第10話 伝えたいこと

文字数 861文字

 のんちゃんと会ったときから、私はせいちゃんに伝えたいことがあった。勇気が出なくて、伝えられなかったけれど、今日、絶対に言おうと思う。
「聖良、今日は何する?」
 せいちゃんが、予定を尋ねてくる。私は、覚悟を決めて切り出す。
「せいちゃん、今日は、話したいことがあるの」
「ん? わかった」
 せいちゃんは、特に気にする様子もなく、ソファーの私に隣り合うようにして、ちまっと座った。
 せいちゃんの顔を、見られなかった。私は、前を向いたまま、ゆっくりと、ひとこと、ひとこと、言葉をつづる。
「あのね」
「うん」
「せいちゃんと会ってね、私、前より元気になれたよ」
「うん」
「せいちゃんがいつも一緒にいてくれて、楽しいよ」
「せいかも。楽しい!」
「せいちゃんの、おかげで、私、幸せを感じられたよ」
「聖良……」
 せいちゃんは、そっと、私の上にやってきて、向かい合うようにして座った。
「よかった、聖良……!」
 そう言って笑うせいちゃんの顔は、太陽のようにきらきらと輝いていて、そして、ちょっとだけ、ちょっとだけ、寂しそうな影を落としていて。
 それを見て私は、きゅっと、胸を締め付けられてしまう。私の想定は、当たっているのだと、悟る。
 せいちゃんは、もうすぐいなくなってしまうんだ、と。私は、分体なしでもやっていけるのだと。
 胸が、苦しくて、言葉がつかえてしまう。だけど、今、言わなきゃいけない。せいちゃんに、伝えることができるうちに。
「だからね、だからね、せいちゃんのこと、ずっと大好きだよ」
「私も、聖良が大好き!」
 ぎゅっと、せいちゃんを抱きしめる。いつも癒してくれた、何度も助けてくれた、小さな体。あったかくて、やわらかくて。そして、落ち着く甘い香り。
 確かな存在感を感じて、ちょっとだけ安心する。大丈夫、きっと、まだいくらか、時間は残されてる。
「今日はさ、せいちゃんの好きなように、思いっきり遊ぼ」
「うん! 聖良、ありがと」
 せいちゃんは、私の上で小さく飛び跳ねた。とんとんと、リズミカルに重さを感じた。そんなせいちゃんをほほえましく見ていた。
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