九 負弦という名のオイゲン

文字数 872文字

 俺の心の思考を感知して、巨大電脳意識・神場のアバターが、神場本体の前に現われた。そして、倒れて息絶えたディノスの負弦を指差した。アバターの神場は、髪の長い古代の女戦士の姿をしている。

「負弦のデロス帝国で名は、オイゲン、です。デロス帝国の特殊工作員でした。
 軍事活動や破壊活動はしませんが、諜報活動の一環として、細胞融合の特殊手段を講じていました。
 しかし、今後はそのような事をできぬよう、先ほど私・神場が4D探査波で、この惑星ガイアに棲息するヒューマの細胞分子記憶領域に、ディノスとは相容れぬ遺伝情報を組み入れました。
 これによって、ディノスとの交配はおろか、食した場合の細胞融合も不可です」

 俺はオイゲンの遺体を指差した。
「このオイゲンを食っても、他の動物を食った場合と同じになるのか?」
「早く言えばそういうことです。モア(獣脚類の子孫、惑星ガイア最大の鳥類)を食しても、ヒューマがモアに変異しないのと同じです」

「わかった。理解した。
 デロス帝国の地質学者が宇宙艦で侵攻してる。
 どうやって侵攻を食い止めればいいか?」
 俺は神場に、デロス帝国の侵略を阻止する方法を訊きたかった。

 神場のアバターは4D映像探査ディスプレイに映るデロス帝国の惑星地質調査艦を示して言った。
「デロス帝国の特殊工作員は、私が、ヒューマ細胞の分子記憶領域に、ディノスとは相容れぬ遺伝情報を組み入れた事を知りません。
 オイゲン同様にデロス帝国の特殊工作員のディノスは、ヒューマの身体を乗っ取るために、ヒューマに食されるのを望みます。ですが、それは不可能になりました。
 ヒューマの種が繁栄するよう、ディノスを食してください。
 ディノスを獣脚類が収斂進化したヒューマノイドとは考えずに、ヒューマノイドのような獣脚類と考えれば良いのです。
 今後、次々にデロス帝国の特殊工作員を乗せた惑星地質調査艦が飛来します。
 彼らはヒューマに食されるのを望みます!
 ヒューマの食糧は尽きません!」
 髪の長い古代の女戦士の神場は、アマゾネスの如く力強くそう言った。

(二章 新たな侵略者 了)
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