古びたラーメン屋

文字数 597文字

 テレビや雑誌に取り上げられたラーメン屋に1時間も並んでいるような奴らは俺から言わせればまだまだビギナーだ。
 俺くらいになってくると、嗅覚というか直感で、その良し悪しがわかる。そんなわけで、俺は路地裏にある「ラーメン野郎」の暖簾(のれん)を潜った。
「いらっしゃい」老夫婦が年に似合わぬ威勢の良さで出迎える。
 メニューはラーメンとチャーシュー麺の二種類のみ。
「合格」俺は心の中で呟いた。やたらメニューの多い店を目にするが、あんなのは自信のなさの表れだ。
 店は古いが清潔だ。「合格」
「チャーシュー麺」俺は女将に言う。
「あいよ、チャーシュー麺一丁」
 850円と言うのも良心的だ。なぜか世間の奴らはラーメンの価格設定にやたら厳しい。1000円になると高いと言うくせにパスタの1500円には何も言わない。どう考えてもそっちの方が原価安いだろ。
「へいお待ち」大将がチャーシュー麺を差し出す。
「ん?」
 スープに大将の親指がどっぷり浸かっている。「不合格」
「ちょっと大将、指はいってんだけど」俺はたまらず言った。
「ああ、大丈夫。ちゃんと洗ってるよ」こともなげに大将は言う。
「そう言う問題じゃないだろう」俺は思わず大声を上げる。
「うるせえな、お前は素手で寿司を握るなってクチか!」大将がキレた。
 頭に血がのぼった大将はふらつき、女将が肩を支えて言う。
「あんた早く病院に」

俺はラーメンに入っている大将の親指をレンゲで掬った。
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