ヴァンパイア・ハンター・大悟郎

文字数 3,012文字

深夜の公園。いつもは静かなその場所に、か弱き女性の悲鳴が響き渡る。
誰か、助けて・・・・!
おっと、そうはいかないぜお嬢ちゃん
明らかな悪人顔にモヒカンヘアー。まごう事なき極悪人である。
こんな夜中に女の子が、一人で歩いてちゃあマズいってことぐらいは・・・わかるよなぁ?

普段は決して一人では歩かない人気のない公園。

しかしこの少女は、今日この時に限って、ついつい近道のため、この道を選んでしまった。

や・・・!

誰か、誰か!

ムダムダ!誰もこないって。

なんせ、夜はこの俺様、モヒカン・キングの縄張りだからな!

が、そこにどこからともなく、街灯の明かりを照り返し、小さなものが飛んでくる。

それはモヒカン・キングの後ろ首筋にぽすっと当たる。

それは結構熱かった。

・・・って、あっちぃ!?

なんじゃこりゃあ!?

首の後ろに手を回して、飛んできたものが何なのか確認する。

それは、小さな十字架だった。

ふん、やはり吸血鬼か。

暗闇の中から姿を現したのは、フードを被った青年。

その出で立ちは闇夜に目立たぬよう、黒い服装で統一されている。

だが悲しいかな、背中に背負った野球のバットほどある十字架が、彼をこれ以上ないほどに目立たせている。

ああ?これ投げてきたのはお前か?あちぃじゃねぇか。
それは聖なる十字架「ホーリー・クロス」。それを熱いと感じたならば、それはお前が吸血鬼である証拠。
・・・?

唖然とするモヒカン・キング。

だが彼の頭が悪いわけではない。モヒカンでなくとも突然現れたこの男が何を言っているのか、すぐには理解できないだろう。

だがしかし、構わず青年は話を続ける。
そしてキサマら吸血鬼を滅ぼすために、ヴァンパイア・ハンターがであるこのオレが存在する。
アホか。
我が名は「D」。いくぞ、吸血鬼!
思わず口をついたモヒカン・キングの呟きを、しかし全く意にも解さずDは走り出した。

何だか知らんがやってやる。

おい、てめぇら出てこい!

うす。

モヒカン・キングの呼びかけに現れたのは、20名ほどの新たなモヒカン。

モヒカン・キングの下僕たちである。

仲間を呼んだか。だが何匹いようが吸血鬼。この「D」の敵ではない。

Dが取り出したのは小さな十字架を鎖のように連ねたもの。

その名は―

ホーリー・クロス・チェーン!
十字架の鎖がいち早く飛びかかってきたモヒカンの顔に絡みつく。
ぎゃー!

モヒカンの顔がじゅーっと音を立てて焼ける。

そしてそのままそのモヒカンは戦意を喪失し、地面を転げまわる。

どうも、普通の十字架じゃねぇな・・・

「お前も」魔人か?

魔人?オレはヴァンパイア・ハンター「D」。それ以外の何者でもない。

お前がアホなのはこの際どうでもいい。

俺様の能力の前には敵などないからなぁ!

取り巻きのモヒカン達の空気が変わる。

これがモヒカン・キングの能力「ファッション・リーダー」。

半径20メートル以内にいるモヒカン・ヘアの身体能力を増幅する効果がある。

効果はモヒカンの高さに比例し、当然のことながら、最長の長さ50センチを誇るモヒカン・キングの身体能力の伸び幅は他の追随を許さない。

漲るぜ!てめぇらやっちまえ!
うす、うす。

対する「D」にはそのような能力はない。彼はただ、聖なる十字架で「吸血鬼」を滅するのみである。

だが心配は無用である。彼には背に負った、巨大な十字架があるのだから。

いくぜ、ディバイン・クロス!
背負っていた十字架を手に取り思い切りぶん回す「D」。
おっと、そんなもん。強化されたおれっちにはぎゃー!!!

先ほどの、チェーンに巻かれたモヒカンの比ではない、真なる絶叫が深夜の公園にこだまする。

そしてそれきり、彼は動かなくなった。

え、おま、これ・・・死んでんじゃ?

肉の焦げるいやな臭いが立ち込める。

誰がどう見ても焼き殺されている。

やりすぎだろお前、シャレになんねーぞおい!

口調は強いがすでに及び腰のモヒカンズ。

「ばっくれようか?」などと頭をよぎったその隙を「D」は見逃さない。

逃がさん!ディバイン・クロス・ハリケーン!

そう叫びながら、十字架をぐりんぐりん振り回しながらモヒカンの群れに飛び込む。

十字架に触れたものは肉を焼かれ、ショックのあまり気を失うか、運悪く絶命するかである。

ひと時ののち、そこには死屍累々とモヒカンズが転がっていた。
バカな、俺様の能力で強化したモヒカンどもがこうも容易く・・・?
さぁ、あとはキサマだけだ。

ちっ・・・!

だがナメるなよ?

オレ様が誇る、50センチのモヒカンによる身体能力強化はおよそ3倍!

いかにお前がヤバい凶器を振り回そうが、当たらなければどうとういうことはない!

言うが早いか、モヒカン・キングの体が宙を舞う。

その動きには、さすがの「D」もついて行けない。

だが・・・

ふっ、残念だが勝負は既に決している。

アホか死ね!
(体を横にずらす)
お?
モヒカン・キングが踏み込んだそこは・・・
ごっっっ!はばぁっっっ!?

瞬間、炎を上げて燃え上がるモヒカン・キング。

それは何故か・・・

いかにキサマが瞬速であろうとも、眼で追いきれないほどではない。

一度だけなら身をかわすこともできるだろう。

そしてキサマが踏み込んだそこにあるのはオレの切り札。

そう、そこにあるのは地面に引かれた大きな十字の線。

その中心こそがモヒカン・キングがいる場所である。

ザコどもをやるついでにこの踵が銀製のホーリー・ブーツで十字を地面に引いていた。

神聖なるヴァンパイア・ハンターであるオレが引いた十字は当然聖なる十字架となりキサマら吸血鬼を滅することとなる。

・・・相手が悪かったな。

だがモヒカン・キングはすでに燃え上がる肉塊と化している。

ついでに周りのモヒカンズも燃え上がり、夜の公園はキャンプファイヤーの様相を呈している。

さて、もう大丈夫だお嬢さん。
すっかり忘れ去られていたかに思われた、モヒカンに襲われていた少女に「D」が声を掛ける。
あ、え・・・

だが彼女の表情は固い。

当然である。周りはモヒカン達のキャンプ・ファイヤー。

控え目に言っても大惨状である。

なんとか無事に帰りたい。そんな彼女の願いが届いたのか、目の前のヴァンパイア・ハンターは優しく語りかける。
悪い吸血鬼は退治した。君は安心して家に帰るといい。
あ・・・

何がなんだかわからないが、とにかく家に帰れる。

それが分かり、安堵の表情を浮かべる少女。

そうだ、そもそもそこで燃えてるのは吸血鬼なんだ。化物なんだ。私は何も関係ない。

あ、あの、ありがとうございました。じゃあ、えと、私はこれで・・・

ああそうだ。今後またいつ吸血鬼に狙われるか分からない。

オレの十字架をひとつ分けてあげよう。きっと力になってくれる。

あ、ありがとうございます。

ああそうか。今後同じことがあったとき、これがあれば大丈夫。

少女は十字架を受け取りーーー

ーーー熱っ!
十字架を受け取った少女のてのひらは、赤くやけどの跡がついていた。
・・・ああなんということだ。君も吸血鬼だったのか。
え。

ちが・・・!

私・・・吸血鬼なんかじゃ・・・あっ!

熱!やめ!やめ・・・助・・・!

あ・・・!あぁ・・・

あああーーーーーーーーーーー!!!!!

夜が更ける。

まだ燃え燻るモヒカン達をあとに「D」は公園を立ち去る。

今日は22匹。なかなかの成果だったな。だが感じるぞ。まだまだ世には吸血鬼がはびこっている。

全てを滅するまでオレの戦いは終わらない。

そう。世の吸血鬼をすべて滅するまで、ヴァンパイア・ハンター「D」の戦いは終わらない。
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登場人物紹介

【プロフィール】

魔滅・大悟郎(マボロシ・ダイゴロウ)

聖なる十字架により吸血鬼を滅するヴァンパイア・ハンター。

彼の念を送った十字架は聖なる力を放ち、吸血鬼に熱傷を負わせることができる。


・・・と本人は信じて疑わないが、実際には十字架と認識したものを熱くするだけの能力であり、相手が吸血鬼であるか否かを問わず、十字架に触れれば焼かれることになる。

常識的に考えて、吸血鬼などこの世に存在しない。

必ずしも十字架に触れる必要はなく、視認し、念じるだけで発動する。


【能力名】

V・H・D(ヴァンパイア・ハンター・ダイゴロウ)

十字架により吸血鬼を灰塵と化す聖なる能力。

と本人は考えているが、実際は大悟郎が「聖なる十字架」であると認識したものを熱くするだけの能力。

熱量は十字架の大きさに比例する。

(参考例)

首飾り程度の大きさ→カップ麺のお湯を指にこぼした程度の熱さ

バット程度の大きさ→熱したフライパン程度の熱さ

人間が磔にされる程度の大きさ→燃え上がり灰になる程度の熱さ


【プロフィール】

モヒカン・キング

モヒカンこそが最強であると信じて疑わないモヒカンのカリスマ。

徒党を組んで女性を襲う。


【能力名】

ファッション・リーダー

半径20メートル以内のモヒカン者の身体能力を向上させる。

上昇割合はモヒカンの高さに比例する。


モヒカンズ

モヒカン・キングの配下達。

被害女性

唯一普遍の被害を受ける女性。

【プロフィール】

大森・孝(オオモリ・コウ)

ぷりてぃなコウモリさんをこよなく愛するおじ様。好きが高じて変身能力を得る。

【能力名】
バッド・バット
コウモリ人間に変身する能力。
人間大の生物が飛ぶには尋常ならざる筋力を要するため、まず間違いなく飛べるはずもないのだが魔人能力ゆえなぜか飛べる

コウモリ男

変身するとこうなる。どこからどう見てもコウモリ男。

【プロフィール】

螺理多・極(ラリタ・キメル)

魔人探偵。螺旋のごとく捻れ絡み合う世の理を見極めることを信念とする。

【能力名】
探偵の嗜み
愛用のパイプを通して吸入した空気を化学物質に変質させ、脳内分泌物を自在に引き出す。

【プロフィール】

根黒・萬作(ネクロ・マンサク)


【能力名】
亡き君の怨思い出(メモリアル・バインダー)

指定した対象が「殺害した」相手の情報が写真付きで現れるバインダーを出し、

さらにその中から選んだ者の幽体を具現化することができる。


【プロフィール】
正義・徹終(マサヨシ・テッツイ)

魔人刑事。


【能力名】

正義の鉄槌

正義・徹終が「悪」と判断した者に対する拳の一撃に、絶大な破壊力を伴った衝撃波を付加することができる。正義の主観に左右されるため、相手が真実「悪」か否かは問わない。

その威力は、正義が相手が犯したと判断した「罪」の重さに比例する

【プロフィール】

轟・掌太(トドロキ・ショウタ)

新米刑事。


【能力名】

電車遊戯(トレイン・ゴー)

輪状にした紐の中に入って縦一列に並んだ者が全員で紐を腰の高さに持ち上げることにより発動。電車並みの速さで移動することができる。最高時速は119kmにも達する。

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