1話 呪いか魔法か
文字数 4,170文字
その日は地震で目を覚ました。まだ薄暗い早朝、先週から続く長雨の音が部屋に響く。お祈りの時間にはまだ早いけれど、地震のこともあったので、潔く布団を離れて祈りの間に入り、少し長めにお祈りを捧げた。
僕は福介 。人々を厄災から守護する鬼。鬼ではあるけれども、神の中の神そして僕の上司にあたる大神様 から守護のお役目をいただいた神様だ。自分に“様”をつけるのも気恥ずかしいしおこがましいけれど、人々がそう呼んでくださるので大目に見てください。
朝食を終えると、窓の外が明るくなっていることに気づいた。ようやく、雨が止んだ。雲の合間から覗く淡い空色を見て心が踊り、すぐさま玄関のドアを開ける。胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込むと、湿っぽい緑の香りが肺を満たした。
籐籠を片手に、久しぶりの山菜採りに出かけることにした。この晴れ間を野鳥も蝶もリスも歓迎している風景はとても平和で、自然と笑顔になった。ここは、のどかで静かな山間。僕はこの豊かな環境をひとりじめしている。
山菜に加えて野苺も収穫でき、心をほくほくさせながら家へと折り返すと、空に大きな虹がかかっているのを発見した。
「綺麗だなあ」
よく見ると、その虹は白一色。とても珍しい現象を目の前に「いいことが起こる前触れだな」と確信。さらに太陽が煌き、優しい光で僕を包むから、手をかざしながら薄目で光源を眺め感謝する。とても神々しい瞬間だった。
今日のお昼は大好きな山菜うどんにしよう、そんなことを考え歩いていると、遠くから人の声が響いてきた。しかしここは神域、人が来れる場所ではない。不思議に思いながら声の居場所を突き止めようと見回すが、他人の気配は全くない。その声は、空から降って来ていた。
「そこの人ぉ―――っ!!受け止めてえぇぇーーーーっ!!!」
「えっ!?受け止めっ……えっ!!??」
慌てて籠を置き、落下予測地点まで全速力で移動。微調整を繰り返しながら両手を広げ、見事に謎の人をキャッチすることに成功した。爽やかな黄色の衣装に身を包み、身軽で小柄なその人は、僕に横抱きにされたまま安堵のため息をついた。そして突然たんぽぽのように明るい笑顔に切り替えて勢いよく話始める。
「ありがとうっ!助かったのだ!早速だが名前を教えてほしい、命の恩人くん」
「え、僕?」
「そう、“僕”だ!」
「あ、はい。福介です」
「うむっ。ではあらためて、ありがとう福介!自分はぴよまる、よろしく!」
彼は足をバタつかせ、そして僕の首に両腕を回して嬉しそうに笑っているが、こちらは頭の中が疑問符だらけになっていた。ここは神域なのに。人には僕の声が聞こえないはずなのに。
「……あの、ぴよまるさん。なぜ人であるあなたがここに?」
「君は面白いな。ぴよまるは鳥だぞ?人は君だろう福介」
「え……?」
「……え?」
「「えええぇぇぇーーーーっ!!??」」
僕らは人になっていた。
***
歩き方がおぼつかない彼を背負い、ひとまず僕の家に向かう。お互い頭を冷やして、冷静に現状把握と今後の対策を練らねば、そう思った。帰宅すると、彼は物珍しそうに室内を観察したのち、ハッと何かに気づいた様子でこちらに振り向く。
「福介!どうなっているのだ!?ぴよまるは鳥だな?そうだな!?」
彼は明らかに涙を我慢しながら、僕からの「君は鳥だよ」の答えのみを待っている。だけど、ごめんね。今の僕に言えることは。
「あったかい緑茶でも飲んで、少し休もうか」
「緑茶……?」
期待した答えとは異なり若干の落胆を見せるものの、緑茶にも興味を示すぴよまるくん。案外、いや印象通りに真っ直ぐで素直な子かもしれない。温かい緑茶を手に、2人して椅子に座る。彼は「熱くて飲めないのだ」と口を尖らせている。
「ぴよまるくん。どうやら僕らは人になっちゃったみたいだね」
「そうかもしれないな」
「うん。それで、隣の山に、仙人って呼ばれる生き字引のような鬼がいてね。お茶を飲んだら、僕らを元に戻す方法を聞きに行ってくるよ」
「ぴよも一緒に行く!」
「ありがとう。でも結構遠いけど、大丈夫かな?」
彼は「もちろん」の言葉を喉元で止め、代わりにため息をついてその両手を見下ろした。
「ぴよの羽は手になったから、もう空を飛べない。けど、足があるから、福介と一緒に地上を動けるぞ。ぴよが一緒の方が、嬉しいだろう?」
「うん。そうだね。じゃあ一緒に行こうか」
神様になってからずっと、この山間に住む鬼は自分ひとり。それが当然で普通だったから、ひとりであることすら意識に上らない。こうして歩き慣れた山道を誰かと並んで歩く日が来るとは、夢にも思っていなかった。
そして早速、仙人のお社を目指す。ぴよまるくんは意気揚々と玄関を飛び出し、すぐにヘロヘロになった。おんぶしようかと提案したが、彼は「自分の足で進む」と頑なに拒み、途中で野苺や花の蜜を口に含んで何とか元気を継続させている。僕のペースだと片道1時間程度で到着するのだが、その倍とほんの少し長くかかってようやく辿り着いた。疲労困憊ですでに半分目を閉じているぴよまるくんを応援してから、僕は社頭の鈴を鳴らす。しばらくして、静かな足音がやって来て社殿の扉が慎ましやかに開かれた。
「やはり来たか」
意味深長な微笑みを浮かべ、奥へと誘う仙人。僕らは大人しくそれに従い、奥の間で向き合って座る。隣のぴよまるくんは正座ができないようで、ちょこんと体育座りで仙人を凝視している。どうやら仙人の目元を覆う布と、そこに描かれた猪目模様に興味をもったらしい。その好奇心で満たされた瞳はまるで子どものように初々しいのだが、やや仙人に失礼なので注意しようとしたとき。
「淡黄色 のお若いの。そんなに見つめられては、穴が開いてしまいそうだよ」
「ん?布をしているのに、ぴよが見えるのか?」
「まあね。私の目は何も見えないが、心で感じ取れるのだよ」
「……」
ぴよまるくんは僕を仰ぎ見て、視線のみで「この人は何を言っているのだ?」と訴えかける。そのやり取りさえお見通しなのか、仙人は悠々と笑って言った。
「わかりやすい御仁だ。さてさて、用件を聞こうか。この私を訪ねるということは、余程お困りなのだろう?」
引き続き仙人の観察をするぴよまるくんをよそ目に、僕は説明を始める。
「はい。あの、僕らいつの間にか人になってしまったようで。本来、僕は神様…の端くれで、ぴよまるくんは鳥の・・・」
「ただの鳥じゃないぞ。ぴよを見た者に幸運を運ぶ、“幸せの黄色い鳥”。まあ、神様ではないけど」
「だそうです。あの、どうやったら元の姿に戻れるでしょうか?」
「そうさな。お二人とも、人化する前に、白い虹を見なかったかい?」
「見ました」
「見たぞ」
「やはりな。それはただの虹ではない。幻の虹と呼ばれるものよ。数千年に一度出現し、選ばれしもののみが目にすることができるという、白い虹だね」
「選ばれた?でも、僕にとって人化は喜ばしいものではありません。それは呪いの一種でしょうか?」
「受取手、つまり君次第さね。従って、それは不幸の呪いにも幸運の魔法にもなり得る。君はどちらにしたいかな?」
もちろん幸運の魔法を選びたいけれど、現状からして、呪いにしか思えない。僕には神様として与えられた役割がある。けれど人と成り神力が封じられた今の僕に、どんな価値があるというのだろう。守るべきものを守れぬ神、その存在意義は。
頭の中が自己批判で満杯になる僕を、ぴよまるくんは微笑んで励ました。
「大丈夫だぞ福介。ぴよがそばにいる限り、君は不幸にはなれない。ぴよは幸せの黄色い鳥だからな」
「うん……」
だけど今の君は、なんて、口が裂けても言えない。
「先の続きになるが、白い虹は選ばれしものに最適な変化を与え、ちょうど33日後に再び姿を現して無効化を行う。解除の虹を目にするその刻まで、自由にするがいい。試練と思い呪いにするのも、好機ととらえて魔法にするのも、君たち次第だ」
***
ぴよまるくんを背負い、陽が傾き始めた道を帰る。その途中、普段はしない独り言が勝手に口をつく。
「……33日か……」
「10年でも1年でもなく、33日だぞ。何がそんなに心配なのだ?」
「ぴよまるくん、僕はね、人々を厄災から守護する神様なんだ。毎朝お祈りを捧げることで、かけがえのない命の存続を確約し、平穏無事な時間をこの世界に定着させているんだよ。でも人である今の僕に神力はなく、祈っても人々と繋がれない。お祈りが届かない。僕には何もできないんだ」
「じゃあ、福介がいなかったら、人々はみんな死んでしまうのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
「ならばこの33日間は他の神様にお祈りを任せて、福介はお休みすればいい。息抜きして、たくさん笑うといい。ぴよは、眉間にシワを寄せた神様より、ニコニコした神様に見守られたいぞ」
「……」
「それに、毎日人のために頑張ってきた福介なら、突然お休みしたってみんな笑って許してくれるはずなのだ」
「みんなって言っても、ここには僕しかいないから」
「え!友達は?家族もいないのか?」
「いないよ」
「それを早く言って欲しかったのだぞ福介。いや、今日から君はふくまるだ!」
「福介だよ?」
「いいや、ふくまるが良いに決まってる。ぴよのことは兄と呼ぶといい」
「あ、僕は弟なんだね?」
「うむっ!頼れる兄ができて嬉しいだろう、おめでとう!」
「ハハハッ。ありがとう」
「うむーっ!」
言いながらぴよまるくんは僕の頭をめいっぱい撫で、そして突如睡魔に負けた。
僕は静かに歩きつつ思う。一気にたくさんのことを考え過ぎて疲れたので、今日のところはもう悩むのはやめにしよう。虹の33日間がどうなるかわからないし、これが呪いになるか魔法になるか見当もつかない。だけど明確なことがひとつだけ。
虹は、僕に小さなお兄ちゃんをくれた。
僕は
朝食を終えると、窓の外が明るくなっていることに気づいた。ようやく、雨が止んだ。雲の合間から覗く淡い空色を見て心が踊り、すぐさま玄関のドアを開ける。胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込むと、湿っぽい緑の香りが肺を満たした。
籐籠を片手に、久しぶりの山菜採りに出かけることにした。この晴れ間を野鳥も蝶もリスも歓迎している風景はとても平和で、自然と笑顔になった。ここは、のどかで静かな山間。僕はこの豊かな環境をひとりじめしている。
山菜に加えて野苺も収穫でき、心をほくほくさせながら家へと折り返すと、空に大きな虹がかかっているのを発見した。
「綺麗だなあ」
よく見ると、その虹は白一色。とても珍しい現象を目の前に「いいことが起こる前触れだな」と確信。さらに太陽が煌き、優しい光で僕を包むから、手をかざしながら薄目で光源を眺め感謝する。とても神々しい瞬間だった。
今日のお昼は大好きな山菜うどんにしよう、そんなことを考え歩いていると、遠くから人の声が響いてきた。しかしここは神域、人が来れる場所ではない。不思議に思いながら声の居場所を突き止めようと見回すが、他人の気配は全くない。その声は、空から降って来ていた。
「そこの人ぉ―――っ!!受け止めてえぇぇーーーーっ!!!」
「えっ!?受け止めっ……えっ!!??」
慌てて籠を置き、落下予測地点まで全速力で移動。微調整を繰り返しながら両手を広げ、見事に謎の人をキャッチすることに成功した。爽やかな黄色の衣装に身を包み、身軽で小柄なその人は、僕に横抱きにされたまま安堵のため息をついた。そして突然たんぽぽのように明るい笑顔に切り替えて勢いよく話始める。
「ありがとうっ!助かったのだ!早速だが名前を教えてほしい、命の恩人くん」
「え、僕?」
「そう、“僕”だ!」
「あ、はい。福介です」
「うむっ。ではあらためて、ありがとう福介!自分はぴよまる、よろしく!」
彼は足をバタつかせ、そして僕の首に両腕を回して嬉しそうに笑っているが、こちらは頭の中が疑問符だらけになっていた。ここは神域なのに。人には僕の声が聞こえないはずなのに。
「……あの、ぴよまるさん。なぜ人であるあなたがここに?」
「君は面白いな。ぴよまるは鳥だぞ?人は君だろう福介」
「え……?」
「……え?」
「「えええぇぇぇーーーーっ!!??」」
僕らは人になっていた。
***
歩き方がおぼつかない彼を背負い、ひとまず僕の家に向かう。お互い頭を冷やして、冷静に現状把握と今後の対策を練らねば、そう思った。帰宅すると、彼は物珍しそうに室内を観察したのち、ハッと何かに気づいた様子でこちらに振り向く。
「福介!どうなっているのだ!?ぴよまるは鳥だな?そうだな!?」
彼は明らかに涙を我慢しながら、僕からの「君は鳥だよ」の答えのみを待っている。だけど、ごめんね。今の僕に言えることは。
「あったかい緑茶でも飲んで、少し休もうか」
「緑茶……?」
期待した答えとは異なり若干の落胆を見せるものの、緑茶にも興味を示すぴよまるくん。案外、いや印象通りに真っ直ぐで素直な子かもしれない。温かい緑茶を手に、2人して椅子に座る。彼は「熱くて飲めないのだ」と口を尖らせている。
「ぴよまるくん。どうやら僕らは人になっちゃったみたいだね」
「そうかもしれないな」
「うん。それで、隣の山に、仙人って呼ばれる生き字引のような鬼がいてね。お茶を飲んだら、僕らを元に戻す方法を聞きに行ってくるよ」
「ぴよも一緒に行く!」
「ありがとう。でも結構遠いけど、大丈夫かな?」
彼は「もちろん」の言葉を喉元で止め、代わりにため息をついてその両手を見下ろした。
「ぴよの羽は手になったから、もう空を飛べない。けど、足があるから、福介と一緒に地上を動けるぞ。ぴよが一緒の方が、嬉しいだろう?」
「うん。そうだね。じゃあ一緒に行こうか」
神様になってからずっと、この山間に住む鬼は自分ひとり。それが当然で普通だったから、ひとりであることすら意識に上らない。こうして歩き慣れた山道を誰かと並んで歩く日が来るとは、夢にも思っていなかった。
そして早速、仙人のお社を目指す。ぴよまるくんは意気揚々と玄関を飛び出し、すぐにヘロヘロになった。おんぶしようかと提案したが、彼は「自分の足で進む」と頑なに拒み、途中で野苺や花の蜜を口に含んで何とか元気を継続させている。僕のペースだと片道1時間程度で到着するのだが、その倍とほんの少し長くかかってようやく辿り着いた。疲労困憊ですでに半分目を閉じているぴよまるくんを応援してから、僕は社頭の鈴を鳴らす。しばらくして、静かな足音がやって来て社殿の扉が慎ましやかに開かれた。
「やはり来たか」
意味深長な微笑みを浮かべ、奥へと誘う仙人。僕らは大人しくそれに従い、奥の間で向き合って座る。隣のぴよまるくんは正座ができないようで、ちょこんと体育座りで仙人を凝視している。どうやら仙人の目元を覆う布と、そこに描かれた猪目模様に興味をもったらしい。その好奇心で満たされた瞳はまるで子どものように初々しいのだが、やや仙人に失礼なので注意しようとしたとき。
「
「ん?布をしているのに、ぴよが見えるのか?」
「まあね。私の目は何も見えないが、心で感じ取れるのだよ」
「……」
ぴよまるくんは僕を仰ぎ見て、視線のみで「この人は何を言っているのだ?」と訴えかける。そのやり取りさえお見通しなのか、仙人は悠々と笑って言った。
「わかりやすい御仁だ。さてさて、用件を聞こうか。この私を訪ねるということは、余程お困りなのだろう?」
引き続き仙人の観察をするぴよまるくんをよそ目に、僕は説明を始める。
「はい。あの、僕らいつの間にか人になってしまったようで。本来、僕は神様…の端くれで、ぴよまるくんは鳥の・・・」
「ただの鳥じゃないぞ。ぴよを見た者に幸運を運ぶ、“幸せの黄色い鳥”。まあ、神様ではないけど」
「だそうです。あの、どうやったら元の姿に戻れるでしょうか?」
「そうさな。お二人とも、人化する前に、白い虹を見なかったかい?」
「見ました」
「見たぞ」
「やはりな。それはただの虹ではない。幻の虹と呼ばれるものよ。数千年に一度出現し、選ばれしもののみが目にすることができるという、白い虹だね」
「選ばれた?でも、僕にとって人化は喜ばしいものではありません。それは呪いの一種でしょうか?」
「受取手、つまり君次第さね。従って、それは不幸の呪いにも幸運の魔法にもなり得る。君はどちらにしたいかな?」
もちろん幸運の魔法を選びたいけれど、現状からして、呪いにしか思えない。僕には神様として与えられた役割がある。けれど人と成り神力が封じられた今の僕に、どんな価値があるというのだろう。守るべきものを守れぬ神、その存在意義は。
頭の中が自己批判で満杯になる僕を、ぴよまるくんは微笑んで励ました。
「大丈夫だぞ福介。ぴよがそばにいる限り、君は不幸にはなれない。ぴよは幸せの黄色い鳥だからな」
「うん……」
だけど今の君は、なんて、口が裂けても言えない。
「先の続きになるが、白い虹は選ばれしものに最適な変化を与え、ちょうど33日後に再び姿を現して無効化を行う。解除の虹を目にするその刻まで、自由にするがいい。試練と思い呪いにするのも、好機ととらえて魔法にするのも、君たち次第だ」
***
ぴよまるくんを背負い、陽が傾き始めた道を帰る。その途中、普段はしない独り言が勝手に口をつく。
「……33日か……」
「10年でも1年でもなく、33日だぞ。何がそんなに心配なのだ?」
「ぴよまるくん、僕はね、人々を厄災から守護する神様なんだ。毎朝お祈りを捧げることで、かけがえのない命の存続を確約し、平穏無事な時間をこの世界に定着させているんだよ。でも人である今の僕に神力はなく、祈っても人々と繋がれない。お祈りが届かない。僕には何もできないんだ」
「じゃあ、福介がいなかったら、人々はみんな死んでしまうのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
「ならばこの33日間は他の神様にお祈りを任せて、福介はお休みすればいい。息抜きして、たくさん笑うといい。ぴよは、眉間にシワを寄せた神様より、ニコニコした神様に見守られたいぞ」
「……」
「それに、毎日人のために頑張ってきた福介なら、突然お休みしたってみんな笑って許してくれるはずなのだ」
「みんなって言っても、ここには僕しかいないから」
「え!友達は?家族もいないのか?」
「いないよ」
「それを早く言って欲しかったのだぞ福介。いや、今日から君はふくまるだ!」
「福介だよ?」
「いいや、ふくまるが良いに決まってる。ぴよのことは兄と呼ぶといい」
「あ、僕は弟なんだね?」
「うむっ!頼れる兄ができて嬉しいだろう、おめでとう!」
「ハハハッ。ありがとう」
「うむーっ!」
言いながらぴよまるくんは僕の頭をめいっぱい撫で、そして突如睡魔に負けた。
僕は静かに歩きつつ思う。一気にたくさんのことを考え過ぎて疲れたので、今日のところはもう悩むのはやめにしよう。虹の33日間がどうなるかわからないし、これが呪いになるか魔法になるか見当もつかない。だけど明確なことがひとつだけ。
虹は、僕に小さなお兄ちゃんをくれた。