Blue Rose-夢かなう-
文字数 3,940文字
「俺と結婚してください!」
午後十時。人もあまりいない住宅街。アパートの前で座っていた男の子は、いきなり私の腕をつかむとそう言った。
「は?」
「だから、俺と結婚してください!」
これって何の冗談? こんな時間だから、痴漢? 変質者?
葛城由紀、三十歳。確かに婚期ギリ逃しているかもしれないですけど、こんな男の子……まぁ目鼻立ちは整っていて美形なことは否定しないけど……にいきなり結婚を申し込まれるほどの美女でもなんでもない。
今日だって遅くまで残業して帰ってきた。どうしてもテレワークじゃ回らない箇所の仕事だ。そんなもんだから、肌は荒れているし、化粧は落ちているし、っていうかお前はマスクもしていないのかよ。
「人違いじゃないですか?」
私はマスクをしているわけだし、人違いってことは大いにある。ここのアパートに住んでいる他の誰かと勘違い、とか。
だって私、こんな学生っぽい男の子と接点ないもの。学校の後輩と言っても私は女子高だった。もしかして大学の知り合い? いやいや、こんな子やっぱり知らないし、相当若く見える。やっぱり人違いだ。そう思ったのに、彼は手首をぎゅっと握ると私の目を見つめた。
「いえ、葛城由紀さん。あなたに結婚を申し込んでるんです。俺は間違えていません!」
どういうこと? と、ともかく変質者か、もしかしてストーカーってことだよね? これは警察に連絡しないといけない事案なのでは? いくら私が干物女と会社で揶揄されていようが、危ないってことには変わらない。
「放してください! 警察を呼びますよ!」
「いやだっ! OKをもらうまで絶対に離さない!!」
「やめて、変態っ!」
彼が私を抱き寄せようとするものだから、私は思い切り突き飛ばした。その瞬間、体勢を崩してふらつく。あっ、まずい……倒れる。
ガンッ!!!
「ユキさん、ユキさんっ!?」
頭痛っ……。変なところ打った……まずい、気が遠くなる。
「ユキさぁぁぁんっ!」
男の子の声が遠くなり、私は気を失った。
頭がガンガンする。ゆっくりと目を開けると、私の髪はショートヘアーになっていた。これは、高校のときの髪型? そっか、変なところを打ったせいで、走馬灯でも見てるのかも。
ってことは、私死ぬの? 不安に思っていると、服の裾を引っ張られる感じがした。
「お姉ちゃん、遊んで?」
六、七歳くらいだろうか。私は弟がいないし、これは近所の……? そういえばそんなことがあったなぁ。一度だけ、近所に住んでいるらしい男の子に絡まれたことが。
絡まれた、というとおかしな話だが、ヤンキーがいじめっ子に金をたかるように、私は回避不能の出会いを経験したことがある。
バイトの給料日、銀行で通帳を記帳して、上機嫌で家へ向かっていたらその子はいた。
「お姉ちゃん、遊ぼう? 遊ぼう! いいよね? いいでしょ!?」
そうか、それはあのときの思い出。私はあのときと同じように男の子にやさしく言った。
「お姉ちゃんはこれから家に帰るんだ。だから遊べないかな」
「今日は土曜日だよ? 遊べないの?」
この子は人見知りもなにもないのか? いきなり見知らぬ男の子に「遊ぼう」と言われて遊ぶお姉さんがいるか。下手したら変質者と間違われかねない。いくら土曜日で暇だからと言っても、ここは断るのが無難だろう。
「土曜日でも遊べないんだ、ごめんね」
「やだ!! お姉ちゃんと遊ぶの~っ!!!」
……え? マジ? これって逃げられない系の子ども? っていうか、泣かれてしまうのもまずい。ご近所の目がある。あぁ……これはもう、仕方ないのか? 変質者と間違われたら、子どもが泣きだしたから仕方なく面倒見てあげていると説明して、ここは遊んであげるしかないのか。
「あーあー、わかったよ、お姉ちゃんと遊ぼう!」
「ホント? やったっ!」
ちっ、ウソ泣きか? このガキ。いい性格しているな……。しかし、何をして遊ぼうか。お菓子でも買ってあげて、早急に退散するか?
「お姉ちゃんがお菓子買ってあげようか?」
「んーん、お菓子はいらない! それより公園に行こうよ! お姉ちゃんに見せたいものがあるんだ!」
初めて会った私に、見せたいもの? なんだっていうの?
男の子に連れられて向かった先は、北公園。そこには……。
「わぁ、きれい!」
北公園にはバラ園がある。今、ちょうど見頃だったのか。色とりどりのバラの花が、私たちを出迎えてくれる。
「ね、きれいでしょ?」
「うん……」
こんな見事なバラ、久しぶりだなぁ。そういえば、北公園は死んだお父さんとよく来たっけ。今の季節……五月頃。
うちの父はアマチュアの写真家だった。バラは絶好の被写体で、父は何枚も写真を撮っていたっけ。
「お姉ちゃん、このバラはなんていうの?」
「えっ!? 名前までは知らないなぁ」
バラ園のバラは多種多様で、名前も様々ついている。私はそこまで詳しくない。この子に教えられることなんて、何もないなぁ。
男の子とバラ園を一周すると、ちょうど近くにソフトクリームの屋台が出ていた。
「ねぇ、食べない?」
「うん!」
さっきはお菓子はいらないとか言ってたくせに、ソフトクリームは別腹か。でも、この子にはいいタイミングで連れてきてもらえたからちょっと感謝だ。お礼も込めて、ソフトクリームをごちそうする。私はバニラで男の子はストロベリーだ。
ベンチで食べていると、男の子に質問された。
「ねぇ、なんで青いバラはないの?」
「青いバラ?」
「僕、青が好きなんだよね。バラも青があればステキでしょ? なのに、なんでないんだろうって」
ふっふっふ、この質問なら答えられるぞ! 私は偉そうに咳払いをすると、説明する。
「青いバラは人工的にじゃないと作れないの。自然界にはない色だからね」
「えーっ……青、ないの?」
「あると言えばあるけど、花屋さんとかじゃないと見つからないかもね。青いバラの昔の花言葉って知ってる?」
「花言葉?」
「うん、『不可能』って言うんだよ。青いバラは咲なかったからね」
「ふうん……」
ソフトクリームが少し溶けて、指にピンクの液体がかかっている。私はティッシュを取り出すと、男の子の指を拭いてあげた。
「青いバラがないくらいで、そんなにへこまないの。他のお花さんもきれいでしょ?」
「でも、僕は青いバラが見たかったなぁ。珍しいんでしょ?」
「うーん……」
男の子はいつまでも青いバラに執着している。珍しいものが見たかったという気持ちはわかるけど。ティッシュをしまおうとしたとき、私は財布にあるものを入れていることを思い出した。
「そうだ。これあげるから今日は我慢して?」
「この写真は?」
「私のお父さんの形見だよ。これに免じて、青いバラは諦めて! ね?」
私が取り出したのは、二輪のピンクのバラの写真。生前父が撮ったものを形見としていれていたのだ。形見と言っても、現像すればいいだけの話だからあげても問題ない。
「きれい……」
「でしょう?」
「お姉ちゃん、ありがとう! あの……僕と結婚してください!!」
「えぇ、結婚!? ははっ、いいよ」
やっと笑顔になった男の子。突然のプロポーズにはびっくりしたけど、そういえば、そんなこともあったな……。
「大丈夫ですか!? ユキさんっ!!」
頭がまだ痛い。気がつくと私は男の子の腕の中にいた。彼の背後には青いバラの花束が置かれている。ああ、そっか。この子はあのときの……。
「あんた、バラ園の男の子?」
男の子は私が目覚めたことに安堵のため息をつく。
「そうですよ、一緒にバラ園に行ったガキです。それより、頭大丈夫ですか?」
「どのくらい気絶してた?」
「五分くらい……でしょうか。救急車呼びましょうか?」
「ううん、平気。それより……」
目の前の男の子は、私の前髪を指で耳にかけると今更ながら自己紹介を始めた。
「柊修也です。あのときは自己紹介もしなかったけど」
「そして今度は自己紹介もなくプロポーズと……一体どんな子よ? あんた」
私が笑うと、修也くんは青いバラの花束を私に差し出す。
「気持ち悪いかもしれませんけど、子どものときからずっとあなたのことを見ていたんです。バラ園に誘ったのは、必死のデートだったんですよ。それからは勤め先も調べて……それだけあなたは俺にとって強烈な思い出を残したんですよ」
「一緒にバラ園に行っただけで?」
「もらった写真、バラが二輪……バラって何本渡すかっていうのでも意味が変わるの、知ってます?」
「あのときあげた写真のバラは二輪だっけ?」
「『ふたりの世界』です。あの写真をもらったとき、直感的に俺にはあなたしかいないと思った。ちなみに青いバラの今の花言葉は……」
「『夢、叶う』だっけ?」
「俺の夢は、貴方を娶ることです。12年間ずっとこの日を待っていた。俺、今日で十八になるんです。だから、俺と結婚してください!!」
相変わらず、この子は押しが強い……。そして、私もこの押しの強さには抗えない弱い人間なのだ。
十八歳と二十九歳なんて年の差がありすぎるけど……結局は青いバラの魔法。『夢、叶う』でなんとかなってしまうのかな。そう思うと、少しだけ笑えてくる。
「何笑ってるんですか? 俺は真剣なんですよ! もう引っ越しの段取りはついていますし、会社にもあなたの退職届を出してあります!」
「ははは……って、えぇぇっ!?」
ご、強引を通り越した、なんだこいつは!?
私、マジで結婚するのか?
……まったく、強引なのは変わっていない。なんでかすごく必死に私を求めていることは伝わったけれど。
私は頭を抱えた。
まったく、未来は全然わからない。けど、青いバラが手に入る時代になったのだから、不可能などはないのかもしれない。
午後十時。人もあまりいない住宅街。アパートの前で座っていた男の子は、いきなり私の腕をつかむとそう言った。
「は?」
「だから、俺と結婚してください!」
これって何の冗談? こんな時間だから、痴漢? 変質者?
葛城由紀、三十歳。確かに婚期ギリ逃しているかもしれないですけど、こんな男の子……まぁ目鼻立ちは整っていて美形なことは否定しないけど……にいきなり結婚を申し込まれるほどの美女でもなんでもない。
今日だって遅くまで残業して帰ってきた。どうしてもテレワークじゃ回らない箇所の仕事だ。そんなもんだから、肌は荒れているし、化粧は落ちているし、っていうかお前はマスクもしていないのかよ。
「人違いじゃないですか?」
私はマスクをしているわけだし、人違いってことは大いにある。ここのアパートに住んでいる他の誰かと勘違い、とか。
だって私、こんな学生っぽい男の子と接点ないもの。学校の後輩と言っても私は女子高だった。もしかして大学の知り合い? いやいや、こんな子やっぱり知らないし、相当若く見える。やっぱり人違いだ。そう思ったのに、彼は手首をぎゅっと握ると私の目を見つめた。
「いえ、葛城由紀さん。あなたに結婚を申し込んでるんです。俺は間違えていません!」
どういうこと? と、ともかく変質者か、もしかしてストーカーってことだよね? これは警察に連絡しないといけない事案なのでは? いくら私が干物女と会社で揶揄されていようが、危ないってことには変わらない。
「放してください! 警察を呼びますよ!」
「いやだっ! OKをもらうまで絶対に離さない!!」
「やめて、変態っ!」
彼が私を抱き寄せようとするものだから、私は思い切り突き飛ばした。その瞬間、体勢を崩してふらつく。あっ、まずい……倒れる。
ガンッ!!!
「ユキさん、ユキさんっ!?」
頭痛っ……。変なところ打った……まずい、気が遠くなる。
「ユキさぁぁぁんっ!」
男の子の声が遠くなり、私は気を失った。
頭がガンガンする。ゆっくりと目を開けると、私の髪はショートヘアーになっていた。これは、高校のときの髪型? そっか、変なところを打ったせいで、走馬灯でも見てるのかも。
ってことは、私死ぬの? 不安に思っていると、服の裾を引っ張られる感じがした。
「お姉ちゃん、遊んで?」
六、七歳くらいだろうか。私は弟がいないし、これは近所の……? そういえばそんなことがあったなぁ。一度だけ、近所に住んでいるらしい男の子に絡まれたことが。
絡まれた、というとおかしな話だが、ヤンキーがいじめっ子に金をたかるように、私は回避不能の出会いを経験したことがある。
バイトの給料日、銀行で通帳を記帳して、上機嫌で家へ向かっていたらその子はいた。
「お姉ちゃん、遊ぼう? 遊ぼう! いいよね? いいでしょ!?」
そうか、それはあのときの思い出。私はあのときと同じように男の子にやさしく言った。
「お姉ちゃんはこれから家に帰るんだ。だから遊べないかな」
「今日は土曜日だよ? 遊べないの?」
この子は人見知りもなにもないのか? いきなり見知らぬ男の子に「遊ぼう」と言われて遊ぶお姉さんがいるか。下手したら変質者と間違われかねない。いくら土曜日で暇だからと言っても、ここは断るのが無難だろう。
「土曜日でも遊べないんだ、ごめんね」
「やだ!! お姉ちゃんと遊ぶの~っ!!!」
……え? マジ? これって逃げられない系の子ども? っていうか、泣かれてしまうのもまずい。ご近所の目がある。あぁ……これはもう、仕方ないのか? 変質者と間違われたら、子どもが泣きだしたから仕方なく面倒見てあげていると説明して、ここは遊んであげるしかないのか。
「あーあー、わかったよ、お姉ちゃんと遊ぼう!」
「ホント? やったっ!」
ちっ、ウソ泣きか? このガキ。いい性格しているな……。しかし、何をして遊ぼうか。お菓子でも買ってあげて、早急に退散するか?
「お姉ちゃんがお菓子買ってあげようか?」
「んーん、お菓子はいらない! それより公園に行こうよ! お姉ちゃんに見せたいものがあるんだ!」
初めて会った私に、見せたいもの? なんだっていうの?
男の子に連れられて向かった先は、北公園。そこには……。
「わぁ、きれい!」
北公園にはバラ園がある。今、ちょうど見頃だったのか。色とりどりのバラの花が、私たちを出迎えてくれる。
「ね、きれいでしょ?」
「うん……」
こんな見事なバラ、久しぶりだなぁ。そういえば、北公園は死んだお父さんとよく来たっけ。今の季節……五月頃。
うちの父はアマチュアの写真家だった。バラは絶好の被写体で、父は何枚も写真を撮っていたっけ。
「お姉ちゃん、このバラはなんていうの?」
「えっ!? 名前までは知らないなぁ」
バラ園のバラは多種多様で、名前も様々ついている。私はそこまで詳しくない。この子に教えられることなんて、何もないなぁ。
男の子とバラ園を一周すると、ちょうど近くにソフトクリームの屋台が出ていた。
「ねぇ、食べない?」
「うん!」
さっきはお菓子はいらないとか言ってたくせに、ソフトクリームは別腹か。でも、この子にはいいタイミングで連れてきてもらえたからちょっと感謝だ。お礼も込めて、ソフトクリームをごちそうする。私はバニラで男の子はストロベリーだ。
ベンチで食べていると、男の子に質問された。
「ねぇ、なんで青いバラはないの?」
「青いバラ?」
「僕、青が好きなんだよね。バラも青があればステキでしょ? なのに、なんでないんだろうって」
ふっふっふ、この質問なら答えられるぞ! 私は偉そうに咳払いをすると、説明する。
「青いバラは人工的にじゃないと作れないの。自然界にはない色だからね」
「えーっ……青、ないの?」
「あると言えばあるけど、花屋さんとかじゃないと見つからないかもね。青いバラの昔の花言葉って知ってる?」
「花言葉?」
「うん、『不可能』って言うんだよ。青いバラは咲なかったからね」
「ふうん……」
ソフトクリームが少し溶けて、指にピンクの液体がかかっている。私はティッシュを取り出すと、男の子の指を拭いてあげた。
「青いバラがないくらいで、そんなにへこまないの。他のお花さんもきれいでしょ?」
「でも、僕は青いバラが見たかったなぁ。珍しいんでしょ?」
「うーん……」
男の子はいつまでも青いバラに執着している。珍しいものが見たかったという気持ちはわかるけど。ティッシュをしまおうとしたとき、私は財布にあるものを入れていることを思い出した。
「そうだ。これあげるから今日は我慢して?」
「この写真は?」
「私のお父さんの形見だよ。これに免じて、青いバラは諦めて! ね?」
私が取り出したのは、二輪のピンクのバラの写真。生前父が撮ったものを形見としていれていたのだ。形見と言っても、現像すればいいだけの話だからあげても問題ない。
「きれい……」
「でしょう?」
「お姉ちゃん、ありがとう! あの……僕と結婚してください!!」
「えぇ、結婚!? ははっ、いいよ」
やっと笑顔になった男の子。突然のプロポーズにはびっくりしたけど、そういえば、そんなこともあったな……。
「大丈夫ですか!? ユキさんっ!!」
頭がまだ痛い。気がつくと私は男の子の腕の中にいた。彼の背後には青いバラの花束が置かれている。ああ、そっか。この子はあのときの……。
「あんた、バラ園の男の子?」
男の子は私が目覚めたことに安堵のため息をつく。
「そうですよ、一緒にバラ園に行ったガキです。それより、頭大丈夫ですか?」
「どのくらい気絶してた?」
「五分くらい……でしょうか。救急車呼びましょうか?」
「ううん、平気。それより……」
目の前の男の子は、私の前髪を指で耳にかけると今更ながら自己紹介を始めた。
「柊修也です。あのときは自己紹介もしなかったけど」
「そして今度は自己紹介もなくプロポーズと……一体どんな子よ? あんた」
私が笑うと、修也くんは青いバラの花束を私に差し出す。
「気持ち悪いかもしれませんけど、子どものときからずっとあなたのことを見ていたんです。バラ園に誘ったのは、必死のデートだったんですよ。それからは勤め先も調べて……それだけあなたは俺にとって強烈な思い出を残したんですよ」
「一緒にバラ園に行っただけで?」
「もらった写真、バラが二輪……バラって何本渡すかっていうのでも意味が変わるの、知ってます?」
「あのときあげた写真のバラは二輪だっけ?」
「『ふたりの世界』です。あの写真をもらったとき、直感的に俺にはあなたしかいないと思った。ちなみに青いバラの今の花言葉は……」
「『夢、叶う』だっけ?」
「俺の夢は、貴方を娶ることです。12年間ずっとこの日を待っていた。俺、今日で十八になるんです。だから、俺と結婚してください!!」
相変わらず、この子は押しが強い……。そして、私もこの押しの強さには抗えない弱い人間なのだ。
十八歳と二十九歳なんて年の差がありすぎるけど……結局は青いバラの魔法。『夢、叶う』でなんとかなってしまうのかな。そう思うと、少しだけ笑えてくる。
「何笑ってるんですか? 俺は真剣なんですよ! もう引っ越しの段取りはついていますし、会社にもあなたの退職届を出してあります!」
「ははは……って、えぇぇっ!?」
ご、強引を通り越した、なんだこいつは!?
私、マジで結婚するのか?
……まったく、強引なのは変わっていない。なんでかすごく必死に私を求めていることは伝わったけれど。
私は頭を抱えた。
まったく、未来は全然わからない。けど、青いバラが手に入る時代になったのだから、不可能などはないのかもしれない。