学生のころスキーでよく行った温泉に行こうか?どう?」
春奈はこくりとうなずいた。
「ウインタースポーツをするにはまだ早い時期だからきっと空いているよ。あそこの親父さんと奥さんがとてもいい人でいつもよくしてくれるんだ。スープがねぇ絶品で...」
「航......」
「......なに?どうしたの?」
「ごめん。わたし、わたし、航に嘘をついていたの」
思いつめた重たい口調で話し始めた。
「そうなんだ。何?教えて」
車は右にゆっくりと曲がり京滋バイパスに入った。
「昔の、遠い昔の彼が暴力団の組員だっだの。それで人を殺めたの。私はそのことを知らずに彼を助けに行ったの。そして彼は殺された......山本組に」
涙目であることは見なくてもわかる。
「や、山本組?そ、そうなんだ。それは大変だ。ま、まるで映画のようだね」
少し心が動揺した。今はそう返事をしたのが精一杯だ。
元彼が暴力団の組員というだけで一瞬、血の気が引いたのに殺人にかかわっていたなんて想定外以上だ。さあ、俺はどうする?
「それでこの町に来たのか」
「そうなの。初めは彼の敵を討つつもりで来たんだけど」
「だからスーパーから山本組を張っていたの?だから働いていたんだ」
俺がなんとなく予想していた通りの答えが返ってきた。
「ええ、スーパーで働くようになってみんなのやさしさに触れて心が穏やかになっていったの。心が浄化されるなんて初めは自分でも信じられなかった」
春奈は目を閉じた。なにもかも失う覚悟が出来てしまったのか。
「春奈じゃないんだよね」
「うん。桃子。大原桃子。.......あなたを失いたくない。簡単に別れるなんてできない」
運転すらままならない状況の俺を春奈は強く熱く涙をこらえ見つめた。
「今は正直、心の整理ができない。何が何だかわからない」
「そうね。そうよね」
車は草津サービスエリアを通過した。
「当時は彼を愛していたけど殺しにはかかわっていない。信じてほしい。信じてと言っても無理だよね」
「そういう事か、だから俺と結婚できないんだ」
「そう過去があるから。過去の事が上手く処理できなくて」
「......名前が違う」
長い沈黙が流れた。
俺はわかってはいたが逃げていた。理解したくなかった。
カーラジオからショパンの<別れの曲>が畳みかけてきた。
「彼の事、忘れられないのか」
バックミラーを見ながら怪しい車が後ろをつけてきていないか確認した。
「もう、終わった過去のこと」
手で落ちてくる涙をぬぐった。
「死んでしまった奴には勝負できないな。勝てやしない」
俺は春奈の思い出と同じ土俵にすら立てない勝負で戦ってしまっていた。
「巻き込んでごめん。どこかで降ろして」
「どうするの?」
「これ以上、あなたを巻き込みたくない」
「警察に行こう。全て話せばわかってくれる」
「無理だわ。信じてもらえない。あの現場にいたから。二人で逃げた事実はかわらない。それにわたし渡辺組に狙われている」
「何故、狙われている?」
「渡辺組を潰せる情報を持っているから」
俺は驚く様な今までの事細かい渡辺組の悪事を聞いた。
そういう事かと俺は納得した。
だから俺に
「どこへ行こうか?会社に有給休暇を申請したし長旅したいなぁ」
事前にある程度の旅の荷物は積みこんでおいた。もうほとんど逃亡犯のように車を走らせている。
助手席で何かをずっと考えている春奈は前方を走る車の赤く光るテールランプを目をそらさずに見つめている。
「学生のころスキーでよく行った温泉に行こうか?どう?」
春奈はこくりとうなずいた。
「ウインタースポーツをするにはまだ早い時期だからきっと空いているよ。あそこの親父さんと奥さんがとてもいい人でいつもよくしてくれるんだ。スープがねぇ絶品で...」
「航......」
「......なに?どうしたの?」
「ごめん。わたし、わたし、航に嘘をついていたの」
思いつめた重たい口調で話し始めた。
「そうなんだ。何?教えて」
車は右にゆっくりと曲がり京滋バイパスに入った。
「昔の、遠い昔の彼が暴力団の組員だっだの。それで人を殺めたの。私はそのことを知らずに彼を助けに行ったの。そして彼は殺された......山本組に」
涙目であることは見なくてもわかる。
「や、山本組?そ、そうなんだ。それは大変だ。ま、まるで映画のようだね」
少し心が動揺した。今はそう返事をしたのが精一杯だ。
元彼が暴力団の組員というだけで一瞬、血の気が引いたのに殺人にかかわっていたなんて想定外以上だ。さあ、俺はどうする?
「それでこの町に来たのか」
「そうなの。初めは彼の敵を討つつもりで来たんだけど」
「だからスーパーから山本組を張っていたの?だから働いていたんだ」
俺がなんとなく予想していた通りの答えが返ってきた。
「ええ、スーパーで働くようになってみんなのやさしさに触れて心が穏やかになっていったの。心が浄化されるなんて初めは自分でも信じられなかった」
春奈は目を閉じた。なにもかも失う覚悟が出来てしまったのか。
「春奈じゃないんだよね」
「うん。桃子。大原桃子。.......あなたを失いたくない。簡単に別れるなんてできない」
運転すらままならない状況の俺を春奈は強く熱く涙をこらえ見つめた。
「今は正直、心の整理ができない。何が何だかわからない」
「そうね。そうよね」
車は草津サービスエリアを通過した。
「当時は彼を愛していたけど殺しにはかかわっていない。信じてほしい。信じてと言っても無理だよね」
「そういう事か、だから俺と結婚できないんだ」
「そう過去があるから。過去の事が上手く処理できなくて」
「......名前が違う」
長い沈黙が流れた。
俺はわかってはいたが逃げていた。理解したくなかった。
カーラジオからショパンの<別れの曲>が畳みかけてきた。
「彼の事、忘れられないのか」
バックミラーを見ながら怪しい車が後ろをつけてきていないか確認した。
「もう、終わった過去のこと」
手で落ちてくる涙をぬぐった。
「死んでしまった奴には勝負できないな。勝てやしない」
俺は春奈の思い出と同じ土俵にすら立てない勝負で戦ってしまっていた。
「巻き込んでごめん。どこかで降ろして」
「どうするの?」
「これ以上、あなたを巻き込みたくない」
「警察に行こう。全て話せばわかってくれる」
「無理だわ。信じてもらえない。あの現場にいたから。二人で逃げた事実はかわらない。それにわたし渡辺組に狙われている」
「何故、狙われている?」
「渡辺組を潰せる情報を持っているから」
俺は驚く様な今までの事細かい渡辺組の悪事を聞いた。
そういう事かと俺は納得した。
だから俺に
依頼
が来たんだ。