作中劇:桃太郎の正体part1

文字数 1,568文字

じゃあ手短に済ましていこう。
桃太郎の出身地は、はっきり言って解らない
え?どういうことだ?
どういうこと、も何も、君だって昔話の読み聞かせくらいしてもらったことがあるだろう。
全ての昔話に共通している文章があるのはわかるかい?
めでたしめでたし?
めでたいのは君の鉄筋コンクリートみたいな発想力だ。
むかしむかし、あるところに〜だよね。
そう。そして桃太郎も導入部は全く同じだ。
物語の舞台となる場所についての僕らが知ることができる情報は「遠い昔のとある場所に、あるおじいさんとあるおばあさんが居た」程度さ。
なるほどなぁ、それなら全く特定はできないな。
しかし、その場所ぐらいなら決定できる方法がある。
その昔話の出自がどこにあるかを調べればいいんだ。
情報元が判ったら、そこが昔話の誕生地であるわけか。
で、桃太郎の昔話の出身地は何処なわけ?
全国だ。
……え?
日本各地で、各々桃太郎を語り継いでいるんだよ。
一つの話が列島に広がっていったってことか?
そう考えるのが、僕としても妥当だと思うが、その発信源が解らないんだ。
つまり、「桃太郎」という昔話の原型は結局分からないからね。
へぇ、そうなんだ。
僕らの知ってる桃太郎がオリジナルじゃない、なんてビックリだね。
例えば、今や有名だが、ひと昔前は「桃を切ったら桃太郎がいた」ではなく「桃を食べて若返った老夫婦が産んだのが桃太郎」という話が主流だったしね。
それはまた生々しい……。
夢も希望もあったものじゃないな。
昔話に夢も希望もないさ。グリム童話と通じるところがないでもないのだ。
水ちゃんは全国に桃太郎の昔話があるって言ったよね?
全部均一ってわけじゃないでしょ?
そうだね。
僕が覚えてる範囲では「鬼退治に行かない桃太郎」とか「川から桃太郎が直に流れてきた」とかもあるらしい。
最後のは桃太郎のネーミングすらも似合わないな。桃出てこないしさ。
そもそもなんで桃なんだ?りんご太郎とかみかん太郎はいないのか?
いない。みんな桃太郎なんだね。
「むかしむかし」において、桃は神秘的な食べ物だったんだ。不老長寿とか、不死とかを連想させるような、ね。
じゃあやっぱり岡山じゃないのか?
清水白桃が特産品だし。
バカ言え、桃なんてどこでも取れるし、岡山を特別に扱う必要はない。
それで水ちゃん、「きびだんご」ってのは桃太郎とどんな関係があるの?
三匹のお供を魅了した「きびだんご」ということだが、君たち「きびだんご」を漢字で書いてごらん。
きび団子by佐伯

吉備団子by百田
まず佐伯くん、「きび」を諦めるな。採点不可だ。却下。
いや、見たことないんだよ、きびだんごの漢字って。
それは君が無知なだけだ。自分が無知なことくらいは知っておきたまえ。ソクラテス未満だぞ君は。
ソクラテスとかいう空前絶後のハードルは廃止してくれませんかね。
百田くんのは、採点するとしたらそうだなあ。
うまく企業のプロパガンダに乗せられたってところだね。
どゆこと?
これはある種の掛詞になってるんだ。予想はつくだろう?
……。
あぁ、「黍」か。
はぁ、材料の名前か!
「黍から作るきびだんご」と「吉備で作るきびだんご。」
お後がよろしいか聞く勇気は僕にはないが、元の名は前者だね。
それを岡山の業者が文字って「吉備団子」にしたわけか。
岡山は黍の産地だから、桃太郎と関係ないこともないが、これも桃と同じくどこにでもあるからね。
ふーん。
まとめると、俺が桃太郎岡山出身説の根拠とした昔話に出てくる名詞「きびだんご」、「桃」は岡山だと限定する証左にはならないってことか。
そういうことだ。
ま、岡山銘菓「きびだんご」の販売企業からすると、君みたいな客は理想的なんだろうがね。
日本に輸入されたバレンタインデーの風習と一緒か。
そう言えば努ちゃんは何もらったの?
水橋、次の話に移ってくれ。
それがよさそうだね。
次は伝説の話だ。
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