結いて

文字数 7,468文字

 咄嗟に体を起こして辺りを見回し、何かを感じた気がしてふと振り返ると赤みを帯びた満月を背にしたトミーくんがいた。そしてその薄ピンクの唇が柔らかく動いた。

「来てくれたんだね」

 私は驚くことも忘れ安堵感から涙が溢れて出た。

「当たり前でしょ!」

 涙声で強く放った私の視界が一気に歪み、月明かりが目の中で躍った。彼が見えなくなって、消えてしまうのではと思い、捕まえなくてはと焦り彼にしがみついた。

 微弱な体温を胸と腕に感じとる。細いけど筋肉質だ。きっと常に松葉杖を使っているからだろう。心地よい温もりに浸っていると、危ない! と彼が言った。

 私がしがみついたせいで脚の不自由な彼は後ろによろけた。これでは折られた桜の時の二の舞だ。私は倒れないように力一杯彼を引き寄せるが、非力な私は彼の体重を支えきれず、頭を打たない程度に、ゆっくりと二人で地面に転がった。

「危なかったね」

「ごめんね」

 添い寝するカップルのように満月の明かりの下で横たわる二人。そして琥珀色の瞳と絡まる私の視線。

 泣いてる……彼はそう言って指の背で優しく私の頬を拭った。ほんの少し顔に触れられただけで身体中心の奥の方が熱くなって震えた。
  
 ああ……なに、これ? 頭が真っ白だ。何も考えられない。そしてトミーくんは近くで見ると、より一層美しい。至近距離でこんなにも見られて恥ずかしいはずなのに、琥珀色の瞳から目を反らせないでいる。その瞳は何を見てるの? どうして今こうしてるの? 

 彼からほわりと吐息が洩れる。唇に目がいく。それに触れたい。柔らかさを知りたい。というよりも、唇と唇を合わせてみたい。そして感じてみたい。

 三十センチも離れていない。すぐそこにその唇はある。私は軽く唇をほどき、吸い寄せられるように彼に顔を近づけていく。
 
 五センチほど顎と顎が近づいた時、カーテンを閉めたように辺りが薄暗くなった。まるで有毒ガスのような雲が、不気味な満月を浸食していたのだ。この光景に私は我に返った。

 そして、ハッ! と鳴りそうな口に手で抑え私は訊いた。

「トミーくん……大丈夫?」

 彼は眉を上げて、何が? と言った。

「えっ! だって……お母さんが……」

「ああ、ウソだよ」彼はにんまりと笑った。「だって、ウソでも言わなきゃ、桜ちゃんに会えないと思ったんだ。だってさあ、急に音信不通になっちゃうんだもん。すげえ心配してたんだよ。……バカ」

 そう言って彼は私のおでこを指先で軽く小突いた。

「私だって心配したんだよ……バカ」

 そう言って私も小突き返し、私たちは照れくさそうに笑い合った。

 ウソをつかれたことよりも、トミーくんのお母さんが無事だったことに安堵した。そして同時に心配されていたことを嬉しく思った。

「そなことよりさ……完全にヤられちゃったな。こんなにも綺麗だったなんて」

「は? ……何が?」

 私がそう訊ねると、彼は琥珀色の瞳を一旦夜空に反らし、すぐにまた私に戻した。

「好きになってもいいかな? ていうか……もうすでに好きになっちゃったかもしれない」

「え?」

「いや、その、初めて遭った時から桜ちゃんのこと気になってはいたんだ。じゃなきゃ僕だってあんなに毎日メールしたりはしないよ」
 
 つまりは私のことを好きだと……。異常なまでに急加速する鼓動。まるで心臓が小さな爆発を繰り返しているようだ。

 少しだけ近づいた顔を少しだけ離すと、伸びきった前髪がはらりと私の鼻先を撫でた。帽子を被っているのであれば、有り得ないこと……。

 直接心臓にナイフを突き刺されたかのように一瞬鼓動を止め、異常を察知した私の全機能がシャットダウンした。そして、直ぐさま再起動。私は叫んだ。

 私は立ち上がり、逃げるようにして屋上の隅へに走った。頭と顔に触れてみると、有るべきものがないのだ。突然のトミーくんからのメールにマスクもニット帽も何も着けずに部屋を飛び出してしまったことに今更気がついた。安堵と美しさに支配され、頬に触れられても、自分が素顔だということに気がつかなかった。

 変な髪型と曲がった鼻を見られてしまった。彼にはどう映ったのだろうか。恥辱と劣等感に苛まれる。

「桜ちゃん! どうしたの?」

 松葉杖が忙しく地面を突く音が近づいてくる。私は頭と鼻を押さえて、来ないで! と叫んだ。 彼は松葉杖を後ろに引いた。

「わ、わかった……わかったから……マスク取ってくるから待ってて!」

 彼は慌てて屋上をあとにした。

 再び不気味な満月が姿を現し、卑しく私を照らす。まるで堕ちていく悲劇のヒロインにあてられたスポットライトのように。

 普通の物語ならここからヒロインは死に物狂いで這い上がり結末はハッピーエンドで拍手喝采で幕を閉じるのだろうが、この物語は間違いなくバッドエンド。

 王子様に見捨てられた狂った女は自殺をはかるのでした……。柵に手をかけ下を覗く。高い。即死。グシャグシャ。怖い。ダメだ。できない。

 死に対してブレーキがかかる。死ぬ勇気すらない。死ぬ演技もできない大根役者。バッドエンドにもならない駄作。私が駄作。

 生きるでもなく、死ぬでもなく、憐れな女は息をし続けるのでした。……おしまい。ブーイングが聴こえてきそうだ。

「桜ちゃん!」

 私を呼ぶ声……。カツ、コツ、と地面を突く音。トミーくんが戻ってきた。本当は待っていた。だから死ねなかったんでしょ? 綺麗と言われたことも、好きと言われたこともわかってるでしょ? 

 いきなり叫んだりして、いったい何なんだ私は。私は何を演じようとしている? 誰か私を殴ってください。ああ死にたい。ほら、また死にたい、って……。死にたいのに死ねないって、そもそも死ぬ勇気なんてないのに、なんて茶番劇? イカれてる。病気だ。毎日毎日ネガティブを食べ過ぎたせいかも。

「桜ちゃん、見て……」

 いつの間にか傍にいたトミーくん。私は頭と鼻を隠しながら彼を見た。

 すると彼は被っていた白いニット帽を脱いで、闇に投げ捨てた。まるで白いウサギが屋上から飛び降りたように見えた。
 
 彼は前に見た時よりも少しだけ髪が伸びた頭をトントンと指先で突いた。目を凝らすと側頭部に太い縫い跡がアーチを描いている。そこだけはお世辞にも綺麗とは言えない。禍々しいムカデがトミーの頭に張り付き頭蓋骨の中へと無数の脚を動かして入り込もうとしているようだ。

「僕だって傷はあるよ。桜ちゃんのその頭を見たって、その鼻を見たって、僕は思う。桜ちゃんは何よりも綺麗だ」

「嘘よ……同情してるんでしょ?」

「僕は嘘を言わない」

「こんな化け物のどこが綺麗なのよ」

「桜ちゃんが自分自身をどう思おうが関係ない。信じてもらえなくても構わない。僕が君を綺麗だと思う気持ちを口にしただけだよ。……だからあえてもう一度言うよ。桜ちゃんは何よりも綺麗だ」

 私は何をどう言っていいのかわからなかった。ただ、嘘を言わない、と言ったトミーくんの言葉を、嘘だと決めつけてしまうのは、あまりにも不粋だと思った。だから彼の放った言葉よりも彼自身を信じたいと思った。

「僕ね、あんなことして後悔してるんだ。もちろん怪我をしたこともあるけど、それだけじゃないんだ。あの行為をどう正当化しても、あれは自殺未遂だった。

 状態が安定した僕は一般病棟に移ることになって、マコトという少年と同じ病室になったんだ。彼は十四歳。僕の一つ下で、明るい笑顔はとても健康的で、どこが悪いのか検討がつかなかった。

 きっと、もうすぐ退院なんだろうと僕は思った。そして僕は訊いたんだ。どこが悪かったの、って……。すると彼は掛け布団を捲くったんだ。僕は自分の目を疑った。

 彼はハーフパンツを穿いていた。でもね、あるはずのものがないんだ……。そう、両足が無かったんだ。

 その日、マコトは父親が運転する車でまだ暗いうちに家を出発した。そして川に向かう曲がりくねった山道で事件は起こった。

 走り屋っていうのかな。改造車で峠をサーキットみたいに走りまわるアレだよ。コントロールを失った車がマコトの乗る車の助手席側に正面衝突した。

 マコトの乗る車は軽のワンボックスでさ、軽トラを想像してもらえば分かりやすいと思うんだけど、エンジンがシートの下にあるんだ。つまり、助手席の足許には外装だけ。そこに猛スピードで車が突っ込んだ。

 マコトの両足は潰れた。いや……潰された膝上から切断。しかも両足。ハーフパンツよりもマコトの足は短くなってしまった。

 出会ったばかりの僕に、マコトはまるで他人事のように淡々と話してくれた。 マコトの母親は毎日マコトに会いにきた。とても明るいお母さんで……でもその明るさは逆に痛々しく見えてさ。

 マコトもそれに気付いているのか、冗談ばかり言って母親を笑わせていた。父親は一度も見舞いに来なかった。マコトとは対象的に軽傷で済んだ父親は、マコトにあわせる顔がないと自分を責め続けていたらしい。

全て知ったうえでマコトはいつも笑っていた。でもある夜、うめき声が聴こえてきた。

僕はカーテンを開けて、マコトの布団を引っぱがした。すると枕を口に押し込めてマコトは泣いていた。ああ、これが本当のマコトなんだなって思った。そしてマコトはこう言ったんだ。

『こんなふうになるなら、死んだほうが良かった。本当は毎日死にたいと思ってるんだ。でも自分が死んだら、お父さんはもっと自分を責めるだろうから死なないんだ。死ねないんだ。足が無くても生きるんだ。自分のためじゃないけど生きてるんだ』

やがてマコトはリハビリセンターに転院することになった。そして別れ際にマコトは言った。

『今度、死ぬ時は、その足ボクにちょうだいよ。足さえあれば、何処にでも行ける。逃げることだってできる。足と命、大事にしてよね』って。
 
僕はなんて愚かなことをしてしまったんだと後悔した。僕はマコトのお陰でリハビリも頑張れるようになったし、前向きに生きれるようにもなった。

そしてイイこともあった……桜ちゃんに出会えたことだよ。そして桜ちゃんも心に何か抱えてるんだと知った時、僕はどうにかしてあげたいと思うようになった。

アドレスを訊かれた時はとても嬉しくて、メールする毎日はとても楽しかった。でも桜ちゃんからメールがこなくなった数日間は気が気じゃなかった。そんななか、僕も明日リハビリ専門の施設に移ることが決まったんだ。

退院して自宅から通うこともできるんだけど、佐々木がそれを嫌がって、メンタルケアと患者の管理がしっかりしてるとかいう理由で、わざわざ遠くの施設にいれられてしまうんだ。

しばらくこっちに帰ってこれないだろうから、あんな嘘をついてでも、桜ちゃんに逢いたかったんだ。そして、こう言おうと思ってたんだ。

髪が伸びて松葉杖使わないで歩けるようになったら、また僕と逢ってくれないか、って。でも少し訂正するね……。

僕が歩けるようになって、桜ちゃんがマスクを外して、学校にも行って、ちゃんと生活できるようになったら、僕とデートしてくれませんか?」

 言い終えた彼はまっすぐな眼差しで私を伺う。私は、嘘でしょ? と言おうとしたが、『僕は嘘を言わないよ』と言われると思ったからやめた。というよりも琥珀色の瞳がそんな馬鹿げた質問をするな、という光を放っていたのかもしれない。だから質問を変えた。

「こんな私でいいの?」

 すると彼は松葉杖を投げ捨て、不自由な左を引き摺って私の傍らに腰を落とした。

「大丈夫だから……」

 そう言って彼はゆっくりと頭と鼻にあった私の手を包み込み下ろした。不思議と抵抗感はない。

「髪は誰かに切られてしまったんだね。でも、こんなにも綺麗なのにどうして顔まで隠すの?」

 私は少し躊躇ったけど言った。

「鼻骨骨折してから鼻が曲がっちゃったの……」

 どっちに? と彼は言う。私は意味ががわからなくて疑問を顔に浮かべた。

「僕には桜ちゃんの鼻はまっすぐに見えるけど、どっちに曲がってるの? 右? 左?」
 
 私がまともに鏡を見たのは、骨折した翌日だった。それ以降は鏡を直視できなくなってしまった。

 どす黒く腫れ上がり、曲がっていた気がするけど……どちらかと訊かれると……。

 わからない、と私が答えると、僕もわからないんだけど、と彼は笑った。

「だけど髪は何とかしないとね。……あっ、そういえば、僕の帽子がない!」

 彼は慌てて辺りを見回す。

「ねえねえ、トミーくん」

 私は柵の向こう側を指差した。

「ええ、マジ! 僕てっさ、折られた桜の時もそうだけど、後先考えない時がよくあるんだよ。子供みたいで情けなくなるよ。あの帽子あれば桜ちゃんにあげれたのに……」

 彼は頭を掻いて顔をしかませた。数秒後、あっ、そうだ! と何か閃いたように声を上げ、自分の履いているジャージのお腹のところを捲くった。

 私は面食らってしまい目を背けた。彼がこちらを見た時、目が合ってしまった自分の顔が熱くなっていく。それを見て彼はクスッと笑い。腰の紐を強引に引き抜いた。いったい何が行われるんだ! 私は心の中で叫んだ。

「ちょっと髪触るね」

 私は戸惑いながら頷いた。それを見た彼も軽く頷き、首の後ろの髪からからサッと掬い上げる。うなじに彼の指先が触れて、声が漏れそうになるのを堪えた。

 優しい夜風が頬を撫で、耳をくすぐる。きもちいい……。だからそっと目を綴じた。しばらくすると、彼は弾んだ声で言った。

「はい、できたよ!」

 私は目を開けると彼は優しく微笑んだ。その瞬間、胸を貫いた……何かが。

 私は自分の頭に触れた。

「ポニーテールにしてみたんだ。すげえ似合ってるよ。短くなった部分も目立たなくなったから、これで帽子がなくても大丈夫だよ」

「ありがとう」

 私が言うと彼はポケットからマスクを取り出した。

「そよりさもうコレいらないよね?」

 この状況で『いいえ』と言えば、いったい彼はどんな表情をするのだろう。だから私はいらない、と言うと彼はニコリと笑って言った。

「じゃあ、マスクとお別れの儀式をしようじゃないか」

「儀式って何?」

「このマスクをして目を閉じて、マスクとのお別れを願うんだ。ただし何があっても僕いいって言うまで目を開けちゃダメだよ」

「え? 何それ!」

「いいから、やってみて」

「う、うん」

 戸惑いながら彼に従ってみた。すると柔らかな風が私を包み込みマスクの先端に微弱な熱を感じとった。目を綴じているせいなのか、心臓の音が煩い。耳の血管までもがドクドク脈打つのがわかる。耳が熱い。

「桜ちゃん……もう目開けていいよ」

 凝固していた瞼の緊張を解くと、顔を赤らめたトミーくんがいた。 いつも美しかった彼が、とても可愛く見えて、胸の奥がくすぐられた。

 彼が外していた視線を私に戻すと、今度は私の方が視線を反らした。そして彼はうわずった声で言った。

「いつか本当のキスができたらいいと思ってる。僕は桜ちゃんが好きだ」

 ああ、やっぱり……マスク越しに感じた微かな感触と温もりはトミーくんの唇だったんだ。心の準備……できてなかった……。

「トミーくん、ずるいよ」

 アハハとトミーくんはおどけて笑った。

 マスクをしていなかったら、もっと鮮明に何かを感じれたのだろうか。やっぱり私もトミーくんと本当のキスがしてみたいと思った。だけどそれをそのまま言う勇気はない。

 本当のキスができるように、お互い頑張ろう、という意味のマスク越しのキスだと私は解釈した。トミーくんの気持ちは確かに受け取った。だから私も伝えなくてはと思いマスクを外した。

 そして琥珀色の瞳を真っ直ぐ見て、今の私の心の内を言葉に変えた。

「とても……すっごく……めちゃくちゃ……とにかく……ただただ、トミーくんのことが大好きです」
  
 ああ、なんとか言えた。不器用で歯切れが悪かったかもしれないけど、ちゃんと言えた。だけど、どんなに言葉を並べてもこの気持ちの全てが伝わった気がしない。本当は気が狂ったように叫びたかった。気持ちはもっともっと大きいのに、私の口から出るのは二酸化炭素と何かにスポイルされた言葉だけ。

 そんなことを思ってる時、彼は私の手を取った。その手はとても熱い。頭の芯から足の爪先へと津波が走る。

「桜ちゃんのことが、大、大、大好きだあああああ!」

 静寂を裂いたトミーくんの叫びは私の真ん中を貫いて、すぐそこに浮かぶ満月まで震わせた。気が狂ったかのように叫んだ彼の言葉は異常なまでに精確に私のど真ん中を撃ち抜いた。

 感情を素直に体現することを、躊躇なくできるこの人には敵う気がしない……何故かそんな気がした。そして彼は優しく言う。

「桜ちゃんは綺麗だ。……僕は嘘を言わない」

「ありがとう。頑張る。私、強くなるから」

「頼もしいね。桜ちゃんに負けないように僕も頑張るよ」

「そういえばさ……どうして急に音信不通になったの?」

 私の思考一瞬停止して、すぐに言葉が出てこなかった。

「言いづらいことなら無理して言わなくていいよ」

 あのセーラー服の彼女のことははっきりさせた方がいいに決まってる。

「この前、偶然病院で見っちゃったんだ。……トミーくんと、セーラー服の女の子が楽しそうに歩いてるの……」

 えっ、そんなことだったの? と彼は呆れたように言って苦笑いを浮かべた。あんなにも苦しんだあの時間を否定された気分になって涙が出そうになる。

「でも、それだけ妬いてたってことでしょ? なんだかうれしいよ」

 そう言って彼は微笑む。その笑顔……反則だ。

「アイツはリョーコっていってね、幼なじみだよ。昔、家が近所でよく遊んでたんだ。でもリョーコは僕と別の中学に進学したんだ。それで最近、僕が入院したことを知って、平日の朝っぱらからお見舞いに来てくれたんだ。まあ、お見舞いって言ってもリョーコが一方的に騒いでただけどね」

「じゃあ、ただの……ともだちってこと?」

「そうだよ。もうダメだよ、勝手に物事決めつけちゃ。……この月は綺麗に見える? 妖しく見える? 不気味に見える? 例えどう見えたとしても、いつだって月は一つしかないんだよ」
 
「うん」

「それに、もう顔を隠す必要はないよね?」

 私は深く頷いてマスクを外した。もうこれは使わない。私にとってもうこれはゴミだ。でも私はゴミじゃない。だってこんな素敵な人に好きって言ってもらえたんだから。

 私はトミーくんに相応しい人間にならなければいけない。だから、ここから生まれかわろう。私は生まれ変わるんだ。強く強くそう心に誓った。
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