第１話

エレベーターに乗ると、ママは鏡を見ながら言った。「どう？最近、綺麗になった？」

「え、私？」

「あなたじゃないわよ！あんたはもともと綺麗じゃないのよ。私よ、私、綺麗になった？」

「パパ？」

「パパって何よ！やめてよ、パパだなんて」

「ごめん」と私は手を叩いて笑った。ちょっとこんがらがっちゃった。

「あんたんとこのパパってこんな感じなの？」と、鏡を見ていたママは私の方に振り向いてそう言った。

「パパって、実家の？」もちろん、そうだろうけど、私はとっさにそう返した。

「当たり前でしょう！それ以外どこにいるのよ？もう最近の若い女はこれだから怖いわ。あんた何人パパがいるの？」

エレベーターが四階に到着するまで、私は笑い続けていた。

そのころ、部屋には緊張感が漂っていた。廊下を歩いて来るヒールのコツコツという足音が聞こえてきて、みんなはきっと耳を澄まし、ドアの近くに集まり、鍵を回す音がしたら、笑いそうになるのをじっとこらえ、ドアが開くのを待っていた。

そして、私がドアを開けると、「サプラーイズ！」

ママは目を見開き、わずかに後ろに身じろぎした。

「ママお誕生日おめでとう！」

「やだ、何？」ママは驚きつつも嬉しそうに「どうしたの？何のまね？え？なに？」と私の手をつかんで興奮で上気していた。

「えー、うそでしょう？本当に？」

顔に笑みを浮かべて黒の短いワンピースを着た珠江が、ママに花束を渡し、中へ案内する。

「さあ、ママ、上がって」

「え、やだ、何よあなたたち」

部屋にいるのは、みんな私の同僚の女の子たちだ。仕事の帰りにふらっと立ち寄った店がママの店だった。そしてその日、その週、その月を思い返して、ママに愚痴を聞いてもらう感じで足しげくママの店に通っていたのだ。

「私、今まで生きてきてこんなことされたの初めてよ。やだー、ありがとー」

こんな光景を見ると、みんなほのぼのとした気分にひたってまるで自分のことのように幸せだったはず。

「ママ、それで何歳になったの？」

「嫌だ、それ聞く？」

京香が言う。「50？」

珠江は笑う。「やだ、どう見ても50は超えてるでしょう、こんなオジサンなんだから」

ママはその言葉をさえぎるように、「とうとう41になっちゃった」と寂しそうに言った。

誰もそれが本当のママの年だとは思っていないから、笑うのをこらえるのに必死だった。

「とにかく、ママその様子じゃ妊娠しないから安心ね」

知美が突っ込むと、「やだ、知美ったら！失礼しちゃうわ」とママはとたんに背後から知美に抱きついて、知美が叫び声を上げる中、「お前のこと妊娠させてやる！」と地声で腰を振りながら言ったあと、うつむいてため息をついた。

「はぁ、ブラピの子供が欲しい」