そして私は……

文字数 1,488文字

 無機質な工場……
 無機質な機械音……
 無機質な動作……
 無機質な作業……
 無機質な表情の
 無機質な私……
 私はロボットになってしまったのだろうか……。

 決まった時間に起き、決まった時間に食事を摂り、決まった時間に休憩し、決まった時間に終わる。夜勤と日勤を繰り返し、繁忙期には残業、残業、残業……。苦痛、苦痛、精神的苦痛……。

 まるで一本の線を行ったり来たりなぞるような毎日……。

 ベルトコンベアに乗って流れてくるすべての物にまったく同じ動作で同じ作業を施す。これを一日中ひたすら繰り返すだけ。

 働き始めた頃、ここはまるで養鶏場だと思った。狭い場所に押し込められ卵を産み続けるためだけの生命。いや、待て……。自由時間が多い分、鶏の方がまだマシだろうか。いや、待て……。この命、誰かに喰われるわけじゃない。やっぱり私の方が少しマシか……。喰われて死んだ方がマシか……。いや、この心、この作業に喰われ続けているんじゃないか……。堂々巡りの結論は未だに出ない。

 時計は見ない。30分経ったと思って時計を見たら5分しか経っていないことがよくある。これがイカれてしまいそうな私の日常。

 私はとある町の食品工場で働いている。耳まで隠れる帽子を被り、鼻から顎まで覆う大きなマスクを付け、ビニールの手袋、少し長めの長靴を履くと眼の部分しか見えなくなる。誰が誰であってもかまわない……そんな風に思ってしまうのは私だけだろうか。

 すべてを壊したあの日から、生きる意味も生きる価値さえ見出だせずにいる。いまどき高校に進学せずに就職し、私を間違って産み落とした親という存在からは金銭的援助は一切受けていない。

 とはいえ私はまだ17歳、何をするにも親の同意がいる。まだまだ未成年という名の、ガキと呼ばれる類いにあるのがもどかしい。

 だけどそんな私も一年働き、金が貯まった。こんな寮生活とも、やっとおさらばできる。この身ひとつで家を出るには、寮完備の職場を選択せざるをえなかった。

 共同の風呂とトイレだが、三食付きで格安の寮費ならば、無一文の私には我慢という選択以外は残されていなかった。

 先輩と呼ぶに相応しくない、年上ぶる奴らに押し付けられることは、本来分担して行うことなのだが、私にすべてを押し付けてくる。

 ホントに何処にいっても糞みたいな奴らばかりで笑えてくる。私は便器にこびりついた糞を擦りながら思うんだ。糞みたいな人生でも糞にだけはならないってね。こんなちんけなプライドが私を繋ぎとめていた。

 寮に戻ると実家から郵便物が届いていた。きっと新しく借りるアパートの書類だろう。保証人の欄は頼らざるをえないのが情けない。

 私が桜を病院送りにした後、オヤジは仕事を休み私を監禁した。何日か経ったある日、知らない大人達が監禁部屋に入ってきた。どうやら更生施設の職員だったらしい。私はオヤジと話させてくれと頼んだ。そして私はオヤジを脅した。教員であるオヤジとババアの職場に、つまり学校に、すべて晒してやると。それが、うまくいかなければ支援団体やマスコミにもリークしてやる。私の裸の画像がネットに晒されたことを逆に利用してやると脅してやった。私が騒げばオヤジとババアが職を失うのは火を見るより明らかだった。

 そして、これ以上問題を起こさないことを条件に、オヤジは私にこの仕事を用意した。仕事内容はどうあれ最低限の人権は保たれている。

 そして私は家族という名ばかりの関係を絶つため、高校へ進学はせず、金銭的な援助を一切受けずに生活していくために、誰も知らない土地で呆れるほどクソみたいな生活をしてるってわけだ。
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