第10話 古手川さんへ(病院忙しい、乱暴化、心の余裕の作り方、前髪、先輩)

文字数 1,592文字

古手川さんへ

 お元気ですか。こちら、東京は梅雨が終わり、猛暑です。

【もの凄く忙しい】
 病院勤務につき、超絶忙しい、とのこと。
 そうですよね。容易に想像がつきます。帰宅、ご飯、寝る、だけだそうで。いや、もう、これは、奴隷生活といいますか、戦後の大八車を押していた時代を彷彿させますね。

【乱暴になった】
 届いた封筒を、心に余裕がなくなってしまったせいで、手で乱暴に開けてしまって、しょんぼりしている、とのこと。
 ああ、そういう時って、私もあります。封筒の端をビリって破くのですが、そこから先、上手くいかないことが多いですよね。ビリビリって破いていくと、なんか、破いた切れ端の中に、白い紙がサンドイッチのレタスのように挟まっているのを見ると、あ、もしかして、便箋も一緒に破いているのでは、と思ってしまうのです。でも、ここからが、心に余裕が無い事の本領発揮で、ええい、もういいや、これも便箋さんの運命じゃ、お主がそこに挟まっていたのが悪いんじゃ、などとのたまって、そのまま、破り続けてしまうのですよ。で、結局、便箋の一辺が無残に破けている様が視野の端に割り込んでくる中で、心のこもった内容を読むと、ああ、俺って、最悪、もう、死んでしまいたい、今日はもうだめだ、寝よう、なんてことになってしまうのです。
 貴殿におかれましては、どうか、このような模範的反面教師の背中を見て、反対方向にすくすく育ってくださることを願うばかりです。

【心の落ち着かせ方】
 忙しいとき、どうやって心を落ち着かせたらいいのか、大至急、教えろ、とのこと。
 私の場合は、散歩です。脳の血流が増大してしまったのを、散歩で鎮めることにしています。
 実は、私はADHDでアスペルガー症候群なのですが、こいつらは脳の血流が他者より多いのです。いい言い方をすると、常に高速回転している頭なのですが、オーバーヒートしやすいという欠点もあります。だから、ADHDの生徒は授業中に立ち歩くという、常人から見れば異常な行動をとるのです。これは、脳を落ち着かせる為の生理現象なのです。これが貴殿にあてはまるかどうかは分かりませんが、常人がやっても効果があると思います。

【初めて先輩になった】
 職場に新人がきて、先輩に昇格した、とのこと。
 おめでとうございます。これで貴殿も、観測史上最大の先輩風を吹かせられますね。もう、爆風ですね。
 貴殿が新人歓迎会で、積年の新人であったが故の心構えを、後輩にくどくどと伝授する様が、まるでZOOMのように想像できます。

【前髪を作った】
 前髪を作った、とのこと。
 あらー、やっちゃいましたか、前髪作り。
 もう、どうして、女の子っていうのは、前髪を作りたがる生き物なんでしょうね。ま、そういう前髪が風に吹かれて、まくり上げられて、おでこ全開になるのも、また乙なものでいいのですが。
 ところで、イラストでビフォーアフターを描いてくださっていますが、アフターの方にだけキラキラ星が二つも添えられているのを見て、貴殿の、有無を言わさぬお気に入りようが伝わってきました。

【最後に】
 こちらの近況を書くと、梅雨の頃から、ハーブを育てはじめまして、毎日、そのレモンの香りでリフレッシュしていたんですが、ある日、観測史上最大の倦怠感が訪れ、ハーブじゃ不足なので、生薬が含まれているユンケル黄帝液を買ってきたんですよ。それがめっちゃ効いたんですが、毎回七百円はちょっとしんどいな、と思いまして、なら、生薬を栽培しちゃおう、と閃きまして、今、私の横に淫羊霍、インヨウカクっていうんですが、まあ、はい、字義の通りのものです、が鎮座していらっしゃいます。葉っぱの味は、無味でした。薬効はある、と、信じています。なにぶん、漢方なので遅効性なのは仕方ない、と思っています。
またね
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登場人物紹介

相手のことをついつい考えてしまう人。ある時、文通こそ自分の長所を活かせる挙動ではないか、と閃き、実行に移す。架空の文通サークルで、お手紙を書きまくる毎日を過ごす。職業は、東京の世田谷区にある揚げ物屋を経営する会社の社長。

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