第5話 Accident

文字数 602文字

 この技術は妊娠と出産という、これまで女性だけが強いられてきた負担を消滅させることになった。これで真の意味での男女平等が実現できる。雉田博士は時の人となり、猿渡の第三次改造内閣では文部科学大臣に登用されることとなった。そして五年後、犬尾が首相になる。

 そのころまでに桃型人工子宮は爆発的に普及した。利用にあたり、女性の卵細胞は前もって採取され保存しておくので、月経すらも止めてしまって構わない。毎月の苦労ももはや味わうことなく、性行為は完全にレジャーと化した。もちろん男性の精巣も同様に処理される。つまり精液には、精子が入っていない。もはやレイプで妊娠などという事件は消滅した。
 男らしい体つき、女らしい体つきが欲しい場合は、生殖細胞を増殖させないよう仕組んだ性ホルモンを投与する。人工授精の段階で男女の作り分けは容易である。世界の多くの地域では女性を作る方が人気だ。桃型人工子宮に入れる精子は冷凍保存された数世代前のものも流通しはじめた。

 それから更に一世紀ほどが過ぎた。桃型人工子宮は一斉に管理され、人間は工場で誕生するものになった。そしてある日、地球に隕石が落ちた。時空に歪みが生じ、一つの桃が消えた。

 千年以上の時を遡り、ある田舎の小川に、その桃型子宮は移動した。

 その小川でおばあさんが洗濯をしている。そして、見つけた桃を自宅に持ち帰った。芝刈りから帰ったおじいさんにその桃を見せ――。

 【了】
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