【第五十五片】 一方、稲原凛は……

文字数 898文字

稲原凛は放課後に誰もいないスポーツ研究部の部室で勉強をしていた。今は風馬と浩正、麻紀が一年生オリエンテーション旅行に行ってしまっているため、二年生である凛はスポーツ研究部の部室を一人で使うことができるのだ。

(そろそろ中間テストもあるし、勉強しなくちゃだけど、手に付かないな……)

と、凛はシャーペンを握りながら思っていた。

何故なら、風馬の件についてまだ何も凛は聞いていなかったからだ。しかし、それは当然で少し前までの時間では風馬たちは博物館に行っているため、スマホをいじる時間なんてありはしなかったのだ。

(心配だ)

凛はそう思った瞬間、スポーツ研究部の部室のドアが三回ノックされたため、ドアの方へと視線を向けると、ドアの窓から黒い長髪に青のインナーカラーを入れた女子生徒、伊本真尋の姿が見えた。
凛は勉強も手に付いていなかったこともあり、仕方がなくドアの方へと向かい、ドアを開けた。

「ここの部活に空野風馬という男がいるだろ?そいつを呼び出してはくれないか?そいつに頼みたいことがあってだな」

「あ、ごめんなさい。空野くんは一年生だから今、オリエンテーション旅行に行っちゃっていて」

と、凛が答えると、真尋は露骨に残念そうな顔を浮かべながら、「ああ、せっかく花子さんの証拠を掴んだっていうのに………」などと呟いていた。
だが、そんな彼女を見かねた凛はもう勉強をすることを諦め、口を開いた。

「もし良ければ、私が一緒にその証拠見ようか?私ならすぐに風馬くんに連絡できるし」

「本当か!?それは助かる。なら、急いでこっちに来てくれ」

真尋は笑みを浮かべながらそう言った。
そんな様子を見た凛は真尋のそんな様子に提案して良かったと思いつつ、スマホが制服の内ポケットにあるかを確認し、真尋に促されるまま足を運んだ。

そして、三十分後。メッセージアプリを介して、浩正のスマホと凛のスマホの間でこのようなメッセージが同時に送り、送られた。

『大復活!!心配かけたな!!By風馬』

『花子さんの原因はトイレにあったボロボロな布切れ!By伊本真尋』

という文言が。
そして、それを見た凛は、真尋ががっかりしている傍らで安心して、息を深く吐いた。
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