第4話 Ceremony

文字数 935文字

 首相は桃型の人工子宮に満足しているようだった。雉田は安堵した。一方では、女性に受け入れられない可能性を考えなければならないと思った。少なくともこの場で犬尾大臣の支持を得ておかねばなるまい。犬尾を納得させられなければ、世の女性に選ばれる可能性は限りなくゼロに近い。そんな気がした。
「桃には、人間の臀部を思わせる縫合線がある訳ですが、ここが割けることで新しい生命が誕生する、というイメージですね。実際、卵から雛が出てくるような誕生の仕方ができる訳ではないのですが。いや、いずれそのように仕組んでいくことは可能かもしれません。この場合は、出産のみならず、ある程度までの子育てを人工子宮内でやってしまおう、ということになります。子育てからの解放を実現することになりますよね。どうですか、犬尾大臣?」
「確かに、そういうことになれば、ね。でもそれって、本当に大丈夫なの? そんな桃の中で、人間がまともに育つなんてこと、あるのかしら?
「よくぞ聞いてくださいました、大臣。猿渡総理にも是非お話したかったのですが、実は既にそちらの実験にもある程度成功しているのです。現状、この桃型子宮を外から割ることで胎児を取り出します。ここは儀式的に盛り上げる方がやはり生命を綿綿とつなぐために良いと思っています」
「なるほど、科学者や技術者というのは、そこまで考えているものなのだな」
「ライフイベントとしては非常に重要な意味を持ちますからね。夫婦そろってこの桃に入刀することで、新しい生命が誕生するのです。まさに夫婦の共同作業」
「雉田くん、なんだか怪しいセールスマンのような面もあるんだな、君は」
「恐縮です」

 猿渡と雉田との掛け合いを聞きながら、犬尾が疑問を投げかけた。これは夫婦の精子と卵子を取り出して、この桃型子宮に入れるのよね? その点を雉田は簡単に説明した。採取した精子と卵子をシャーレに載せ、人工的に受精させる。その受精卵を桃形の人工子宮に植え付ける。それは即ち、妊娠出産のみならず、性行為すら次世代を生み出す過程から締め出すことを意味している。犬尾の疑問はさらに深化するが、雉田の考えはそこに至らない。自分が作り出した技術で人類が救われるのだと固く信じているのだから、当然と言えるだろう。
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