第6夜
文字数 994文字
不思議な静けさに満ちているその場所は、妖艶な蒼白い闇に支配されている領域でした。
改めてミュウミュウの毛並みを見直してみると、元々は純白で、それが蒼白い闇を吸い込んで、仄かに発光しているようでした。
そうして、地平線まで遥かに見渡せる広大な空間には、美しい花々が咲き乱れているように見えました。
ただし、茎の先端で微かに揺れているのは、薔薇やガーべラなどではなく、様々な顔立ちをした女性達の頭部でした。
そして、彼女達は一人の例外もなく、瞼を固く閉じているようでした。
彫りの深い西洋風の顔立ち。
個性の強い東南アジア風の顔立ち。
肉厚な唇が特徴的なインディアン風の顔立ち。
あっさりした上品さが際立つ東洋風の顔立ち…‥。
月の庭には、世界中から集められた夥(おびただ)しい美女の頭部が、所狭しとひしめいていたのです。
「これが…‥夜顔? 変わってるんだね…‥。
でも、この花達が開いた時って、どういう状態のことを言うの?」
『それはですね、彼女達の瞼が、一斉に開いた瞬間です。
そして、それは同時に、あなたの中の女性性が、完全に花開く時でもあるのです。
こちらでは、そのタイミングに合わせて、あなたを月の庭にご招待しているのですよ』
その時、私の気を引くようにして、一陣の風が吹き抜けました。
淡い色合いの髪や濃い色合いの髪、そして緩くウエーブの掛かった髪や、ストレートの髪の毛などが、彼女達の蒼褪めた頬をなぶっていきます。
まるでそれが開花の合図だったかのように、彼女達の瞼が、ゆっくりと見開かれていきました。
そうしてそれと同時に、私の胸の内には、穏やかな波のようにひたひたと流れ込んできたエネルギーがありました。
それは、一言で言えば、母性と名付けられるような、温かくたおやかなエネルギーでした。
彼女達の開花が促されるほどに、幻惑されるような麝香(じゃこう)の香りが、月の庭一杯に広がっていきました。
・・・・・・・・・・・・・・・完
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