第2話 殺しの依頼

文字数 625文字

 ある日の事。

「誠、ちと頼まれてくれへんか?」
 誠は煙草を消し、ソファーでふんぞり返っている若頭補佐の近藤のそばまで近寄った。
「はい、近藤さんなんでしょうか?」
 唐突に、
「ああ、山本組が最近なんだか指示に従わねえみたいだから向井悟を殺ってくれ」
 近藤は小さな銃をテーブルに置いた。
「若頭補佐の?」
「ああ、そうや」
「まだパシりの俺がですか?」
「ああ、パクられても若いし模範囚ならすぐに出てこれるやろ。そのあとは俺が面倒みたるから」
 誠は体が硬直したが断れないことだけは知っていた。すぐに桃子の顔が目の前に浮かんだ。あんなにかわいい桃子をこの世界に引きずりこんでおいて、置き去りにすることを想像したら心が痛んだ。離れたくない......が。
「や、やります。やり遂げます」
 取り返しのつかない、心と裏腹な言葉が飛び出してしまった。
 銃を手に取りその重さをはじめて感じると背中から変な汗が流れだした。
「ちゃんと試し打ちはしとけよ」
 近藤はそう言って予備の弾を箱から出した。
「奴は金曜の夜はいつもアウトサイドというサウナに行きよる。9時頃や。車で降りていたところを狙え。確実にな」
「向井さんはひとりですか?」
「いつもはボディーガード二人おる。やれるな」
「はい。やれます」
 誠は頭の中でシュミレーションしてみるが上手くは行かない。
 まだ時間はあると自分に言い聞かせた。
 世話になっている組長の為にもなんとかやり遂げたい。

 やり遂げるしかない。

 誠の腹は決まった。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

西山航。主人公。サラリーマン。

内縁の妻の桜見春奈。

田崎浩一。警察官。航の幼馴染で親友。

スーパーマーケット井田の親父。井田正人。

スーパーマーケット井田の奥さん。井田優子。

平野誠。暴力団、渡辺組の組員。

刑事の鳴海。

山本組の向井悟。

山本組の組長の山本。少し謎の人物。

渡辺組組長の渡辺。

渡辺組の近藤。

坂口。山本組の組員。山本の部下。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み