ヴァンパイア・ハンター・大悟郎
文字数 3,012文字
普段は決して一人では歩かない人気のない公園。
しかしこの少女は、今日この時に限って、ついつい近道のため、この道を選んでしまった。
が、そこにどこからともなく、街灯の明かりを照り返し、小さなものが飛んでくる。
それはモヒカン・キングの後ろ首筋にぽすっと当たる。
首の後ろに手を回して、飛んできたものが何なのか確認する。
それは、小さな十字架だった。
暗闇の中から姿を現したのは、フードを被った青年。
その出で立ちは闇夜に目立たぬよう、黒い服装で統一されている。
だが悲しいかな、背中に背負った野球のバットほどある十字架が、彼をこれ以上ないほどに目立たせている。
唖然とするモヒカン・キング。
だが彼の頭が悪いわけではない。モヒカンでなくとも突然現れたこの男が何を言っているのか、すぐには理解できないだろう。
モヒカン・キングの呼びかけに現れたのは、20名ほどの新たなモヒカン。
モヒカン・キングの下僕たちである。
Dが取り出したのは小さな十字架を鎖のように連ねたもの。
その名は―
モヒカンの顔がじゅーっと音を立てて焼ける。
そしてそのままそのモヒカンは戦意を喪失し、地面を転げまわる。
取り巻きのモヒカン達の空気が変わる。
これがモヒカン・キングの能力「ファッション・リーダー」。
半径20メートル以内にいるモヒカン・ヘアの身体能力を増幅する効果がある。
効果はモヒカンの高さに比例し、当然のことながら、最長の長さ50センチを誇るモヒカン・キングの身体能力の伸び幅は他の追随を許さない。
対する「D」にはそのような能力はない。彼はただ、聖なる十字架で「吸血鬼」を滅するのみである。
だが心配は無用である。彼には背に負った、巨大な十字架があるのだから。
先ほどの、チェーンに巻かれたモヒカンの比ではない、真なる絶叫が深夜の公園にこだまする。
そしてそれきり、彼は動かなくなった。
肉の焦げるいやな臭いが立ち込める。
誰がどう見ても焼き殺されている。
口調は強いがすでに及び腰のモヒカンズ。
「ばっくれようか?」などと頭をよぎったその隙を「D」は見逃さない。
そう叫びながら、十字架をぐりんぐりん振り回しながらモヒカンの群れに飛び込む。
十字架に触れたものは肉を焼かれ、ショックのあまり気を失うか、運悪く絶命するかである。
言うが早いか、モヒカン・キングの体が宙を舞う。
その動きには、さすがの「D」もついて行けない。
だが・・・
瞬間、炎を上げて燃え上がるモヒカン・キング。
それは何故か・・・
そう、そこにあるのは地面に引かれた大きな十字の線。
その中心こそがモヒカン・キングがいる場所である。
ザコどもをやるついでにこの踵が銀製のホーリー・ブーツで十字を地面に引いていた。
神聖なるヴァンパイア・ハンターであるオレが引いた十字は当然聖なる十字架となりキサマら吸血鬼を滅することとなる。
・・・相手が悪かったな。
だがモヒカン・キングはすでに燃え上がる肉塊と化している。
ついでに周りのモヒカンズも燃え上がり、夜の公園はキャンプファイヤーの様相を呈している。
だが彼女の表情は固い。
当然である。周りはモヒカン達のキャンプ・ファイヤー。
控え目に言っても大惨状である。
何がなんだかわからないが、とにかく家に帰れる。
それが分かり、安堵の表情を浮かべる少女。
そうだ、そもそもそこで燃えてるのは吸血鬼なんだ。化物なんだ。私は何も関係ない。
ああそうか。今後同じことがあったとき、これがあれば大丈夫。
少女は十字架を受け取りーーー
ちが・・・!
私・・・吸血鬼なんかじゃ・・・あっ!
熱!やめ!やめ・・・助・・・!
あ・・・!あぁ・・・
あああーーーーーーーーーーー!!!!!
夜が更ける。
まだ燃え燻るモヒカン達をあとに「D」は公園を立ち去る。