後日談劇(やっぱり蛇足)

文字数 868文字

第一に、俺こと佐伯努が後日談として語るべきは、俺のチョコレート事情だろう。
結論から言ってしまえば、いや、これは始めっから言っていたことだが、俺はチョコレートなど手に入れられなかった。
0、ゼロ、零。
それが今年度バレンタインのスコアであった。
よりによって俺のクラスの女子が閉鎖的すぎるんだよ。
水橋にこぼしたこの愚痴は、負け惜しみみたいなものであるが、事実、他のクラスではなんの関係もないクラスメイトにチョコを配りまくる女子がいたらしい。
しかし、俺の憎しみに水橋はこう答えた。
昔話と一緒だよ。バレンタインも儀式さ。もらえるもらえない、ではなくて、チョコをもらう、もらわれることで、何が伝えられるか考えたまえ。
一つの答えは「愛」だ。
配りまくったらしい女子とそれを受け取った男子にとっては「人格」と「名誉」だろう。
人の在り方が十人十色である以上、物事の伝え方も受け取り方も多種多様なわけで、昨日の話では伝説や昔話が、一昨日の話ではバレンタインがその方法として使用されたのだ。
だから、どんなに少なくても、はたまた、どれ程多くても、チョコレートの数なんていうのは語れば語るほど瑣末な話である。
「大事なのは中身」
これは、もらったチョコレートが美味しかったとか見栄えがするとかのことを指しているんじゃない。
チョコレートとは供物で、その受け渡しの中でこそ生まれる感情にバレンタインという儀式の価値があるのだ。
もっとも、一つももらってない僕が、つまり敗残の将が語る言葉など聞き苦しくて仕方がない。
チョコレートをただのお菓子として考える百田、真意不明由来怪奇のチョコレートに若干怯える水橋、バレンタインを少女に捧げた倉山の三人は、彼らを羨む俺の気持ちはわからないだろう。
でも、まあ、どんなに頑張っても煩悩も本能も抑えられないのが動物の性だったりする。
来年も、俺は貰いそびれたチョコを探して机の中をまさぐるはずだ。もしくは(逆効果であるが)女子の方をチラチラ見るだろう。
いつかもらえるチョコレートのために。
そうじゃなきゃ人生やってられねえっての。
めでたしめでたし
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