第2話

文字数 850文字

私の部屋は台所とバスルームがついた少し広めのワンルームのマンションで、部屋の真ん中に置かれたソファや床に、5人が座ることができた。

冷蔵庫から誕生日ケーキを取り出してテーブルの上に置くと、「まあ、素敵じゃない」とママが嬉しそうに声を上げた。

「どうする、ロウソク何本立てる?」と知美が聞いて、「1本でいいわよ」とママが言った。「だって、ここで低酸素脳症で倒れても、アンタたち誰も私に人工呼吸器してくれないでしょ」

「そりゃそうね」

「よく言うわよね」とママは言って知美を見た。

「考えただけでも気持ち悪い」と京香が言って、珠江が「考えない考えない」と言うと、ふとママの顔つきが寂しそうになる。

「ママ、冗談だってば」と私は言ってママを見た。

ママがにっこりして、「いけない、私ったら、今、こいつらと思っちゃった」と言った。そして「もう修行が足りないぞ! 私!」と肩をすくめると、自分の頭をげんこつで叩いて、舌を使って「ポン!」とポッピングさせ、「遅かれ早かれ死ぬんだから、小さなことはきにしないぞ」と自分に言い聞かせてまた肩をすくめて、聞きなれない、しかしなぜか記憶にひっかかる、きにしないをママは繰り返し歌っていた。

「きにしない、きにしない、きにしない、きにしない」

「何それ?」と私を見た知美は目を見開き、声を上げて笑った。

珠江がロウソクに火をつけて、「少しはこっちきにしてよ、と怒りながら言って、みんなで「ハッピーバースデー」を手拍子しながら歌い終わるとママが身をかがめてロウソクを吹き消した。

「ふー」

「おめでとう!」「ママおめでとう!」「おめでとう、ママ!」

ママはまるでぶりっこのアイドルみたいに、「今日は、ほんとに、ほんとにみなさんありがとうございます。私、幸せです。ほんとに、ありがとうございマンモス」と言って泣きだした。しかし、泣いていても涙が出ていないように感じたので、「ママ、涙が出てないよ」と言うと、ママはなんでもないように言った。

「ばれた?」

ああいうのはやっぱりまだ昭和を引きずっているのよね。
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