第5話 早川さんからのお手紙に対する返事(鬱に日光、炊飯器の隙間、孤立無援)

文字数 1,598文字

早川さんへ

【貴殿のレタセのこと】
 お元気ですか。またまた可愛いレタセですね。貴殿のレタセはいつも、チョイスが凝ったものばかりで、そのうち、チョイスに疲れて、あー、もう、いいのが無い、だめ、文通サークルやめた、てな事にならないかと、危惧しております。
 そんな時は、どうか、コピー用紙に書いて、茶封筒に入れて出してくださいませ。文通サークルを辞められてしまうより、ずっと、マシですから。いや、ほんとに、張り切り過ぎて、疲れて、お試し期間で辞めちゃう人が多いんです。
 
【梅雨で変わったこと】
 え、梅雨の影響で、変わったことないかって。そりゃ、ありますよ。私は日光を浴びないと鬱になるので、すっかり、それになってしまいました。この手紙を書いている時点で、梅雨が終わったようなので、大至急、近所の河川敷に行って、日光浴をすることが喫緊の課題です。

【夏が好きな理由から人間に最適な場所のこと】
 そうなんですよ。夏が好きなんです。しばしば考える事なのですが、裸で生きることができる場所が人間が自然と幸せを感じることができる場所なのではないか、と。
 トマトって、元々は、乾燥した高原の植物なのですが、そこで、育てると、畑のものと別物で、甘い果実になるそうなんですよ。その事を知った時、それなら、人間にとっての本来の生き場所って、どこなのかな、って思ったんですよ。無理して、服を着ないと生きていけない場所で生きるなんて、ストレスたまるじゃないですか。
 むかし、私が司法試験浪人生をしていた時、友人がこんなことを言ったのです。
「ぼくは、寒いところが好きだな。だって、ヨーロッパのように寒い所だけが文明、文化が発達しているじゃないか。」
 これを聞いて、考えたのは、だって、暑いところは、それだけで、もう、幸せなんだから、そんなもん発達させる必要が無かったんだよ、ということでした。
 あと、自説が正しいことを証明するもう一つの証拠が、「みんな、死んだら行ける天国って、どんなところを想像する」って訊けば、必ず、南国なんですよ。ここまでくると、人間の遺伝子には、天国とは、と訊かれれば、南国だ、と答えることが埋め込まれているのでは、と思えてきてしまいます。
 あ、でも、あれですよ、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしで、暑すぎるのはダメですよ。私が言いたいのは、ちょうどいい、暑さです。

【自由人志向で、かつ、細かいことが気になる人であること】
 私も、貴殿同様、大雑把で、なんとかなるさ、という気構えの持ち主です。そのうえで、細かいことが気になる瞬間というのは、例えば、電気製品の微調整ですかね。なんか、性能を最大に発揮させてあげてないような、申し訳ない気がしてくるのですよ。
 蓋にかすかな隙間がある炊飯器とかを見ると、あれ、もしかして、干からびたお米が挟まっているのかも、それが原因で、蒸らし機能が落ちるとしたら、炊飯器の面目が立たんな、となるのです。

【困っている人を助けたいこと】
 困っている人がいたら助けたい、と貴殿が思う理由が、今まで周囲の人に助けられてきたから、とのこと。これを読んで、貴殿はすくすく育ってきたんだなぁ、と思いました。
 対して、我が人生は、圧倒的に孤立無援の人生でした。私が窮地に陥っても、みんな、見て見ぬふりをする、という事もたびたびありました。『北斗の拳』の世界でした。
 まあ、こんな現象も、第三者に言わせると、「本人の性格の良し悪しが原因だろ」となるのですが、精神医学の見地からは、性格は遺伝と幼少期の環境で決定される、とあるので、「俺が悪いんじゃない」と反論したくなるのです。

【最後に】
 貴殿のような人を食客として招き、私の作品を読んでいただいて、忌憚のない意見を述べてもらいたい、と思っています。いつか、お会いできればな、と。

またね
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登場人物紹介

相手のことをついつい考えてしまう人。ある時、文通こそ自分の長所を活かせる挙動ではないか、と閃き、実行に移す。架空の文通サークルで、お手紙を書きまくる毎日を過ごす。職業は、東京の世田谷区にある揚げ物屋を経営する会社の社長。

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