第6話

文字数 737文字

その修練の仕上げ、僕らはセックスキャンプをした。
場所は南信州平谷村。
そこに4WD専用の貸し切りフリーサイトを準備していて、モニターとしてタダで使わせてくれる場所を見つけた。
ていうか、松さんが見つけて勝手にセックスキャンプを企てた。
その頃には男女としてより、なんだか一大プロジェクトに挑むバディーみたいな変な信頼関係が出来上がっていたから、僕ものこのこ付いて行った。
それが間違いだったのかもしれない。
キャンプ場を管理していたのは、料理 畔という飲食店を経営している人物だった。
せっかくだからそこで受付がてらに飯を食おうと、僕らは8000円のディナーコースを予約した。
双葉紫明。
そう名乗るオーナー。
前歯がへこんでて、敗北者臭が漂う。
彼がしどろもどろな説明をして、「じゃあ、頑張ります!」とキッチンへ引っ込み、奥から「わあ、チクショー」とか、「ドシャア!」とか「あれ?マジか!」とか聴こえて来る間、松さんは「彼、セクシーね」。
女って、わからないや。
しかし、料理は美味しかった。
季節は夏。
しかし、チチタケという、紫明のふるさとのソウルフード的なきのこで出汁をとったそうめん。
食べた事がない味。
炊きあがりにこだわったイセヒカリと云う自然栽培米に、なんだか忘れたけど品種や飼い方にこだわった豚や鶏。
それを炭火で焼く。
渓魚は自然環境を舞台にした産業で人工物だ、という持論を展開して出された聞いた事もない名前の海魚のお刺し身。
紫明は昔は良い男だったのかもしれない。
しかし、くたびれた小さいおっさんだ。
松さんにヤキモチとか、ないけど、あれだけふたりで切磋琢磨して来たんだ。
なんだか悔しいな。
テントに帰ると、そんな経緯もあってか僕のテントもその細い支柱を真っ直ぐに伸ばして、しっかり張っていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み