第6話 お花見

文字数 1,159文字

 お散歩に行った日から、ずっと考えていたことがあった。
 せいちゃんと一緒に公園へ行って、お花見をしようって。
 今日は、調子もあまり悪くないし、お天気もいいし、絶好のチャンスだ。戸棚の中から、お弁当箱を取り出し、久しく使っていなかったから丁寧に洗う。
「なにするの、聖良」
 せいちゃんが、興味津々と言った感じで私のことを見ている。
「今日は、お弁当持って、お花見に行こうよ、せいちゃん」
「お花見! やった」
 うれしそうにリアクションをしてくれると、何だかこちらまでうれしくなる。
 タコウインナーに、だし巻き卵。あとプチトマトと、ブロッコリー。ご飯はおにぎりにして詰める。ありあわせの具材だけど、なんとかそれっぽく出来上がった。
「行こっか」
「うん」
 ぽかぽかと暖かい陽気に、なんだか少し眠たくなる。よく回り切らない頭で、せいちゃんと他愛もないおしゃべりをしながら公園までの道のりを行く。こんな現状だけど、何だか平和だなって思う。
「着いたー」
「着いたね」
 公園は、私たちの他に誰もいなかった。今だけは、周りに咲くお花たちを、ふたりじめ、しているみたいな、そんな気分だ。
「きれい」
「ねー」
 そんなに広い公園じゃないけど、いろんな種類のお花が咲いていてカラフルだ。目を細めて輪郭をぼやかしたら、なんだかこう、おしゃれなじゅうたんとかタペストリーみたいに見えなくもない。
 せいちゃんが、お花の近くによって、香りをかいでいる。私も真似して鼻を近づけたら、甘いけどどこかすっと抜ける香りがした。
「ふうー、ちょっと疲れたね」
 ゆっくり見ていたら、気づけば結構な時間が経っていた。私たちは、ベンチに腰を下ろして、水筒のお茶でひと休憩とることにした。
 じっとして座っていると、静かな公園の、音が聞こえる。
 風が吹き、木の葉がすれる音。ちょっと遠くで、小鳥が鳴く声。
 ぐー。
 私の、お腹の音。
 やあぁ、恥ずかしい。
 せいちゃんが、くすっと笑った。
「お弁当食べよっか、聖良」
「……そだね」
 お弁当を開けて、二人で一緒に食べる。
 お外で食べるお弁当って、おいしい。ほんとに、花よりなんとやら。
 だけど、ひとりじゃ、こんなに楽しいはずないし、おいしいはずない。せいちゃんがいるからこそだ。
 お腹を満たしたら、いよいよ、眠気が増してきた。せいちゃんも、うつらうつらとしている。
 私は、さすがに公園では寝ちゃわないように、眠気覚ましに大げさに首をまわす。
 色とりどりの花が目に映る。今は綺麗に咲きほこるこの花たちも、やがて枯れたしまうんだな。
 ふと、そんなことを思う。
 花は咲いて、散る。また咲いて、また散る。
 色づいた葉も、やがては落ちる。
 木漏れ日が差した公園に、次は木枯らしが吹く。
 くるくると回る景色、時間の中で、私は、どう変わっていくのだろうか。
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