吸血鬼の使徒

文字数 2,674文字

繁華街から外れた路地裏の一角。

その袋小路で一人の少女が怪しい男に追い詰められていた。

ふふふ、こんな夜更けにこんな場所で・・・いけないコだねぇ。

オジさん、やってみたいことがあるんだ。いいよねぇ?

ひ・・・!
じりじりと少女ににじり寄る男。

や、やめ・・・

!?

恐怖に引き攣りうまく拒絶の言葉も出せない少女。

しかし、それを上回る恐怖が少女を襲う。

むはははぁ。
ただでさえ気色の悪い言動であった男が、見る見る間に異形へと姿を変えたのだ。
ひっ・・・!

この男、コウモリ好きが高じてついにはコウモリ人間に変身する能力を得た。

大森・孝の「バッド・バット」である。

さぁ、おとなしくしておいで?

じりじりとにじり寄るコウモリ男。

恐怖に狩られた少女はもつれた足取りで後ずさるが、後ろはすでに壁である。

ではいただきます・・・
あ・・・

肩を掴まれ、首筋に牙を突き立てられる。

本来血を吸うコウモリは数少ないが、大森・孝この男、一度女の子の首筋に噛み付いてみたかったのである。

んー、思ったよりも美味いとかそういう感じじゃないなぁ・・・
おい、そこまでだ。

いつの間に現れたのか。

そこに姿を現したのはフードを被った黒ずくめの男。

手にはブ厚い革のグローブ、そしてひときわ目を引くのは背中に背負った大きな十字架。

なんだねキミは・・・変質者?

衝動にかられて少女の首筋に噛み付いたコウモリ男が訝しみの声を上げる。

オレはV・H(ヴァンパイア・ハンター)「D」。

キサマら吸血鬼を滅ぼすものだ。

吸血鬼?違うぞ私は。

ただ女の子の首筋をかみかみしてみたかっただけだ。

正直にありのままを伝えるコウモリ男。

ふん、これを受けても同じことが言えるかな?
言ってコウモリ男に向かって銀色にきらめく小物を軽く放り投る。
ん?
何かと思い、つい手を伸ばし受け止めるコウモリ男だがーーー
熱い!?

あまりの熱さに放り出してしまう。

その手のひらには赤く、十字型の火傷の跡が残っていた。


ホーリー・クロス。それに焼かれたことこそが、キサマが吸血鬼である何よりの証拠。

これがこの男、魔滅・大悟郎の能力「V・H・D」(ヴァンパイア・ハンター・ダイゴロウ)である。

聖なる十字架に念を送ることにより、吸血鬼を滅する力を与えることができる。

・・・と考えているのは本人の妄想であり、実際には、ただ単に、彼が「聖なる十字架」と認識したものを「熱くする」だけの能力である。

その熱量は十字架の大きさに比例する。

ぐっ・・・!バカな、私が吸血鬼?

ただ単に首筋をかみかみなめなめしたい衝動にかられただけのはず・・・

いやまて、本当は血を吸いたかったのか・・・?

だがしかし、真面目な性格のコウモリ男は「D」の話を鵜呑みにしつつあった。

ふむ、そう言われてみると、なんだか吸血鬼な気がしてきたぞ。

そうだ、私は血を啜りたかったんだ。

完全なる鵜呑みである。

・・・それで、キミは吸血鬼を滅ぼす、と言っていたね?

せっかくやりたいことがはっきり分かったんだ、邪魔されたくはないなぁ。

ーーーここでキミには死んでもらおう。

やれるもんなら、な!

背中に差した、バットほどもある十字架を抜き放ち構える「D」。

だがしかし。

ふーはーはー!

空高く、宙に舞い上がるコウモリ男。

見た目に反して存外華麗に飛び回る。

逃がすかよ! ホーリー・クロス!

そう叫び、ポケットから鷲掴みで取り出した無数の十字架を空のコウモリ男めがけて投げつける。

が、それを器用にひらりひらりと躱す。

そう、それはーーー

エコー・ロケーション。コウモリは超音波で物を察知し躱すことができる。

常識だよね?

こんな十字架、いくら投げても当たりはしないさ。

そして逃げるとは失敬な。キミの相手はコイツらさーーー!

超音波の副次作用なのかコウモリ語なのか、周りには無数のコウモリが集まってきていた。

コウモリに取り囲まれる「D」。

ちっ!こいつら噛み付いてきやがる!
うむ、血は吸いたいが、男の血は要らん。コウモリ達に齧られて朽ち果てるが良い。
そうはいくかよ。ディバイン・クロス・ハリケーン!

手に持った大十字架を手当たり次第にぶん回す「D」。

本来その程度に当たるコウモリ達ではないが、いかんせん密集しすぎた。

何匹かは十字架に当たり、そして炎を上げて燃え上がる。

燃えた一匹に他のコウモリがぶつかりさらに燃えーーー

気づけば地面には燃え盛るコウモリが山となり、ひときわ大きな炎を上げることとなった。

むぅ、これは? 気流が乱れてうまく飛べん・・・!?
おっと、そこだ。ホーリー・チェーン・クロス!

懐から取り出した、小さな十字架を連ねて作った「鎖」をコウモリ男めがけて振るう。

「鎖」はコウモリ男の足に絡みつき、それを見て取った「D]は鎖を思い切り引き寄せ、そのままコウモリ男を地面へと叩きつける。

ぐへぁあ!
高度からの落下にコウモリ男が悶絶、動きが止まる。
これで終わりだ「ホーリー・ウォーター」!

所謂聖水(ただの水)を十字を描くようにコウモリ男の上に撒く。

それは2メートルほどの十字架を描くこととなりーーー

!!!
瞬時に体液が蒸発し、焼け付くほどの高熱を受け、コウモリ男は絶命した。

ふぅ、まぁまぁ危険な相手だったな。

さて・・・

あ・・・

何が起こっているのかも分からずに。

ただ呆然と立ち尽くしていた少女に向き直る「D」。

吸血鬼に噛まれた者は吸血鬼になる。

・・・可愛そうだが、脅威となる前にキミも滅する必要がある。

え?

まるで頭が追いつかない。

「私が吸血鬼に?」そんなはずはない。さっきのだって、ちょっと噛まれて血が出ているだけだ。

何の変化も感じない。吸血鬼になどなっているはずはない。

ち、ちがいます!私、人間のままです。

さっきのだって、ちょっとかじられただけで、かすり傷だし・・・大丈夫なはずです。

・・・じゃあ、この十字架を受け取れるかい?

差し出されたのは小さな十字架。

きっと大丈夫。おそるおそる差し出した少女の手のひらに十字架が触れーーー

熱いっ!
十字架は、少女の手のひらにくっきりと赤い痕を残した。
・・・
あ、まって、ちがうの、本当にちがうの。これはきっとーーー

やめて、助けて、そんな大きなもので叩かないで

や、やだ、たすけーーー

あああああああああああああああ!

熱い!熱い!やめて、やめ・・・

・・・・・・・!

ーーー日が昇る。朝が来たのだ。

・・・また一人、罪なき者が吸血鬼となってしまった。

この悲しみの輪廻、オレが断ち切り、滅ぼしてやる・・・!

今日も「吸血鬼」を討ち滅ぼした「D」。

だが明日も、そしてその先も。「D」の戦いは終わらない。

この世から、「吸血鬼」がいなくなることはないのだから。

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登場人物紹介

【プロフィール】

魔滅・大悟郎(マボロシ・ダイゴロウ)

聖なる十字架により吸血鬼を滅するヴァンパイア・ハンター。

彼の念を送った十字架は聖なる力を放ち、吸血鬼に熱傷を負わせることができる。


・・・と本人は信じて疑わないが、実際には十字架と認識したものを熱くするだけの能力であり、相手が吸血鬼であるか否かを問わず、十字架に触れれば焼かれることになる。

常識的に考えて、吸血鬼などこの世に存在しない。

必ずしも十字架に触れる必要はなく、視認し、念じるだけで発動する。


【能力名】

V・H・D(ヴァンパイア・ハンター・ダイゴロウ)

十字架により吸血鬼を灰塵と化す聖なる能力。

と本人は考えているが、実際は大悟郎が「聖なる十字架」であると認識したものを熱くするだけの能力。

熱量は十字架の大きさに比例する。

(参考例)

首飾り程度の大きさ→カップ麺のお湯を指にこぼした程度の熱さ

バット程度の大きさ→熱したフライパン程度の熱さ

人間が磔にされる程度の大きさ→燃え上がり灰になる程度の熱さ


【プロフィール】

モヒカン・キング

モヒカンこそが最強であると信じて疑わないモヒカンのカリスマ。

徒党を組んで女性を襲う。


【能力名】

ファッション・リーダー

半径20メートル以内のモヒカン者の身体能力を向上させる。

上昇割合はモヒカンの高さに比例する。


モヒカンズ

モヒカン・キングの配下達。

被害女性

唯一普遍の被害を受ける女性。

【プロフィール】

大森・孝(オオモリ・コウ)

ぷりてぃなコウモリさんをこよなく愛するおじ様。好きが高じて変身能力を得る。

【能力名】
バッド・バット
コウモリ人間に変身する能力。
人間大の生物が飛ぶには尋常ならざる筋力を要するため、まず間違いなく飛べるはずもないのだが魔人能力ゆえなぜか飛べる

コウモリ男

変身するとこうなる。どこからどう見てもコウモリ男。

【プロフィール】

螺理多・極(ラリタ・キメル)

魔人探偵。螺旋のごとく捻れ絡み合う世の理を見極めることを信念とする。

【能力名】
探偵の嗜み
愛用のパイプを通して吸入した空気を化学物質に変質させ、脳内分泌物を自在に引き出す。

【プロフィール】

根黒・萬作(ネクロ・マンサク)


【能力名】
亡き君の怨思い出(メモリアル・バインダー)

指定した対象が「殺害した」相手の情報が写真付きで現れるバインダーを出し、

さらにその中から選んだ者の幽体を具現化することができる。


【プロフィール】
正義・徹終(マサヨシ・テッツイ)

魔人刑事。


【能力名】

正義の鉄槌

正義・徹終が「悪」と判断した者に対する拳の一撃に、絶大な破壊力を伴った衝撃波を付加することができる。正義の主観に左右されるため、相手が真実「悪」か否かは問わない。

その威力は、正義が相手が犯したと判断した「罪」の重さに比例する

【プロフィール】

轟・掌太(トドロキ・ショウタ)

新米刑事。


【能力名】

電車遊戯(トレイン・ゴー)

輪状にした紐の中に入って縦一列に並んだ者が全員で紐を腰の高さに持ち上げることにより発動。電車並みの速さで移動することができる。最高時速は119kmにも達する。

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